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4章 兆し。その1 『ブラックウイッチ』須藤玲子(上)

 大槻ゆんが収監されている静岡県浜松市東区天龍川町の『魔法庁特別収容所』にもう1人の魔法少女がいる。


『ブラックウイッチ』こと須藤玲子だ。


 正確な数は把握できていないが『バルザイ戦争』の時に何名かの魔法少女が『ネクロノミコン騎士団』の元へ走った。

 その多くが戦いの中で命を失うか行方不明となった。


 捕らえられたのは『ブラックウイッチ』ただ1人である。


 彼女は悪堕ちした魔法少女の中でも特に目立った存在だ。


 単純な物的被害だけで20億円を超えるといわれる。

 また、彼女の人の心の負の感情を増幅させる能力によって被害を受けた人の数はまったく把握できていない。


 精神攻撃だけでなく『瑠璃色スピードスター』の瀬名るいと渡り合えるだけの戦闘能力も持っていた。


 彼女が存在しなければ『バルザイ戦争』は早期に終了したのではないかとも言われている。


『スルー ザ ゲート オブ ザ シルバーキー作戦』の時に『瑠璃色スピードスター』と死闘を繰り広げ、最終的に気絶してそのまま捕らえられたのである。


 彼女は『魔法庁特別収容所』に収監されることになった。


 何枚もの書類にサインをして、彼女への面会は認められた。

 面会場所として指定されたのは地下のボイラー室である。


 誰かに強制されてそこにいるのではなく、自分の意志でそこに閉じこもっているのだという。


 ボイラー室に入った瞬間、目に飛び込んできたのは、ボロボロに切り裂かれたゴシックロリータの服を着た、15歳くらいの少女の姿だった。


 彼女は天井から垂れた鎖に両手を拘束されていた。


――いったい誰にされたんですか? こんな拘束は明らかに法律違反です。すぐに人を呼びますから……。


(冷ややかな目で)


須藤 バカが、慌てるな。これは自縛だ。


――じばく?


須藤 自分で縛る、と書いて自縛だ。

 これは俺が自分でやったんだ。


――……どうしてそんなことをしたんですか?


須藤 そんなこともわからんのか?

 俺は捕らわれの魔法少女なんだぞ、触手系の化物のいる檻にぶち込まれるか、所員の慰み物になって当然だろうが。

 ここの連中はファックする度胸もないみたいだな、ファック!


――そういうことをする所員はいないと僕は思いますが。


須藤 はっ!

 せっかく魔法少女が魔法を使えない状態で転がされてるのに、手を出す勇気もないふにゃけた野郎どもってだけの話だろ!

 ファックしてみせろ! あん? ファックだよ! ファック!


「本心を見せないためなのか、もしくは相手を混乱させるためのか、彼女の言動は常に演技がかっていた。拘束する鎖や服装も彼女の演出の一部だと考えて間違いないだろう」


須藤 こんな真綿で締め付けられるような時間を過ごすくらいなら、ボロボロにされて発狂した方が幾らかマシだろうが、ファック!


――それは一般的な意見ではないと思いますが。


須藤 ファック!


──捕らわれた少女に暴力を行使するのは犯罪です。


須藤 ファック!


──そのような……。


須藤 ファック!


──……インタビューをはじめてもよろしいでしょうか?


須藤 ファック!


──…………。


須藤 ファッキンファックしてみろよ、って言ってるんだよ。わかんないのか? ファックミー(俺を殺せ)できないならファックオフ(出ていけ)だ! ファックダワールド(世界はくそったれだ)! ファック!


──落ち着いてください。


須藤 ふんっ。渡辺だっけ?

 別にあんたが、俺をぶちのめしてくれたっていいんだぜ?

 抵抗できない魔法少女をいたぶってみたくないか? ふふふふふっ、必死に許しを請うまでいたぶってくれていいんだぜ?


――あなたが敵対する魔法少女を捕らえた時も、そのようなことをしたんですか?


須藤 はっ、まさか。他の魔法少女と一緒にすんな。

 俺にはそういう趣味ないんだ。それに、そんなことするくらいなら、自分がファックされた方がまだましだ。

 俺は痛みが大好きなんだ。踏みにじられて、ボロボロにされるのが大好きなんだ。

 ほら、やってみろよ! ファックミー!


――須藤さんが『ネクロノミコン騎士団』に走った理由をお聞きしたいのですが。


須藤 理由?

 簡単におまえの質問答えると思うか?


──インタビューを受けていただける、というお話でしたが。


須藤 受けてやるのはいい。だが、答えるかどうかはこっちが決めることだ。


──はい。それは当然のことだと思います。須藤さんが『ネクロノミコン騎士団』に何らかの形で共感したからではないかと、僕は思うのですが、違いますか?


須藤 共感?


──『サンシャイン・レッド』の澁澤すくねさんは悪堕ちしたいという希望があったそうです。


須藤 へ~。ファッキン面白い話を持ってきたな。俺は精神を操れるんだ。目の前で告白してくれれば、すぐに落としてやったのに。


──澁澤さんは、死を美化する感情がなければ悪堕ちできないのではないかと言っていました。それについてはどう思われますか?


須藤 はははっ! ファック! まさにファックだ。

 死の美化か。お耽美な妄想にファックされた脳で想像力を膨らませた答えだな。


──違いますか?


須藤 ファックオフ!(出て行け!) そうやって、俺を誘導しようとするのはやめるんだな!


──僕は質問に答えて欲しいだけです。


須藤 ファックユアセルフ!(反省しろ!)

 質問に答えて欲しいなら、そういう雰囲気をちゃんと作ったらどうなんだ、渡辺さん!


──雰囲気ですか。


須藤 まぁ、いいよ。特別だ。答えてやる。死を美化するか……。ふふん。

 大きな意味では間違ってないだろうな。いい線をついてはいる。

 答えに触れはいるが、意味を分かって言ったわけではないのだろうな。


──どういうことですか?


須藤 そのファッキン足りないの脳を少しは使ってみたらどうだ?

 死を美化する、という理由で『ネクロノミコン騎士団』が生まれるか? 魔法少女達はそれに参加したいという強い気持ちを抱くことができると思うか? そこまで狂ったファッキン少女がいると思うか?


──確かに集団を形成する理由としては弱いと思います。つまり、死を美化する、というのは思想の一部であって、本質ではないということですね。


須藤 『ネクロノミコン騎士団』は正しいんだ。


――正しい、ですか?


須藤 間違っていることに、自分の魂をかけようだなんて、ファックな脳味噌の人間がいるか?

 正しいことだから、自信をもって戦えるんだろうが。


──その正しさを証明するために、この世界に攻め込んできた、ということなのでしょうか?


須藤 そういうことになるな。


──その正しさとは何なのでしょうか?


須藤 あっはははははは! おまえは何も知らずにあの戦争を記録しようとしているんだな。


――僕にはまだわかりません。僕だけでなく、みんなが知らないのです。いろいろな説がありますが、定説はありません。『ネクロノミコン騎士団』と戦った魔法少女達もその理由を知らなかったのではないかと思います。


須藤 ふふふふっ。相変わらず、そんな状況なのか。

 あはははははっ。どういつもこういつもファッキンゲロ野郎だ!


――須藤さんは知っている?


須藤 当たり前だろ!


――尋問された時に『ネクロノミコン騎士団』の正しさについてどうして主張しなかったのですか?


須藤 黙秘に決まってるだろうが!

 俺にだって魔法少女としてのプライドくらいあるんだぜ? 簡単に口を開くわけがないだろうが。

 ふん、黙秘をつらぬいていれば、自白剤をぶち込まれるか、ファックでもされるかと期待したんだがな。

 どいつもこいつも根性ナシだ。ふふふふふっ。

 ……おい。


――なんでしょうか?


須藤 ……もしかして。俺って魔法少女なのに可愛くなかったりするのか?

 そういう魅力がなかったりするのか?

 だからみんな何もしないのか? 

 こんなゴスロリ服だから、みんな引いてるのか?


――そんなことはないと思いますが。法律を遵守しているだけの話だと思います。


須藤 だったら、可愛いと思うのか?


――可愛いと思います。


須藤 そ、そうか。……ふふふふっ、あっはははは! だったら、ここの連中がファッキン腰抜け野郎ということだな(笑)。


「原稿に起こさなかったが、幻惑させるためなのか、インタビューの最中このようなレトリックを多用してきた」


――はい。教えていただけませんか?


須藤 おまえは面白いな。おまえには特別に教えてやる。

 復讐だ。


――復讐? 誰から誰へのですか?


須藤 キサマら人類へのだ!


──人類への復讐? ……ということは、あなたは人類ではないのですか?


須藤 人類はどこから来たか知っているか?


――それは精神的、宗教的な話でしょうか? それとも歴史としての話でしょうか?


須藤 歴史の話だ。おまえらの精神の話なんか知ったことか。そんなものはファッキンくそくらえだ!


──ホモ・サピエンス、という意味ならアフリカだと思いますが。


須藤 ホモ・サピエンス! ファッキンホモ・サピエンス!

  ならば人類の進化樹は多様に枝分かれしていたのを知っているか?

 ホモ・サピエンスの他にも多くの人類がいたんだ。

 ホモ・ルドルフェンシス。

 ホモ・エルガステル。

 ホモ・フローレシエンシス。

 ホモ・ネアンデルターレンシス。

 ホモ・アンテセッサー。

 長い時間の中で、たまたま生き残ったのがホモ・サピエンスだ。他のホモ系は絶滅したとされている。


――それがどうしたんですか?


須藤 ふふふふっ、ファッキン察しの悪い男だな!

 他のホモ系は完全に絶滅したわけではないのさ。


──絶滅していない? しかし、その……どこに存在するのですか? 例えば、僕はネアンデルタール人に出会ったことはないのですが……。


須藤 だからその足りない脳を少しは使ったらどうなんだ、このファック野郎が。

 ホモ・サピエンスに混血したのだ。

 時々、先祖がえりして、長い時間の中で薄まっていた血が濃くなることがある。

 普通のホモ・サピエンスとは違う人間が生まれるわけだ。

 ここまで言えばわかるだろうが。


――…………先祖返りした、ホモ・サピエンスではない人類が、魔法少女だというのですか?


須藤 そうだ!

 ホモ・サピエンスとなる過程で人類は多くの能力を失っていった。しかし、俺達の先祖達は違った。ホモ・サピエンスが失っていった能力を継承し続けたのだ!


――それと復讐がどうつながるのですか?


須藤 ファックユーッ!

 奴らは……お前らの祖先は、俺達の祖先を滅ぼして同化させたんだ!

 考えてみろ!

 おまえらだって、家族を殺した挙句に、おまえの家族などもともと存在しなかったのだ、などと言われたら、どうなる?

 復讐を求めるだろうが!

 おまえらが忘れても、我々の怨念は消えないのだ!


――我々の先祖が、他の人類を殺したことへの復讐をするために『ネクロノミコン騎士団』は生まれたと?


須藤 そういうことだ。

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