夢 2017年5月15日
その猫の血は病の特効薬だった。とある世界的製薬会社の研究所を猫の所有者とするとして、事態が一応の妥結を迎えたのはほんの数箇月前のことだった。
私はその猫を見に行った。
水槽のような全面ガラス張りの部屋。窓に面した廊下に並ぶ見学者たちは、ガラスを隔て、さらに一定の距離を保つことを求められる。建物の中、そこだけ温度が高かった。
私は誰かと二人だった。
私の右に立つその人は、私と外部との、ある種の攻撃的緊張を持つ境目を、精妙に和らげていた。
心持ち右に重心を寄せてガラスの部屋を覗き込んだ。
猫の姿はなかった。
唯一手前のほうに見えるのは飾りもなく生々しい金属の器械。疑いもなく、血を搾るためのものだった。
物思いに目を離せないでいるうちに不意に猫が現れた。
音を出すまい、息を呑むまいと、知らず口元が固くなった。
皮を剥ぎ、腑分けしたのを手早く組み立て直したように、猫は肉の色をしていた。体表面の筋繊維や白く細い神経も一本ずつ見分けられた。
それでも猫はしなやかで、何一つ欠けるところなく猫だった。
猫の体は細かった。痩せているというのでもなく、きっと骨ごと細いのだ。
猫は慣れた自然な足取りで器械の上に落ち着いた。来訪者への見世物もすっかり承知した風情だった。
猫はこちらに横顔を見せて僅かに仰向く。赤裸の中の一対の瞳。その存在に見入るあまりに呼吸も忘れた。今にも割れてしまいそうに、大きく、薄く、透明だった。幼い子供が大切に作ったシャボン玉を思わせた。
澄み切った目。華奢な肢体。まだ若い、仔猫と言っても差し支えない。
苦痛など感じたこともなく、悲憤など抱いたこともなく、猫は全てを受容していた。
猫はその無垢すぎる目で身動きも取れない私を見つけ、幼い仕草で前脚を上げ、私の唇に肉球を置いた。猫の前では厚いガラスも用を為さない。
皮膚は冷たく、奥底は温もり、滑らかにふくらんで柔らかかった。
その後、猫は──。
昨夜の夢はここで終わった。