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2章 バルザイ戦争開戦。その5  奥泉りこ『星空少女昴(スバル)』(上)

 熊本県の天草市は大小120以上の島からなる地域である。人口は約9万人。面積は約700平方キロメートル。これは東京23区とほぼ同じ広さだ。


『バルザイ戦争』で、この地域をたった1人で守った魔法少女がいた。それが『星空少女昴』である。


 現在、高校3年生の彼女は大学進学のため受験勉強に励んでいる。


 インタビューは天草市でもっとも人口の多い本渡町のファミリーレストランで行なわれた。


奥泉 えっと……私はインタビューを受けるようなことは何もしてないと思うのです。本当に私なんかでいいのでしょうか?


──はい。是非、お願いします。


奥泉 そうですか……。先に言っておきますけど私って『魔法庁』の魔法少女みたいに派手な攻撃魔法を使ったりできるわけじゃないのです。

 当時から、友達に「魔法少女っぽくないよね~」なんて言われてましたし(笑)。


――『さわやか魔法少女事務局』からの依頼を受けた、日本の各地の魔法少女達がどのような活動をしていたのか知りたいんです。『魔法庁』の魔法少女達がどのうよな活躍をしていたかはある程度、知られています。しかし、彼女たちの手の届かない場所で戦っていた魔法少女達が何をして、何を考えていたのか知りたいんです。


奥泉 あんまり面白い話はないと思うのですけど……いいですか?


――よろしくお願いします。最初に魔法少女名『星空少女昴』の由来を聞きたいのですが。


奥泉 星が大好きで……スバルって知ってます? プレアデス星団の和名なのですけど、私はその星が一番好き。青くてとっても綺麗なのですよ。

 スバルを望遠鏡で見ていたら急に声が聞こえてきて。「ボクは~、宇宙から~、キミに声を~、届けているんだよ~」って。もういかにも宇宙人って声(笑)。


──その声の主が奥泉さんの伝道師カテキスタだったんですか?


奥泉 はい、そうです。「地球人がどんな人間が知りたいから、キミを魔法少女にする」という今考えてもよくわからないことを言われたのですよ。

 何で私を選んだんだろうとか、いろいろ悩んだのですけど、宇宙人の理屈を理解するのは無理なのだー、とかなり早い段階でいろいろと諦めたのです(笑)。


――周囲からの反応はどうでしたか?


奥泉 両親はオロオロしてたけど、周囲からは割と簡単に受け入れられたと思います。

 天草って、地域振興のために、天草四郎をフル活用しているのです。

 だからそういうのもあって、そういう人を受け入れないとダメ、みたいな空気というか、重圧みたいのがあったのだと思うのです。


「島原の乱を起こした天草四郎が魔法を使う少女だったという説がある。信憑性については微妙な所だが、地域によっては古くからそう言い伝えられているようだ」


――天草地方にいた魔法少女は奥泉さんだけと聞きましたが『バルザイ戦争』の時、大変ではありませんでしたか?


奥泉 う~ん。大変といえば大変だったのかな? 実は、関西の巫女さんの集まりに顔を出したことがある以外では『魔法庁』の九州エリアのエースだった『スケルツォピエロ』の熊倉ゆみさんに会ったことがあるだけなのです。

 他の魔法少女の方々がどうしていたのか、ということをあまり知らないのです。だから比較してどうだったのか、というのは言えません。


――1日のスケジュールはどんな感じだったんですか?


奥泉 普通に起きて、普通に中学に行って、放課後は家に帰らずに、島内を巡回してました。


――島内の巡回は、飛行魔法で?


奥泉 いえいえ(笑)。そんな高等魔法、私には無理ですってば。

 私は具現化魔法しか使えないのです。スーパーカブって小さなオートバイ知ってます?

 私が生まれた時から家の納屋の裏に、何気なく放置されてたのを近所の幼馴染の男の子達がよってたかって、直してくれたのです。それに乗って見回りしてました。


――当時は中学生ですよね? 免許の問題とかは?


奥泉 それなら問題ナシなのです。『マジ』(『さわやか魔法少女事務局』の略称)から警察手帳みたいな『魔法手帳』をもらっていて、それを提示すれば、無免許運転もOKでしたから。


「『魔法手帳』は『さわやか魔法少女事務局』が『ネクロノミコン騎士団』の監視活動をする魔法少女と元魔法少女に配った手帳。これを所持している魔法少女に協力するよう、各自治体の警察、消防、病院に『さわやか魔法少女事務局』から通達された」


「『さわやか魔法少女事務局』が独自の判断で発行したもので、法的な拘束力は一切ないのだが、非常事態であったため、なし崩し的に公的なものとして認められた経緯がある」


――でもカブだとあまりスピードが出ないから大変だったんじゃありませんか?


奥泉 そうですか? 直線なら100キロくらい簡単に出ますよ。


――そのカブは相当に違法改造されてたと思いますよ。


奥泉 あっ、そうだったんだ。男の子達がハイテンションで凄く楽しそうにカブをいじいじしてたから、なんか変だ~、とは思ってたのですよ(笑)。

 ……あのカブ、好きだったんですよね。男の子達が悪ノリしちゃって、ピンクと白に塗装されちゃった上に、カッティングシートで私の似顔絵と『星空少女昴見参』の文字がベッタリと貼られちゃって(笑)。最初はかなり恥ずかしくて「勝手なことするな~!」と男の子達を怒鳴りつけたのだけど、乗っていると愛着が沸いてきて(笑)。


――巡回は夕方から夜にかけてしていたんですね。


奥泉 はい。走っていると、おじいちゃんやおばあちゃんによく止められました。

「大変だね」と言ってお菓子とか、デコポンとかくれるのですよ。

 他にもとれたてのタコとかアワビとか。秋にはお米をもらっちゃったりもしたのです。これだけで生活していける? と考えたこともありました(笑)。


――中学生の女の子が1人で夜の巡回をするのは危なくないですか? 人気のない道とか結構、ありますよね?


奥泉 人気のない道? 危ない? えっと……。


──変態的な男性とか。

 

奥泉 ……あ、はいはい。平気なのです(笑)。

 だって、私は魔法少女なのですから、そういうことをしてくる人なんかいませんよ。当時は戦闘系の魔法少女が化物をばったばった倒す姿がニュースでよく流れてましたから。

 怖くて手を出したりなんか絶対にできないのです。

 それに時々は幼馴染の男の子達が付き合ってくれましたし。


――その男の子達も中学生だったんじゃないですか?


奥泉 私の護衛という理由をつけて違法OK~な感じで(笑)。

 言われてみれば、あれはかなりいけない行為だったのかも……。いけないことさせちゃってましたね、私。

 でも、一応、止めはしたんですよ。

 変な旗を振ったり、とっても長いマフラーつけて、うるさくなるように改造した変なバイクでついてきたから「すぐにやめろ」「ついてくんな!」と怒っちゃったのです(笑)。

 そうしたら普通のバイクでついてきてくれるようになりました。


――彼らは奥泉さんを利用して暴走族をしたかったんですかね?


奥泉 暴走族のマネをしてみたかったんだと思うのです。

 不良って感じの男の子ではないのです。みんなで走るなら一度くらい暴走族してみようぜ、という程度の考えだったと思うのです。

 浜辺で流木を集めて、もらったアワビを焼いて食べたりして楽しかったな~。

 あの時は全国の魔法少女達が『ネクロノミコン騎士団』と戦っているって実感が全然なかったのです。テレビの中の話だな~、と。


――いつ頃から実感が出てきましたか?


奥泉 『ネクロノミコン騎士団』は最初、大都市圏にしか出ていなかったのに、中期から地方にも出るようになりましたよね。


「『黒魔術大感染期』(ブラックマジックパンデミック)では地方都市が散発的よく狙われていたが、『ネクロノミコン騎士団』として行動を始めた初期は地方はあまり狙われなくなっていた」


奥泉 『マジ』から届く会報に、化物の接近を感じた時の対処法や、化物ごとの対処法の違いとか、内容がどんどん具体的になってきたので、これは本当に危ないことになっているのだな、と少しずつ思うようになったのです。


──どんなことが書かれていたんですか?


奥泉 覚えているのは「助けは必ず来るので、どんなにピンチな時でも死を意識しないように」「絶対にあきらめないように!」とか。そんなこと言われたら余計に意識してしまうではないか~、と戦慄しました(笑)。

 しかも、具体的な方法じゃなくて、最後が精神論になってしまっているのにも戦慄しましたね(笑)。


──どんどん危険が迫ってくるような感覚があったんですか?


奥泉 ありました、ありました。

 夏が過ぎたあたりからですね。危ないからついて来たらダメだって、男の子達の同行も断るようになって。

 見えない何かがだんだんと近づいてきているみたいで、怖かったですね。

 ちゃんとした何かじゃなくて、漠然とした何か。

 もしかしたら、あの頃の魔法少女達はみんな感じてたのかもって思うのです


――巡回を止めようとは思わなかったんですか?


奥泉 お菓子をくれたおじいちゃんおばあちゃんを裏切るわけにはいかないし『星空少女昴見参』なものですから(笑)。

 あんな目立つカブで毎日毎日走ってたのに、走らなくなったらみんな心配すると思ったのです。結局、天草には私しかいないわけなので。

 良くも悪くも……いや、悪くもってことはないかな(笑)。

 とにかく私がやるしかない状況でしたから、がんばりました。

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