菜食ヴァンパイアはトマトジュースがお好き?
俺、十字・ヴァレンタインは現代に生きる吸血鬼だ。
東欧の某国で吸血鬼伯爵だった父と、日本人の巫女だった母との間に生まれたお陰で、吸血鬼と人間の特性を受け継いだ「ハーフ・ヴァンパイア」なのだ。
なんて、生い立ちを自分で言ってみると、なんだかカッコ良い感じがする。けれど、全然そんなことはない。実際女子にはモテないし。
見た目は普通の日本人と変わらないし、髪はちょっと赤みがかった黒で、瞳は赤銅色。
これがもし「肌が白くて銀髪」だったりしたら、いかにもヴァンパイア。じつにミステリアスな雰囲気だったことだろう。
今から10年ほど前――。
東欧の小国、シュツルバルトが軍部の蜂起により崩壊した。
反乱軍による『吸血鬼狩り』の魔の手が迫る中、日本人だった俺の母さんと、吸血鬼伯爵だった父さんは、まだ幼かった俺だけをなんとか船に乗せ、日本国へと脱出させてくれた。
つまり亡命させられたわけだけれど、それ以来、親父たちとは音信不通のままだ。
今すぐにでも国に戻り、消息を確かめたいとは思うけれど、届くかもわからない手紙を書く以外、一介の高校生に出来る事は多くはない。
難民として受け入れてくれた日本国政府が発行してくれた「在留許可」には、『準二級・吸血疾患因子保持者』と書かれている。
つまり「二流のヴァンパイア」ということらしい。
日本国とシュツルハルトは、数百年前から国交があり、俺のような「特殊な事情」を持つ難民さえも、人道的見地から受け入れてくれた。お陰でこうして普通に高校にも通わせてもらっているし、片田舎の農家にホームスティさせてもらっている。
6歳の頃から数えて、ちょうど10年ほど「居候」させてもっている。10年も暮らすともう家族同然の扱いだ。それが寧ろ有り難いし、嬉しいと思う。
温かく受け入れてくれた日野沢の家族たちには、感謝しきれない想いでいっぱいだ。
幼なじみの美乃里は、「ジュージは、生い立ちの設定はカッコいいよね」と、すごく暖かい笑顔で励ましてくれる。っていうか「設定」とか言うな。
ついでに言うと、好きなものは、暗い部屋。アニメ鑑賞とマンガにラノベ。
嫌いなものは、明るい場所とか太陽とか、クラスのイケメン男子の眩しい笑顔とかな! それとニンニクも結構苦手だったりする。
長時間日光にあたると、火傷みたいになってヒリヒリする。死にはしないけれど痛い。だから紫外線カットの日焼け止めは欠かせない。幸い、傷の治りは普通の人間よりも速いのだけれど、それも自慢できるほどの特技とも言えないだろう。
特技と言えば、俺はヴァンパイアなのに菜食でオッケーということだ。新鮮なトマトジュースだって大好きだし、普通のご飯で大丈夫。
でもこれって、考えようによっては、ヴァンパイアとして最大の特徴を思いっきり捨てているんじゃないかって気もする。というか、普通の人間と変わんないじゃん?
「はぁ……起きなきゃな」
さて、美乃里も起こしに来てくれたことだし、起きるとしますか。
<つづく>