天職とスキル
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僕、ユーリ=ララフォードは、今日、16歳の誕生日を迎えた。これから『神の祝福』を受けに行くところだ。
神の祝福とは、16歳、つまり成人した年のみ、受けられる儀式だ。神殿に行くと、神官様にスキルと天職を授けてもらえる。普通の人は2個ほどスキルをもらえる。運のいい人は4個。運の悪い人は1個と言った感じだ。決して0個はありえない。
そして、神の祝福で得たスキルと天職はその人の今後の人生を大きく左右する。
例えば、帝国を築いたユリラード帝王は、元は貧民街の子供だったそうだ。だが、神殿でスキルと天職を得た彼の人生は一変した。天職は【国王】、スキルは【両手剣術 天】、【身体強化 大】、【統率力 聖】、【話術 聖】だ。
ちなみに、スキルの強さの順番は『小 中 大 聖 天 神』だ。聖のついたスキルから上は、どれも超強力スキルとなっている。
もう一つ言うと、スキルは、戦闘系スキルと、技術系スキル、生産系スキル、そして、ユニークスキルに分かれている。国王様の両手剣術と身体強化は戦闘系、統率力と話術は技術系だ。身体強化は戦闘系、統率力と話術は技術系だ。実用的なのは技術系スキル。戦闘系スキルを持った人は冒険者になるのだが、冒険者のランクには、スキルの強さが色濃く出る。
ユニークスキルを持っている人はほとんどいない。その類のものを持っていれば、英雄になれること間違いなしだろう。
ユーラリド帝王が貧民街の青年から一国の王へと成り上がった理由はただ一つ。天職のせいだ。天職が国王。つまり、その人に最もあった職は国王であると言うこと。それが天から示されたのだ。国も無視するわけにはいかない。と言うことで、国は軽く政治に関わらせたのだが、その圧倒的な統率力と話術で、どんな相手も自分の味方にしてしまい、気づけば一国の王となっていたわけだ。
そんなシンデレラストーリーが残る、神の祝福に誰もが夢を見て、時に落胆し、時に歓喜する。
僕もそうだ。これから行われる神の祝福のことを考えるとドキドキが止まらない。
僕は、貧民街の孤児でもないし、貴族の家柄でもない。そこらへんにいる普通の平民。昔いた父が、まぁまぁすごい人だったが、今はもうその人は、父ではないし、あんな奴のことなんて思い出したくないから、平民になれて良かったと思っている。
そんなことを考えながら、祝福の間の扉の取っ手に手を掛け、一回転させる。少しきしむような音が協会に響き、扉が開いた。
中には、神官さんが一人と、椅子が一つあった。神官さんがにっこりと微笑みかけてくる。
「どうぞ、この椅子に腰掛けてください。祝福の儀式を行いますので」
ついにこの時が来たか……。僕の緊張の大きさに合わせて心臓がドクンドクンと鳴り響く。
「天に召します我らの神よ。この少年に祝福を与え給え!」
神官さんが持っていた杖を掲げると、僕の体が淡く光り輝いた。体の中から何かが湧き出てくるのを感じる。スキルを取得したのだろう。
どんなスキルと天職を手に入れたんだろう……。
大きな期待を胸に自分のステータスを開く。
「なっ——!」
そのステータスにはこう書いてあった。
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名前:ユーリ=ララフォード LV1
年齢:16
職業:平民
天職:模倣者
スキル
・コピーLV1(0/200)
・鑑定LV1(0/100)
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コピー……と鑑定か。一応レアスキルなんだけどなぁ。使用制限がちとばかし強すぎる。まあ、でも、一応、どんなスキルかだけは確認しておこう。
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・コピー:見たものを物以外ならば、なんでもコピーできる。
コピーしたものが文字ならば貼り付け、技ならば真似をする。
一日にコピーできるのは20回まで。コピーの成功率は25%。
三度コピーに失敗したら対象を二度とコピーできなくなる。
一度コピーした対象からは二度とコピーできない。
・鑑定:対象のステータスを見ることができる。鑑定スキルのレベルが低いと見れないものもある。
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……これはマジでマズイ。全くもって役に立たないスキルが二つ。——いや、鑑定は役に立つか。商人の人たちが探し求めてるってのはよく聞く話だし。結構珍しいスキルだ。
ただ、コピーが……。せめてこれが話術辺りだったらすごい商人になれた可能性はゼロじゃなかったのにな。
はぁ、でも、もう終わったことに文句言っても意味ないか。
ところで。
神官さんはなんでそんなに驚いたような声を出したんだ? そんなに驚くようなことはな……くないか。
天職——模倣者、ねぇ。
どう考えても、そんな職業はないだろ。多分、こんな天職をもらったのは俺が初めてなんだろうな。神官さんの反応がそれを物語っている。
「模倣者ですか……。初めて見ましたね。——あ、もう出ていってもらって大丈夫ですよ。王都に届けるための記録は取れましたから」
「あ、はい。分かりました」
僕は小さく嘆息して、祝福の間をでた。重い足取りで廊下を進む。何も言わずに神殿の扉を開いた。
神殿の外に出ると、冷たい風が、からかうように吹き抜けた。
なんでこんなスキルの組み合わせになったかなぁ。しかも天職が模倣者って。一体何して生きていけばいいんだ。
僕はそんなことを思いながら、家の方へと足を進めた。
今日も町は、なかなかに賑わっていた。適当にぶらぶらと歩いていると、屈強な男たちが横を通り過ぎていった。
それを見て僕はあることを思いついた。
——あ、そうだ。鑑定をしまくってみるか。人のスキル見るのってなかなか楽しそうだし。
街ゆく人たちに鑑定を使いまくる。こうして見てみると、世の中には色々なスキルが溢れているのを実感した。
色々な組み合わせがあって、被りなんて早々いないんじゃないか、と思うレベルだ。
そんな感じで、鑑定をしまくっていると、めちゃくちゃ強そうな冒険者のパーティーのような人たちが横を通った。もちろん、一番強そうなリーダーっぽい人にすぐさま鑑定をかける。
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名前:リーサル・ロズヴァルト
年齢:28
職業:冒険者(Sランク)
天職:英雄
スキル
・片手剣術・天LV3(258/400)
・身体強化・聖LV2(150/300)
・状態異常耐性・大LV1(100/200)
・光魔法LV3(160/800)
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「マジかよっ!」
あまりの凄さに声が出てしまった。パーティーの人が一瞬、ちらっとこっちを見た。が、すぐに話に戻っていった。
助かったぁ。こんなステータスの人、恐ろしすぎるよ。【片手剣術・天】と【身体強化・聖】だけでも化け物なのに、【光魔法】まで……。天職が英雄なのも頷けるな。
ちなみに【光魔法】っていうのは、その名の通り、光魔法が使えるようになるスキルだ。魔法を使うには、まずスキルを持ってないと意味ないのだ。
そんな、アホ強い英雄さんに僕が覚えた感情は一つ。
羨ましい。
「いいなぁ。運がいい人って。この世界結局スキルだもんな。仕事もスキル。結婚相手もスキルが悪かったらダメ。腐り切ってるよ……」
そんな文句を垂らしながら、英雄パーティーの背中を見送りながら、何気なく、こんなことを思った。
——この人の動きでもスキルでもいいからコピーできればいいのにな。
その考えが、僕の中で引っかかった。
スキルをコピー? ……これはひょっとしてひょっとするんじゃないか? コピーは目に見えたものを真似する能力。ならば、鑑定で見えているスキルもコピーできるんじゃないか?
そう思い、早速実行に移す。英雄さんのスキル【片手剣術・天】に対してコピーを発動した。
……なんの反応もない。もしかしてミスった? いや、もしかして失敗かな?
コピーの成功率は25%。四回に一回しか成功しないのだ。レベルが上がることで変わる可能性はあるが……、今のところはなんとも言えないだろう。コピーの熟練度を上げる人なんてこれまでいなかったし、レアスキルだから、持ってる人が超少ないのだ。仕方ない。
——深呼吸をしてから、もう一回【片手剣術・天】に対してコピーを発動する。
やはりなんの反応もない。
次でもうこのスキルをコピーすることはできなくなる。まぁ、スキルをコピーできるなんて、ありえないことだと思うけど。
それでも、少しの希望を追い求めて、僕はもう一度コピーをかけた。
少しの静寂が僕の中に走り、
『コピー成功。』
という無機質な声が頭に鳴り響いた。頭が情報処理に追いつかず、一瞬意味がわからなかった。そのまま、数分ほど立ち尽くしていたが、だんだんと理解できてきた。
僕の仮説は本当だったのだ。本当にスキルはコピーできたのだ。これなら、このハンデも仕方ない気がする。いや、ハンデが小さすぎるほどだ。……さて、ステータスを見てみよう。
「……え?」
ステータスを見た結果だが、なんら変わりはなかった。さっきと変わらず、スキルは二つしかなかった。
なぜコピーは成功したのに、スキルが追加されていないのだろう。僕は思考を張り巡らせ、あることに気づいた。
文字をコピーした場合は貼り付けるという動作が必要。このスキルが文字だとしたら、自分のステータスに貼り付けなければいけないのかもしれない。
そう思い、早速ステータスに【コピー】を発動し、さっきもらったスキルを貼り付ける。
貼り付けたのち、すっと目を開けると。
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名前:ユーリ=ララフォード LV1
年齢:16
職業:平民
天職:模倣者
スキル
・コピーLV1(1/200)
・鑑定LV1(10/100)
・片手剣術・天LV3(258/400)
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——追加されていた。
決して増えないはずのスキルが、増えていた。
これこそがコピーの真価。
見たものをなんでも真似することのできる最強スキル。
——ただ、さすがにこれはおかしいんじゃないか?
僕はふと疑問に思った。
明らかにハンデが少なすぎる。このままでは僕の成長スピードがおかしいことになってしまう。それこそ、人間を辞めて他の何かになってしまうレベルで。
——すると、そんな僕の疑問に答えるかのように頭の中に無機質な声が走った。
『コピーで得られるスキルは20個まで。それ以上得る場合には、もともと持っていたスキルを捨てなければなりません。——また、捨てた場合にも、一度コピーした相手のスキルはコピーできません』
ああ。そういうことか。いや、それでもハンデが小さすぎると思うんだけど。
だって、それって、20個までスキル持てるってことでしょ。人間の限界が4個なのに、20個も持ってたら勝負にならないじゃん。——魔物が持ってるかどうなのかは知らないけれども。
まぁ、そんなことより、スキルをコピーした——か。未だに実感がわかないな。
僕、もしかしたら、人を辞めたのかもしれないな。
スキルを増やすなんてそんなこと神でもない限りできない話だろう。
ただ、このスキルをくれた神様には多大な感謝を捧げよう。
これは、神様が僕に、成り上がりの機会をくれたのだろうから。
決して無駄にはしない。父を超えることのできる可能性もかなりある。
見返してやろうじゃない。平民の僕が。この世界を。