3章 終戦へ。 その3 乙ひらく 乙なつみ『マギマギミリミリ』(下)
――作戦ではどのような活動を期待されていたんですか?
なつみ 他の魔法少女よりいろんなことができるから、汎用性? 便利屋としての役割というか……。
ひらく ね~。私らの具現化ってタイガー戦車が基本だけど、兵員輸送ヘリだって、兵員輸送用のハーフラックだって具現化できるからね~。まー、ヘリは相当にがんばらないと無理だったけど。
なつみ そうそう。そういう攻撃以外のとこでの活躍を期待されてたみたい。
攻撃では、タイガー戦車よりMLRSの方に期待されてたんじゃないかな?
――MLRSとは何ですか?
なつみ 多連装ロケットシステム。
凄く簡単に言うとロケットをガンガンバンバン飛ばして、200m×100mくらいの地域を一気に制圧しちゃう怖ろしい兵器。
ひらく 『多目的魔法研究センター』の演習場で試射したら隣のニラ畑まで燃やしちゃって大変だったよね~。謝りに行ったら農家の人にニラ饅頭もらっちゃったんだよね~(笑)。
なつみ そうそう。私らが土下座したら農家の人が慌てちゃって凄かったもん(笑)。
なんか、当時の私らはいろんなことに凄く怯えてたから、土下座せずにはいられなかった(笑)。
あそこ周辺の農家の人って魔法少女にちょっと甘すぎると思うな。凄く優しかったもん。
あ、また話がそれちゃいましたね。
私らに期待されていたのは、みんなの輸送と沢山の化物を相手にした時の面制圧、ついでに言うなら戦車での突破力。状況に応じてなんでもできるってことに期待されたんだと思います。
――生み出した兵器はどのくらいの時間、維持できるんですか?
なつみ それはものにもよりますね。例えば兵員輸送用のハーフラックなら、5人くらい乗せて時速30キロで半日くらい。MLRSだとロケット弾の一斉発射をしたらすぐ消えちゃう。
ひらく でもタイガー戦車なら慣れてるから1日くらい出しっぱなし打ちっぱなしでも平気だよね~。
――消えてしまった後はすぐに別の兵器を生み出せるんですか?
なつみ すぐは無理ですよ~。だって魔力を消費しちゃったから消えちゃうわけで。魔力が回復するまで、えっと……。
ひらく 最低でも2、3時間だよね~。そのくらいたたないと、次の具現化魔法は使えない。
――時空を切り裂いて『ネクロノミコン騎士団』のいる異世界に行ったわけですが、どういった場所でしたか?
なつみ 空が赤黒かった!
ひらく ね~。いかにも悪の本拠地って感じで怖かったよね~。紫っぽい砂漠の向こうに大きな壁があって。あー、あそこに敵の中心人物がいるね~、ってすぐわかっちゃったよね。
なつみ 『スケルツォピエロ』の熊倉ゆみさんなんて「冗談みてーな、悪の城だ」って言ってずっと笑ってたもん。
ひらく ね~。あの冗談やめて欲しかったよね~。川原敏江さんから「『スケルツォピエロ』の冗談は、状況が悪くなればなるほどおもしろくなるんだよ」って聞かされてて……。
なつみ 本当にやめて! って思ったよね。最後の方とか強烈に面白くなっちゃってたもんね。爆笑ギャグなのに全然笑えないんだもん(笑)。
ひらく ね~。あれは凄かったよね~。別にこっちの緊張がほぐれるわけでもないし、どう反応したらいいか困っちゃった。
――異世界はこちらと全然似ていなかった?
ひらく ですね~。私達の世界みたいに広い世界じゃなくて、もっとずっとこじんまりとした異世界で……。
なつみ そうそう。私達の世界を攻めるためだけに作られた異世界だから、城と砂漠以外には何もなかったもん。
――『ブックマスターキタ』を中心に、陽動作戦が行なわれていましたがその効果はどうでした?
ひらく あの陽動作戦凄かったねー。物凄い不思議な光景で。
なつみ そうそう地平線の向こうが明るくなったかと思ったら、横須賀の光景が見えて、くらくらしちゃったもん。
化物の多くはそっちの方に行っちゃったみたい。こっちの主力部隊は、私らが具現化したハーフトラックに乗って、一気に城まで近づいたんだけど……。
ひらく そこまでは楽勝だったんだよね~。『龍華の爪』の楠冬実さんが土魔法で城の壁に穴を開けて、そこから潜入してからが大変だったよね~。まず『ブラックウイッチ』が攻めかかってきて。
なつみ 『瑠璃色スピードスター』の瀬名さんが『ブラックウイッチ』にかかりっきりになってそのまま脱落しちゃって。それから先へ進むほどにみんないなくなって……。
ひらく 『サンシャインレッド』の澁澤すくねさんが脱落した時は結構、ショックだったよね。
なつみ 私達に優しくてくれたお姉さん的な人だったから。この人がいなくなったらどうすればいいんだ~、って。
ひらく ね~。一番奥の結界を壊して中心部にたどりついた時に残っていたのは『パリット』の川原敏江さんと私らだけ。
――中心部はどんな場所だったんですか?
なつみ 東京ドームみたいな空間で、床や天井や壁に複雑な魔法陣が無数に。私達は魔法陣とかに詳しくないんだけど、川原敏江さんは「とんでもない」って言って震えてた。
――何がどうとんでもなかったんですか?
なつみ 全てが召喚魔法用の魔法陣だったらしいんですよ。つまり、その気になれば物凄い数の化物を一気に召喚できる、という。
――召喚魔法を使う敵は、そこにいたんですか?
なつみ いました。髪が長くてスレンダーな背の高い女の子。多分、私達と同じ魔法少女。冷たい顔をして空間の真ん中に立っていて……。
ひらく わけもなく謝りたくなっちゃうような威圧感があったよね~。とにかく、今、召喚魔法を使われたらまずいというのでMLRSを具現化させて、先手必勝の一斉攻撃。でも半分くらいの魔法陣しか壊せなくて。残った魔法陣から化物がぞろぞろ……。
なつみ 蜘蛛の孵化みたいに、わらわらわらわらわらわら、って。
それまでタイガー戦車を具現化させたり、ハーフトラックを具現化させたりしていたら私らの魔力は0。ここまで頑張ったのにもうダメなのか……って思ったら。
ひらく 突然、川原敏江さんに順番にキスされた。そしたら魔力が少し復活。
なつみ ね~。自分の魔力を分けてくれたんだよね。光魔法ってあんなことできるんだから凄いよね~。私達に魔力を与えたらそのまま川原敏江さんは倒れちゃって。
ひらく あー、もう、これは本当に最後だ。せっかく川原敏江さんがくれた魔力だから、私達がやるしかないんだもん、ってハイテンション。
なつみ ね~。周りが化物だらけなのに、無我夢中で走ったら、髪の長い女の子の目の前にいて……。
ひらく そこでタイガー戦車を具現化させようとしたんだけど……2人とも右腕が砲身に変身しちゃって。
私達って変身せずに具現化魔法を使っていたから、変身したのってあれがはじめてで。
なつみ 右腕が88ミリ砲もどきになるなんて、中途半端な変身だよね~(笑)。でもこれでどうにかなるって確信はあったよね~。
ひらく そうそう。砲弾もないのに何を打ち出すのか2人ともわかってなかったけど、とにかく女の子の胸に砲身の先端を押し付けて、そのまま文字通りの意味での零距離水平射撃。
――何を発射したんですか?
ひらく ……んと。その……生命エネルギーみたいなものなのかな?
なつみ 私達の命そのもの、みたいな感じはしたよね~。あ、寿命が縮んだ、ってわかったよね~(笑)。
ひらく そういうことハッキリ言うと渡辺さんが引くでしょ。でも、そんな感じ。まぁ、もし命が半分になったとしても、私らは2人で1人だから。
なつみ そうそう。半分でも1人分はキッチリ生きたってことになるから、まっいいか~って感じだよね~。
ひらく 『ネクロノミコン騎士団』は酷い集団だし、私達が倒さなかったら、もっと大勢の人が傷ついたとは思うけど……。
なつみ だけど人を1人殺しちゃったんだから、2人の命が半分になって1人分で、それでバランスが取れるのかなって……。
ひらく もちろん、後悔なんかしてないし。勝てたのは嬉しいし。だけど、そういう気持ちもしっかりと持って生きていかないといけないような気はしてます。
なんか、誰が相手でも、傷つけちゃった重みみたいのはずっと感じていたいなって思うんですよね~。
この戦いの後『ネクロノミコン騎士団』の活動は停止した。3ヶ月後『魔法庁』は『バルザイ戦争』の勝利を宣言。
魔法少女達にとって史上最大の戦いは幕を閉じた。しかし魔法少女達の多くは今も『バルザイ戦争』の影を引きずりながら生活を送っている。
インタビュア/渡辺僚一




