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4、イワンのばか!

「ニコラ、お前ユーリィ君に何も説明しとらんのか。」

領主様がニコラに尋ねる。

そうだよ。俺何も聞いてないもん。

ニコラが答えた。

「じゃあざっくり説明します。僕の兄、家出しちゃってどこにいるかわからないんだ。だから僕が男の振りしてキヤの暫定後継者ってことにしたの。兄さんイワンっていうんだ。イワンのばか!」

ざっくりすぎる!

「でも僕女の子にモテちゃって。流石に女の子とは結婚できないし。そんな時君に会って、運命だと思ったんだ!僕と婚約してくれてありがとう。」

確かにニコラは女に人気だろう。この顔にこの口車。だが俺は騙されないぞ。

再び領主様が口を開く。

「申し訳ないが、イワンが帰ってきたらユーリィ君は領主夫人にはなれない。だが君はその事に文句を言えない。その上人質もいる。君が裏切らないと儂らは確信している。つまり儂らは君を都合良く利用しておるのだ。」

「俺はもともとそんな大それたこと望んでいません。行き倒れを待つしかなかった姉弟を拾って下さっただけで充分です。感謝しています。」

これは本当だ。そもそもいきなり領主夫人とか言われても困る。あと俺は婦人ではない。

「ありがとう。ではこれから君は、公の場ではユリア=マカロフと名乗るように。」

マカロフ?


「ユーリィ君は、マカロフ卿の庶子ということになる。マカロフ卿は、儂とは仲が良くてね。領地は無いが中央に顔が利く。そのうち一緒に挨拶に行こう。」

俺の身分は偽造されるらしい。

「姉はどうなりますか。」

「申し訳ないが、君とは血縁関係にない、我が家の使用人という扱いだ。勿論終身雇用で面倒は見る。こう言ってはなんだが、我が家の労働条件は比較的良いと思う。」

姉さんはどう思うだろうか。一人だけ『貴族の子』という身分を手に入れようとしている俺を。

『ユーリィ、大出世ね。姉さんも嬉しいわ。』

多分姉はこう言うだろう。本心からの言葉で。姉はそういう人だ。

姉を差し置いて身分を手に入れる罪悪感。だがこれで姉も救われる、という自分への免罪符。

胸中複雑で、俺は俯くしか出来なかった。


ニコラに連れられて、部屋に行く。俺と姉の二人で過ごす部屋になるらしい。とはいえそれも数日だが。

「申し訳ないけど、キヤに帰るまでは二人部屋で我慢して。一週間後には王都を出る。それより遅いと王都が雪で閉ざされるからね。オルガさんも南で療養しよう。領主館はここより広いから一人一部屋あるよ。」

ニコラが俺達に言った。

「ありがとうございます。それであの……」

姉が答えながら、こちらをちらちらと伺う。理由はわかっている。

「あの……、弟は何故女の子の格好を?」

そう。姉さんは、俺の女装姿を初めて見るのだ。

「それはね、僕とユーリィが婚約したからだよ。僕達は運命の出会いを果たしたんだ!」

おい、それだと俺が変態みたいだろ!姉さんはお前を男だと思ってるんだぞ。

「そうなの……。ユーリィ、姉さん知らなかったわ。ごめんね、おめでとう。」

「姉さん違う、違うから!ちゃんと説明するから。」

「オルガお義姉さん、僕のことも実の弟だと思って下さい。ユーリィは幸せにします。」

「もうお前黙ってろ!」


この後ニコラが女だということと、女装は俺の趣味じゃないことを散々説明したが、信じてもらえていないようだった。

姉弟間に深い溝が出来た日だった。

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