模倣人には幼馴染がいるそうです
英雄パーティーのリーダーからスキルをコピーした僕は、興奮冷めやらぬまま帰路に着いた。
不可能だと思われていたことができてしまった。そんなことが起きれば、人間、誰だって興奮するだろう。僕は、状況があんまり理解できなくて、逆に冷静で入られたが。
まぁ、そんなことは置いといて、僕は【片手剣術・天】を手に入れてしまった。たった一つの能力だが、これだけで冒険者にはなれるレベルだろう。【天】がついている時点で、Cランク程度の魔物と一対一でやっても、ほぼ負けなどあり得ない。それだけ強いスキルなのだ。
魔物にはランクがついており、Eランク〜Sランクまである。冒険者も同じだ。Cランクの魔物はCランクで組んだ四人パーティーで一体倒せるぐらいなので、それを単体で倒せるというのは、実質、BかAランクの強さはあるだろう。
B、Aランクともなれば、底辺貴族なんかより稼ぎが多くなってくる。Sランクは、普通の貴族よりも稼ぐだろう。ただ、Sランクはこの世界には今の所、10人程度しかいないが。
ということで、自分で生計を立てられるようになった今、とりあえず冒険者になることにする。魔物がスキルを有しているのかというのも気になるし、何より、このスキルでどこまで強くなれるかが知りたい。魔物を鑑定できる人はいただろうが、スキルを持っているという話はきいたことがない。そこらへんの事実を確かめたいのだ。
僕は新たな決意を固めながら、道ゆく人のステータスを鑑定する。コピーはあと17回残っているから、いいスキルがあったらコピーをかけようと思っているのだ。別に焦ることはない。今は家に帰るのが先決だ。なかったら、また明日、冒険者ギルドで会った人たちのスキルをコピーすればいいんだから。
「〜♪」
気分が良さげな僕は、鼻歌交じりに街道を駆け抜けた。周りの人が何かいいことでもあったんだね、とでもいう風に小さく微笑んでくれた。
♢
家のドアを開けると、そこには幼馴染の女の子——ミーシャ=キャンベルがいた。エプロンを身につけ、フライパンを片手にせわしなくキッチンで動き回っている。
「今日もいるんだね。もう、なんか注意する気も失せたよ……」
僕が呆れたように言うと、ミーシャはこちらを振り返った。料理のために後ろに束ねた銀色の髪が小さく揺れた。
「いいじゃない。こんな美少女が家に来て料理作ってくれるんだから。感謝しなさい」
確かに、ミーシャは美人だ。性格は一旦置いといて、容姿だけを見るのであれば、王女にも勝るとも劣らない美貌だろう。白く透き通るような肌、今はまとめているが、腰まである艶を帯びた白銀の髪、さらには、自分と同じ16歳だというのに、大人っぽく、少し妖艶な雰囲気を纏っている。
しかし、このミーシャ、なぜか僕の家の合鍵を持っており、勝手に上がり込んではご飯を作って一晩泊まってから帰って行くのだ。可憐な女の子と一つ屋根の下で過ごすというのは、年頃の男の子である僕からしたら、たまったもんじゃない。
何時、どんな状況に陥るかわからないので、何度も家に泊まっちゃダメと注意しているのに、それを無視して家に来る。本当に自分が美少女だと自覚しているんなら自重ぐらいしてほしいものだよ。
特に起きた瞬間に真横に美少女の寝顔があると、どうにも気持ちが落ち着かないからさ。
ちなみに、僕はとある事情で一人暮らしを最近始めた。二ヶ月前くらいからだ。それなのに、帰って来たらミーシャがこの家にいた回数はもう50回ほどいってると思う。どんだけ暇なんだよこいつは。
そんな、本人聞かれたらただ事じゃ済まなそうなことを思っていると、キッチンから声が聞こえて来た。
「できたよー! お皿出してー!」
晩御飯のいい匂いが漂って来た。焼いた肉の香ばしい香りが鼻腔をくすぐった。
「はいよー! 今いくー!」
僕は立ち上がると、キッチンの棚にある食器を二人分取り出した。もちろんミーシャもここでご飯を食べる。そしてなぜか僕の布団で横になって先に寝てしまう。本当に僕に襲ってほしいのかこいつは。
ミーシャは慣れた手つきでお皿にご飯を盛り付けて、机に置いた。二人で向かい合って椅子に座る。この椅子も元々は一つだったのを、ミーシャ用にもう一つ買ったのだ。ま、そんなことより今は料理だ。
並べられた料理へと視線を落とす。
同い年の子が作ったとは思えない、ちゃんと栄養が考えられたいい組み合わせになっている。
「ミーシャはいいお嫁さんになれそうだなぁ」
不意に言葉が漏れた。まぁ、本当のことだしミーシャのことだから胸を張って威張るに決まって——
「な、何いってんのよバカ! あ、当たり前じゃないそんなのっ!」
予想に反して、ミーシャは頬を赤くして慌てふためいた。少し威張ってはいるが、明らかにいつもとは様子が違う。なんかこう、女の子っぽい。どうしたんだろう?
「もういいから、早く食べなさいっ!」
僕がミーシャの反応に首を傾げていると、本人に怒られた。早くご飯を食べないのは失礼か。早速いただこう。
フォークで肉を刺してナイフで切る。閉じ込められていた肉汁があふれ出した。それにパクッとかぶりつく。
おお。うまい。なんかこの香ばしさが旨味を引き立ててベストマッチしてる。
僕がゆっくりと肉を噛み締めているとミーシャが話しかけて来た。
「どうなの?」
「え? 何が?」
「いや、料理の感想よ……どうなの?」
「普通に美味しいよ? さすがミーシャ!って感じ」
「ふ、ふーん。そうなんだ。ま、私が作ったんだから当然よね」
やっぱり少し慌てた様子で返して来た。
うーん、なんか今日のミーシャ、変だなぁ。なんか、男の子勝りな性格が可愛くなってる。女の子してるって感じ。
などと僕が考えていると、ミーシャはいつの間に食べ終わったのか、急いで食器を片付けて僕の布団に入ってしまった。
……なんで一つしかない布団に平然と入るんだよ。僕もそこで寝るんだぞ? 襲われてもいいとでも思ってるのか?まぁ、襲うようなことはしないと思うけどさ。多分。
邪な考えなどは一切持たずにミーシャと同じベッドに入った。
……いい匂いがする。お風呂に入った後の女の子の香りだ。ほんと調子狂うよ。もっと自重してくれ。ミーシャさん。
僕は、スキルのこと話し忘れたなーと思っていたのだが、疲れていたからだろうか。気づけば、深い眠りについていた。