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2章 バルザイ戦争開戦。その5  奥泉りこ『星空少女昴(スバル)』(下)

―『ネクロノミコン騎士団』の化物と遭遇したんですよね。


奥泉 1月21日です。

 私にとって不運な出会い方でした。人気のない海岸沿いの道をカブで走っていた時に、急に頭が割れそうなほど痛くなったのです。

 一度も感じたことないのに、すぐ近くで次元の裂け目ができているんだ、ってわかりました。

 何キロか先にある裂け目なら、落ち着いて携帯で『マジ』に連絡できたと思うのだけど、もう本当に目の前。

 まずは安全なとこまで逃げないと、と思ってカブのアクセルを思いっきりふかしたら、急に前輪が横に滑ってこけてしまったのです。


――怪我はしなかったんですか?


奥泉 咄嗟に具現化魔法でクッションを作ったので、その時は怪我しなかったのです。

 私、痛いのは嫌いなのでクッションを出す具現化魔法は得意なんです(笑)。

 転んですぐに気づいたのだけど、道路が灰色のねばねばしたもので覆われていたのです。そのねばねばが波打つように盛り上がって、私を包み込んできました。

 それ自体が化物だったのです。

 後から知ったのだけど、化物の名前は『イホウンデー』。不定形のスライム状の化物です。ほら、見てください。これがその時の。


(奥泉リコは立ち上がって、長いスカートを膝の上までめくる。露になった脚の一部が、異様に白かった)


奥泉 私ってもともと地黒で、外で遊ぶ子供だったから冬でも日焼けが消えないのです。だけど『イホウンデー』に絡みつかれた場所は漂白したみいに白くなってしまって、戻らないのですよ。夏とか水着で遊びたいけど、肌がまだらになってしまったので、抵抗があるのです(笑)。


──治療はされたんですか?


奥泉 したんですけど……。まー、治んないんじゃないかなって言われてしまったのです。お医者さんにもよくわかんないみたい(笑)。


――『イホウンデー』とは具現化魔法で戦ったんですか?


奥泉 私の具現化魔法は、その対象物をかなり理解していないと出せないのです。だから、観察する機会の多い日常的なものしか出せない。


――そんな状況でどう対抗したんですか?


奥泉 一応、準備はしていたのです。関西の巫女さんの集まりに出た時『破魔の剣』をじっくりと観察させてもらったので、それを具現化させました。

 だけど、相手がスライムだから、斬っても斬ってもすぐにくっついちゃってあんまり意味がない。

 せめて『マジ』に連絡しようと思ったのだけど携帯を出した瞬間に壊されてしまって……。

 もうダメだー、と思いました。私があきらめたってわかったのかな? ダメだって思った瞬間に、全身に絡み付いて、ぎゅうぎゅう、私を締め上げてきたのです。

 このまま死んじゃうのかー、と思った時、閃いたんです。


――何をですか?


奥泉 スバルが大好きだってことなのです。


──スバルって星のスバルですか。


奥泉 はい! スバルをよく観察していたってことを思い出したんです! スバルは星の集合体。その中で一番目立つのはアルキオネ。

 アルキオネのことを思ったんです。

 青色の巨星で大きさは10太陽半径。

 表面温度は13000ケルビン。

 明るさは2400太陽光度。

 自転速度は215キロメートル毎秒。


――ちょっと待ってください。もしかして星を具現化させようとしたんですか?


奥泉 はい。だって、表面温度が13000ケルビンで、215キロメートル毎秒で回転する物体が生まれたら、物理攻撃がほぼ通用しない相手だって、吹き飛ばされて蒸発してしまうはずなのです。


――自分も死んでしまうとは思わなかったのですか?


奥泉 考えませんでした。ただ星を生み出してやるのだー! ということに集中していたから。私の胸のあたりで、強烈な青い光がほとばしった瞬間『イホウンデー』は一瞬で、蒸発しました。

 でも、実際に星を生み出したとは思っていないのです。それは私の……というより人間の力を超越してますから(笑)。


──そうですよね。では、何を産み出したのでしょうか?


奥泉 あの時、何が起こったのか自分でも未だにわからないのです。えっと……これはさすがに見せることができないけど(笑)。胸のところに青色で円形の綺麗な痣が、今も残っているのです。

 だから丸い何かが具現化したことだけは間違いないのです。

 私が願った星のような何かが生まれたんだと思います。


――『イホウンデー』を倒した後、どうしたんですか?


奥泉 全身がバラバラになったみたいに痛くて立ってられなかったので、倒れちゃいました。だけどこのままじゃ、自動車に轢かれてしまう、と思ったので必死の匍匐前進で道路の端っこまで行ったら、仰向けに側溝にピタッとはまっちゃって(笑)。

 疲れてたから、もういいです。私はこのままでいいです! 誰も助けてくれなくてもいいもん! という気分になって、しばらくそのまま空を見上げて、考え事をしてました。


――何を考えていたんですか?


奥泉 どうして『ネクロノミコン騎士団』が攻めてきたんだろうって。私にはいったい何ができるんだろうって。

 ずっと、そのことを考えていた時に思いついたのです。私の魔法は具現化。

 それなら、みんなの幸せだって具現化できるんじゃないかなって。


──幸せの具現化ですか。


奥泉 今、思えば……その……妄想? みたいなものだと思うんだけどバトルが終わった後で興奮していたから、私が願わなきゃ、誰が願うんだって気持ちで。

「みんな幸せになれ、みんな幸せになれ、みんな幸せになれ」ってもう必死に(笑)。

 今やってる受験勉強なんか全然問題じゃないくらい必死に願いながら、具現化魔法を発動させました。


――どうなりましたか?


奥泉 別にどうにも(笑)。

 ……ただ、その……完全に私の勘違いというか、妄想だと思うのだけど、風景が全部、一瞬だけどスバルみたいに綺麗な青色になったような気がしたのです。


──風景が変わった?


奥泉 いや、だから私の幻覚みたいなものだと思いますよ。

 それからすぐに、私がなかなか帰ってこないことに気づいた男の子達が捜しに来てくれて。

 その時って、服はぼろぼろだったのだけど、なぜか全然恥ずかしいとは思わない、というか、恥ずかしいと思えないのが不思議だったな~。男の子達がみんなで私にしがみついて、ボロボロ泣きだしちゃって(笑)。

 それを見てたらなんだか笑えてきたのです。


──何がおかしかったのでしょうか?


奥泉 みんなに心配されてるのって嬉しい事だなぁ、と思って嬉しくて。なぜかそれがおっかしくって(笑)。

 変なテンションでしたね~。

 少なくともこういう幸せは具現化できたんだなって。

 それだけのことか、って言う人がいるかもしれないけど、なんていうか……その……凄い満足で、一生忘れられない時間だったのです。


──魔法少女になったことは後悔してない?


奥泉 後悔……ですか。


(間)


奥泉 後悔はしてます。

 肌は今もまだらなままでいつ戻るかもわからないし、恐い目にあったし、勉強をする時間だって削らないといけなかったから。

 後悔だけじゃなくて……。

 いいこともあったって言うのは簡単だと思うのですよ。後悔してるけど後悔してない、みたいに言うこともできると思うのです。でも、なんだか、そう言うのは自分に嘘をついているような気がして……。


──そうは言いたくない?


奥泉 自分の気持ちに従うなら、言いたくないです。

 魔法少女になったこと、後悔はしてます。

 でも、その……。


(間)


奥泉 みんなに喜んでもらえたりした時間のために、私の後悔があるなら、それでOKかな? という気はしているのです。うん。えっと……本当にそうかな? どうかな?


(間)


奥泉 私が後悔している分だけ、ちゃんと助かっている人がいると思うんです。

 だから、それでいいや、というのが素直な気持ちですね。

 後悔してるけど、その分の見返りみたいのは……あったのかな(笑)。

 うん。そういうことはちゃんと思います。

 投げやりな気持ちではあるんですけどね(笑)。

 後悔はしてるけど、私の後悔することで何かが守れたなら……うん。

 よかったな、って思うのです。



 彼女のように非戦闘系魔法少女でありながら、地域のために戦った魔法少女はたくさんいる。『魔法庁』に所属して華々しく戦った魔法少女だけでなく彼女のような存在にも我々は目を向けるべきだろう。


 特に『魔法庁』に所属する魔法少女と『さわやか魔法少女事務局』に所属する魔法少女との間に歴然とある補償面での差を縮めていく努力が必要なのではないだろうか? 実際、奥泉りこは肌の色を変えられてしまったというのに、治療を受けられずにいる。


 インタビュー/渡辺僚一

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