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美乃里のターンと炸裂の『大蒜倉庫(ガーリックタンク)』

★作者よりのお詫び

 少し間が空きましたが、連載再開です♪

 3月いっぱいは毎週一回ぐらいの連載ペースとなります。



「こ、こら! も、戻らんか貴様ら……!」


 闇騎士・マハートクラゥが慌てて叫ぶ。けれど使い魔の『闇ランタン』たちは言うことを聞かずに制御不能。それぞれが勝手な行動を始めていた。

 一本足でリズムをとりながら踊り、徐々に『戦場(バトルフールド)』から遠ざかってゆく。来た道をぴょんぴょんと飛び跳ねながら帰っていく者も出始める。つまり退場(・・)してしまったらしい。


『イー』

『イー……イー』

「お、おのれぇ……!」

 肩を怒らせて闇騎士が歯ぎしりをする。


「一本足のランタン達が……帰ったちゃったね」

「戦線離脱効果……! ジュージさまのスキルで、戦闘意欲を無くしたのですわ」

 美乃里(みのり)とリールマインちゃんが、少しだけホッと気の抜けた表情で顔を見合わせる。


「ま、まぁ! ほら、やらないよりマシだったじゃん?」

 俺のスキル攻撃(?)『ラブ&ピース』は攻撃力は皆無だった。けれどおそらくレベルが低い敵の戦闘意欲を削ぎ落として、戦線離脱させる力があったのだろう。


 そして、それは更に思いもよらない効果を生じさせはじめた。


 闇に閉ざされていた庭先に「光」がさし始めたのだ。

 

 まるで雨雲の隙間から太陽の光が降り注ぐように、幾筋ものひかりが地上を照らし始める。見上げると、ビキビキと、上空の闇の結界に割れ目、つまりは「ヒビ」が入ってゆく。


「――ッ!? しまった……! 我が『常闇(とこやみ)の結界』に綻びが……! ぐっ……うッ」


 初めて闇騎士・マハートクラゥの顔に動揺の気配が滲む。上空に広がっていた闇の切れ間から、一条の光が闇騎士の足元に差し込むと、苦痛に顔を歪めて後ずさった。


「光が効いてるわ! あいつ……ヴァンパイア以上に光に弱いのよ! ジュージよりも!」

「一言余計だよ、俺のことはほっとけよ」

 確かに俺は直射日光に弱いけれど、死ぬほどじゃない。だけど、恐ろしい見た目の闇騎士・マハートクラゥはかなり苦手なようだ。


 一面の闇だったヴァレンタイン邸に色彩が戻ってきた。暗くくすんだ灰色一色だった景色に、芝生の緑や木々の緑、空の色合いが戻ってきた。ひび割れた『常闇の結界』の隙間から、青い空と白い雲が見え隠れしている。


「『闇ランタン』が魔法の暗闇を生み出して、闇騎士の行動範囲を広げていったことか……」

「そうみたいね。ジュージ、あいつのステータスを見て」


 俺の肩に手を乗せて美乃里(みのり)が指差す。中空に浮かんだ同じステータス・ウィンドゥを見て、「あっ!」と息を呑む。


★------ステータス------★

 闇騎士・マハートクラゥ

 種族

  アンデッド・ナイツ

 階級

 ・レベル28

 属性

 ・闇


 状態

 ・『常闇の結界』、消失(ロスト)

 ・防御力倍増補正、消失(ロスト)

 ・攻撃命中時、ダメージ倍増


 HP 341/342

★----------------------★


「補正効果……消失! つまりさっきの『常闇の結界』の効果で、むちゃくちゃ防御力が上がっていたんだ! けれど今は効果が切れたってことか」

「そうみたいね!」

「次は、みのりさまのターンです!」


 戦いの仕組み(ルール)もわかった。俺のあまりのヘナチョコぶりに絶望しかけたけれど、まだ負けたと決まったわけじゃない。


「次は、私のターンなのね!? うん、なんとなく……わかる!」


 キュイイイ……! と美乃里(みのり)の身体が淡く輝く。俺の時と同じ、攻撃の順番が回ってきた合図のようだ。


「いけ、みのり!」

 

 思わず俺も叫んでいた。


★------ステータス------★

 日野沢・美乃里(みのり)

 種族

  人間 16歳♀

 階級

 ・レベル1

 属性

 ・普通生活(ノーマルライフ)

 特技

 ・大蒜倉庫(ガーリックタンク)


 HP 87/87

 <戦闘用コマンド>


 たたかう

→スキル

 装備

 道具

 逃げる

★----------------------★


「私も、『スキル』と『たたかう』のコンボでいくわ」

「なんだか手慣れてるなぁ……」

「伊達にゲーム三昧で宿題をジュージに押し付けて無いわ!」

「ダメ発言乙」


★----------------------★

 たたかう

→スキル

  →大蒜倉庫(ガーリックタンク)

 装備

 道具

 逃げる

★----------------------★


「やっぱ、みのりにはニンニクしかねーのかよ! ってかどんなスキルだよ……」

「うっさいわね! 兎に角いくわ……!」


 コマンドの選択を終えると、美乃里(みのり)の右腕が輝きを増した。魔法円のような同心円状の文様が空間に幾重も重なり、『砲塔』のような形状を生み出した。


「お、おぉ……!?」

「みのりさまのスキルは遠距離攻撃みたいです! しかも全体攻撃(・・・・)ができるタイプですね!」


 リールマインちゃんが、八重歯を見えながら笑みを見せる。


「なんか凄そうだな?」

「えぇ! 今ので大体理解したわ!」

「ほんとかよ…‥」


 俺の疑いの眼を無視し、美乃里(みのり)はポニーテールをなびかせると、両足をザッと開き、やや腰を落として身構えた。制服のスカートをひるがえしながら、砲撃体制に入った右腕を突き出す。


「いっけぇえええ! 私の、『大蒜倉庫(ガーリックタンク)』大開放……ッ!」


「ははは、俺の『ラブ&ピース』と、名前のダサさではどっこいどっこいだな」

「いいからそこで見てなさいよ! ダメージ1」

「二つ名みたいに使うなよ!?」


 パッとしない(スキル)名に大した期待はしていないけれど、まぁ遠距離で全体攻撃だと言うし、ここはお手並み拝――


「え!?」

 次の瞬間。ドッシュアァアア! と美乃里(みのり)の右腕から凄まじい光の奔流が放たれた。魔法円が黄金色の光の炸裂(バースト)を、まるでレンズのように収束しながら、まるでレーザー砲のような光の束を形作る。そして、まさに光の速さで闇騎士の体を包み込む。


「――なッ! にぃィイイ!? がはぁあッ!?」


 まばゆいばかりの黄色い光は闇騎士・マハートクラゥを直撃、凄まじい爆発が起こった。闇騎士の悲鳴は演技などではない本物だとわかる。激しい爆風と衝撃波がこちらにまで押し寄せる。


★------------------------★

 攻撃命中:134のダメージ

★------------------------★


「うぉいっ!? 俺より強いってどういうことだよ!」

「凄いですわ、みのりさま!」

「へへっ! まーね!」


 光のエフェクトを散らしながら右腕をひょいっと一振りすると、美乃里(みのり)は俺たちに向かって親指を突き出した。


★------ステータス------★

 闇騎士・マハートクラゥ

 種族

  アンデッド・ナイツ

 階級

 ・レベル28

 属性

 ・闇


 状態

 ・『常闇の結界』、消失(ロスト)

 ・防御力倍増補正、消失(ロスト)

 ・攻撃命中時、ダメージ倍増


 HP◆207/342

★----------------------★


「一気にHPが減った……!」


 補正があるにせよ、とんでもないダメージだ。


「どう? 見たでしょジュージ! これが異世界に来た時のチートの見本ってやつね!」


「く、くっそ……! だけど俺の『戦場(バトルフィールド)』補正潰しがあってこそ……」

「あー、はいはい。ダメージ1がなんだって?」

「うぐぬぬ……」


 確かに俺の攻撃は「ダメージ1」だった。けれどそれは純粋に力が弱かったからだ。仮に『常闇の結界』が無かった時に殴ったとしても、二倍の「ダメージ2」ということにある。

 これでは、しょーもないノースキルのゴミ攻撃に変わりはない。


 いや、でも……もしかして、何か別の攻撃手段やスキルの使い方があるんじゃなかろうか?


「……ぐっ! ぐふぅうう……! なんとも凄まじい悪臭(・・)よ」


 呻き声に向き直ると、闇騎士・マハートクラゥは胸を右手で掻きむしるように押さえながら、苦しげに喘いでいた。けれどレーザー攻撃(?)で受けたダメージにしてはなんだか様子がおかしい。まるで、毒でもくらったかのような息の乱しようだ。

 よく聞こえなかったけれど、最期に悪臭とかいってなかったか?


「なんかアイツ、様子がおかしくないか?」

「ジュージ、気にしすぎよ! ダメージを受けたんだから、そ、そりゃぁ青色吐息なのはあたりまえじゃない」

 視線を泳がせて妙に落ち着かない美乃里(みのり)。同じ屋根の下で兄妹のように暮らしてきた長い付き合いだからわかる。これは何かを必死で誤魔化そうとしている時の顔だ。

 例えば俺の買ってきたアイスを勝手に食っていたときとか、宿題を勝手に丸写ししていたときとかの。


「みのり……。お前のスキル『大蒜倉庫(ガーリックタンク)』ってさ」


「な……なによ! うちがニンニク農家だからに決まってるでしょ! 単なる名前よ! 屋号とかニックネームみたいな! それだけよ」

「ふうん?」


 すると胸を抑えていた闇騎士が、ゴハッアと黄色い煙を口から吐き出して、グラリと巨体を傾かせて片膝を就いた。初めての大ダメージで苦しんでいるのかと思いきや違うようだ。


「く、臭い! ……おうっえっ……! なんという臭いだ!? ゴホッ……ゲホッ! おのれ……魔除けの効果のある……ニンニクガスの収束砲撃(・・・・)だと……!? お、恐るべし小娘……! ギアルゲィン伯爵の花嫁(・・)……献上できないじゃないですか……!」


「……おい、あいつ、ニンニクガスの砲撃って言ってたぞ? やっぱり、ニンニク農家の血筋が成せる特殊スキルじゃねーか!?」


「リールマインちゃん! 私、二回攻撃できる!? あいつ殺さなきゃ!」


 苦しげな闇騎士を指差して血眼で訴える美乃里(みのり)が実に面白いが、この威力と毒ガス効果による全体攻撃なら、ヴァンパイア貴族の群れなんて、壊滅できるんじゃなかろうか……。ってか、風に乗って漂う臭気は俺自身もヤバイ感じだ。


「残念ながらみのりさんは一回攻撃なんです……」

「て、ことは次は、リールマインちゃんの番?」


「そうなのですけれど……。みのりさま、ジュージさま、わたしは……その、攻撃する手段がないので、『パス』してもいいですか?」


 メイド服姿の、赤毛でツインテールな美少女は、恥ずかしそうに頭を振った。そこで初めて、リールマインちゃんのステータスが見えた。


★------ステータス------★

 リールマイン

淫夢族(サキュバス)、11歳♀)


 階級

 ・レベル3

 属性

 ・雑食生活(マルチライフ)

 ・普通生活(ノーマルライフ)


 必殺技

 ・破廉恥夢(はれんちドリーム)

 ・愛情抱枕(だいしゅきぃホールド)

★----------------------★


「「……確かに」」


 俺と美乃里(みのり)は同時に納得。


 サキュバスだから『破廉恥夢(エッチドリーム)』ってのはなんとなーく察しがつく。けれど『愛情抱枕(だいしゅきぃホールド)』って、なんだよ……。


<つづく>


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