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2章 バルザイ戦争開戦。その3 真樹沢湖『双影の巫女』(上)

 大阪の梅田駅からJRと近畿日本鉄道を乗り継いで45分ほどの場所に喜志駅はある。

 そこからバスで30分揺られると終点の『子姉神社前ねあねじんじゃまえ』に着く。周囲を木々に囲まれた大阪府と奈良県の境にほど近い場所だ。


子姉神社ねあねじんじゃ』は、魔法少女達が修行に訪れることで知られる聖地だ。彼女達を指導するのが『双影の巫女』こと真樹沢湖である。


 彼女は『バルザイ戦争』で活躍した魔法少女達の修行の手助けをしたことで知られている。

 彼女の元で修業した魔法少女達は、ここでの経験が役立ったと口をそろえる。

 真樹沢湖は『バルザイ戦争』の影の主役といえるだろう。

 あの戦争を語るうえで絶対に外せない存在だ。


 19歳の彼女は巫女装束で僕を出迎えてくれた。インタビューは神社に併設された集会所で行なわれた。


――お忙しい所、すみません。


望月 いやいや、来てくれてラッキーやったわ。めっちゃ疲れてたから、渡辺さんのおかげで一休みできるわ~(笑)。


真樹 望月さん。


望月 今日の沢湖さんは長い髪を真っ直ぐにして、巫女装束で清楚な感じに決めてるけど普段はちゃうねんで。

 髪は後ろで乱暴にまとめただけやし、変なキャップかぶって、上は超地味なキャミで、下はおっさんジャージやもん。

 誰も来ないからってあんまりやわ。19にして女を捨てたんかと思ってたけど、男の人が来る時にはちゃんとした格好するんやな~。安心したわ。


真樹 望月さん、黙れ。麦茶と水羊羹を置いて退室。


望月 ええやん。どうせ沢湖さんがおらんかったら修行でけへんし。


真樹 今日のお月様は上弦。真昼でも月の見える日。


望月 え~? もしかして、こんな昼間っから月を想えって言ってるん? 昼の月ってただでさえ目が疲れるのに? しかも、今日は真夏日やで!


真樹 アホ。疲れんと修行の意味ないやろ。四の五の言わずに屋上で月を想ってきたらええねん。さもないと、闇魔法の結界を張った納屋に閉じ込めるで? 


望月 ほんまに沢湖さんは鬼やで。


(ぶつぶつ言いながら、部屋を出て行く)


――彼女は?


真樹 『魔法庁』から預かってる望月ゆうさん。まだ魔法少女名も持ってない、なりたての魔法少女。


――『多目的魔法研究センター』で望月さんと同じ年頃の魔法少女達と会いました。彼女らと雰囲気が似ています。


真樹 明るくて甘え上手な娘さんが多いからね。その一方で、感情表現が極端に下手な娘さんも多いけど。

 どちらにしても、こっちから何かをしてあげたくなってまう性格。

 渡辺さんもあやつらの笑顔にだまされたらあかんで。気づいたら、焼肉パーティー開催したり、ぬいぐるみを買い与えたりすることになるからな。

 あいつらは無意識のうちに笑顔を武器にしよんねん(笑)。


――気をつけます。ところで望月さんに言っていた、月を想う、とはどういった修行なんですか?


真樹 月の欠けた部分を見つめる、それだけの修行や。渡辺さんは地球照ちきゅうしょうを知ってる?


――いえ、知りません。


真樹 月って太陽の光を反射して輝いてるやろ?

 やけど、地球の光も反射しとんねん。正確に言うと、太陽の光が地球で反射して、月を照らしている、ということやけどね。

 月の欠けてる部分をじ~~っと見ると真っ黒じゃなくて、ほのかに青白く光ってるのがわかると思うわ。それは地球の光を反射してるからなんや。


――そこを見つめると、どのような効果があるんですか?


真樹 まず集中力と忍耐力が身につくね。身動きせんと一点に集中するのは、意外と疲労するもんやから。帰りに望月さんに会うことがあったら、疲れてふらふらになっとるとこを見れるで(笑)。

 それと、こっちの方が重要なんやけど、魔法神経を太く強くする効果もあるんや。月は地球の光だけでなく、地球の魔力も反射してるんや。月の淡い部分を見るゆうのは地球の魔力を意識することに繋がんねん。

 それを意識するとせんとでは魔力の使い方に差が出るんや。土魔法を使う人が『龍脈』や『レイライン』を意識するのは知ってるやろ? それと同じことやね。


「正確に定義すると異なる存在だが『龍脈』と『レイライン』はどちらも地表に張り巡らされた地球の魔法神経のようなものである。魔法学的に証明されたことはないが、実在はほぼ確かなものだとされている」


――では、そろそろ本題に入らせていただきます。魔法少女として目覚めたきっかけは?


真樹 ウチは結合双生児やったんや。

 生まれてきた時に、姉の頭部がウチの右のわき腹にくっついてたんや。生まれてすぐに分離手術を受けて、姉は死んでもうたんやけどね。

 姉は成長が不完全やったから、生かしておくことは不可能やったって聞いてる。でも姉の魔法神経は、しっかりとウチの体に残ったんや。


――どうして、自身の魔法神経ではなく、お姉さんの魔法神経だとわかるんです?


真樹 ウチの魔法神経が全身に通ってないから。姉の頭部がくっついていた右のわき腹に高い密度で集中してんねん。

 だからウチは魔法少女なのに変身できない。

 全身に満遍なく魔法神経が通ってへんと上手にできんようになっとるみたいやな。昔、ウチかて魔法少女や! ちゅう意地で無理矢理変身しようとしたことがあったけどな……。


――わき腹部分だけが変身した?


真樹 近いけどちゃう。右のわき腹から離れるほど、服が透明になっていくんや(笑)。シースルーは大胆すぎやから変身は止めた。

 普通は変身したら魔力が飛躍的に上がるんやけど、ウチは魔法神経が少ないから上がっても、外部に放出する力自体が少ないから無意味やしね。


――真樹さんはどのような魔法が使えるのですか?


真樹 ウチみたいな神道系の魔法少女は、火や光の魔法に特化することが多いんやけど、ウチはオールラウンダーで土水火風光闇全部使える。

 性魔法や具現化魔法みたいな特殊魔法もだいたい使えるわ。

 ただどれも中レベルまで。高等魔法は1つも使えへんし、1つ以上の魔法をいっぺんに発動することもでけへんわ。

 例えば『瑠璃色スピードスター』は戦闘機みたいに空を飛ぶけど、ウチはせいぜい飛行艇レベル。

『マジカルプリンセス』は無制限に短距離瞬間移動できるけど、ウチは3回連続が限界。

『ブラックウィッチ』は気配を完全に消す結界を10分で作るけど、ウチは1日以上かかる。

 しかも魔法神経が体に馴染んでないから、一度に使える魔力も制限されてる。凄く中途半端な存在なんや。


――どんな魔法でも使える能力が、魔法少女を指導するのに最適だった?


真樹 それもあるやろうけど……。

 特殊な生い立ちのせいで、自身の魔力を他人の魔力のように見る癖がついてな~。その影響で、他人の魔力を見通す『魔視能力』を手に入れたんや。


――その能力について具体的に教えていただけますか?


真樹 魔法少女が持っている魔力の量を見る能力やね。


――魔法少女は他の魔法少女に対して「あの人は魔力が多い」とか「魔力を持て余している」というような言い回しをしますが、そういったのとは違う?


真樹 ちゃうね。

 それって、魔法の質を見て判断したり、魔法神経から漏れ出した魔力を見て言ってるはずやから。

 ウチの場合はもっと深い場所まで。潜在能力と言うたらええんかな? その人の持ってる魔力の量と特性まで見ることができるんや。

 せやから、どの修行がその魔法少女に効果的なのか、一目でわかんねん。


――例えば望月さんはどれだけの魔力とどんな特性が?


真樹 これは彼女のプライバシーな気もするけど……。

 まぁ、渡辺さんになら言ってもええやろ。数字で見えるわけやないから、魔力がこれだけ、とは簡単に言えへんけど。

 ……渡辺さんが会った中やと『サンシャイン・ピンク』にちょっと届かないくらいかな。ほんで彼女の特性は炎魔法や。炎魔法は他の魔法より、魔力の消費が少なくてすむから『サンシャイン・ピンク』の半分もあれば充分に戦えるやろ。


「真樹沢湖によると魔力を消費するのは闇、光、風、水、炎、土の順番なのだそうだ。闇はもともと人が恐れるモノだから、その恐怖心をねじ伏せるために魔力の消費が高くなり、土は地球の魔力を利用できるため消費が少なくなるらしい。ただしこれはあくまで真樹沢湖の意見である」


――真樹さんが見た中で、一番魔力のある魔法少女は誰でしたか? やはり『瑠璃色スピードスター』ですか?


真樹 『瑠璃色スピードスター』も飛び抜けた魔力の持ち主やったけど一番ではないね。一番は間違いなく『星空少女昴』や。彼女は段違いやね。ほとんど神話の世界の存在やもん。ある種の異常者や。


――『星空少女昴』ですか。彼女は『バルザイ戦争』に参加してますか?


真樹 してる。彼女は非戦闘系の魔法少女やから『魔法庁』やなくて『さわやか魔法少女事務局』の管轄やから詳しくは知らんけど、彼女はなかなか面白い存在やと思うよ。


――話は変わりますが『バルザイ戦争』の時、真樹さんはどんな活動をされていたんですか?


真樹 今とあんま変わらへんよ。

『魔法庁』から魔法少女を預かって、修行させて、焼肉をせがまれたり、菜食主義な女の子の食事の準備に悩んだり、タコ食べれへんのにタコ焼き大好きな娘さんの残したタコだけをモリモリ食べたり、そんな感じや。


 真樹沢湖インタビュー(下)に続く

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「魔法少女インタビュー」第2章。 第1章が、裏も表もある意味知られた、当時第一線で戦っていた少女たちへのインタビューという、ある意味過酷なものですが。(鬼畜描写がここには無いだけで、行間…
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