ばか(春から夏編)
あれからなんとかひと仕事終えた私は次の季節である夏とハイタッチをしにあの場所へと来ていたのだが
「暑い……」
「近づいただけで暑い!」
「あんまり暑さには強くないからな。ちょっとダメかも……」
ちょっとくらっとしたその時に思い出したのは冬との約束だった
そうだ。何のために泣いてまで……
「いやいやいや!冬と約束したんだから」
「こんな所で倒れる……訳には」
既に身体は限界だった。足はもう動かなかったし、汗も滝のようにかいていた
その時
「あっ……」
その目に飛び込んできたのは夏の後ろ姿だった
良かった……と、一安心のため息を私はつくのだった
そこから手を振った。早く気付いて欲しくてとにかく一生懸命に振る姿は遠距離恋愛をしてるカップルみたいかもしれない
「夏だ~~!お~い!」
声も出してみた。
すると、漫画で言えば頭に三本線がつくみたいに夏はこっちに気付いてくれた
「あっ!春~!今そっちに行くから~!」
慌ててこっちに駆けてくる。全く…やれやれだ
「よっ……と。しかし、遅かったね。待ちくたびれれて無理やりテンションを上げていた所だったんだよ
」
そう。夏はテンションによって周りの温度を変えてしまう体質なんだ。でも、似ている季節はもう一人……
あ、
「ごめんね~疲れている上に暑いからさ。てへへ…」
とりあえず謝った後にちょっと言い訳をした。
それに夏はにっこりと顔を変え、しばらく無言でこちらを見つめていた
それから
「あ、そりゃ悪かったな。僕、テンション上がると周りまで暑くしちゃってさ。困ったもんだよね」
と、申し訳無さそうに困った表情を夏はした
どうしていつも笑っていられるのだろう……
何だかつい腹が立って私は言った
「悪いと思ってるならその気味悪い笑いをどうにかしたら?」
ふんっと言い放った時、何だか胸が針を刺された様にチクリとなった
不思議な気分だ。やはりいじわるは良くないな
「え!?ああ…てか何?怒ってるの?」
ふわりと夏から笑顔が消えた。怒るでは無くその顔は心配してくれている顔だった
「別に怒ってなんかいないよ」
「じゃあ何なの。あ、もしかして暑いから?」
ほら。いじわるの代償が来た。私は困ってしまった
だって暑さなんて忘れていたのだから
「正解どころか大正解。そうだよ。私は暑いのが苦 手なんだよ! アンタと違って!」
下手な言い訳だった。確かに暑いのは苦手なのだが別に夏と比べたい訳では無かった
そんな事を言ってしまったのだが、夏は怒るどころか元の笑顔よりも笑顔をして言った
「じゃあ早く交代しようよ。僕が居なくなれば暑くないでしょ?」
それがどんなに優しさを含めているが私にだってすっごい分かった
だけど……
「え……」
その優しさになんだか混乱してしまう
「どうしたの?顔真っ赤だよ?大丈夫?」
恥ずかしくて堪らなかった
だから早く何処かへ消えてしまいたい
そんな気分だ
「いや……」
夏は疑問の顔で私を見ている
「何?」
抑えてた一言を私は言った
「もうすこし……」
「もうすこしだけ側にいて欲しいの?」
ああっ……バカッ!なんでそれを言っちゃうの!
てかそれぐらい私に言わせてよっ
「フリーズしてるって事は図星だね。それにしても分かりやすぎるよ。君って季節は」
「分かりやすぎるって女の子に失礼じゃない?あ、貴女だって女の子でしょ?」
「分かりやすぎるから言ったそれだけ。何か悪いかい?」
言われて何も言い返せなかった。確かに分かりやすぎるのだ。私って季節は
「そういう所きらい……」
と、私が頬を膨らませて言うと
ぷにっと頬を指でつつかれた
「嫌いで結構。ま、嫌いにはなれないよね?だから落ち込まないんだ。僕」
そう言えばいつのまにか胸の間に隠しておいた鍵が無いのに気づいた
もう。夏ったら
「ねえ、鍵も手に入って私も寂しくないから交代しない?」
少し離れた所で腕を組んでくるくると回ってる夏に私は恥ずかしい程女の子の声で言った
「ああ。ほらいくよ~」
夏がくるりと振り返りこっちに走ってくる
「そ、そりゃ~!」
顔を逸らしながら手を前に出した。パンッと言う音と共にそこに一瞬温もりが重なった
「ふう。タッチ完了って何で腕握ってんの?!」
気づいたら腕を持っていた
割としっかりした腕、元気な証拠だ
「いやね……相変わらず腕も手も綺麗だな~っと」
「なんだそんな事か。でもこうして腕を掴んだりすれとあれみたいじゃない?女の子が女の子を好きになっちゃう」
軽く背中を私は押した。くだらない事は言わせたくないからだ
「わ、わっ!もう!分かった分かった、言わないよ。あ、」
「何?」
「秋に会うけど何か伝えて欲しいことある?」
秋……私のなぜかお姉ちゃんにあたる季節だ
確かに伝えたい事はたくさんあるけど
「心配しすぎないで。と伝えてくれる?お姉ちゃん優しすぎるからさ」
それだけ伝えてくれれば良かった
「分かった。伝えとくよ!じゃあまた会おうね。図星ちゃん」
ムカッとして一発殴ってやろうとしたらもう既に居なかった
「もう…,…」
私は腰に手をやってつまんなそうな顔をした
「行っちゃったか」
「バカ……」