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2、出発

「さて、これで何故君にお願いしたのかわかってくれたかな?」

いやいや全然わからん!

俺は首を横に振る。

「つまり僕は、女だとバレるとまずい立場にいるわけ。君は僕に弱味を握られているし、人質もいる。あ、これは美人なお姉さんの事だよ。お姉さんには適切な治療を施すし、治った後も我が家で雇用する。君は僕の婚約者として振る舞ってくれればいい。簡単だろ?」

「何処の誰かもわからんような奴の言いなりになる気はない。」

「道理だ。僕の名前はニコライ=グリンカ。南部キヤを治めるグリンカ辺境伯の次男、となっている。だが君には正式名を名乗ろう。(わたくし)はニコラ・マリヤ=グリンカ。グリンカ辺境伯の長女ですわ。」

領主様の娘!?貴族じゃないか。それがなんでこんな下町に……。

しかし実のところ、俺に選択肢は無い。こいつの話が嘘でも受け入れるしかないのだ。

それにこいつの話が本当なら、俺に損が無いのも事実。これは千載一遇のチャンスと捉えるべきだろう。

右手を差し出す。契約成立の握手だ。

ところがこいつ、ニコラは俺の手を取ると口許に持っていき、あろうことか俺の手の甲に口付けやがった!

「宜しく、麗しの婚約者殿。本当に結婚することになっても、君が相手なら嬉しいよ。」

このタラシ女が!自分の頬が赤く染まったのがわかり、いたたまれない。

「それではそろそろ、愛しの婚約者殿の名前を僕に教えてくれないか。」


お互い名乗りあったところで、隣の部屋から声が聞こえていたのに気付く。

扉を開けると、そこには和やかに談笑する姉とニコラの連れがいた。……いつの間に?

「ニコライ様、お話は終わったんですか?」

「うん。」

「では早速参りましょうか。」

そう言って連れの男は姉に微笑みかけると、姉を軽々と抱き上げた。姉は顔を真っ赤にしている。

タラシ主従め!

「なんか、すまないね……」

ニコラうるさいよ。


この家には、持っていくべき物など何も無い。両親が死んだ後、姉弟二人で身を寄せあって暮らしてきた家に別れを告げ、出発だ。今俺の手元にあるのは、女装用のカツラの入った鞄のみだ。

道すがら、ニコラが言う。

「君達に必要な物は、僕が責任持って全て揃えるよ。あの家の解約手続きは済ませてある。食費や薬代のツケも全部精算させてもらった。」

連れてく気満々じゃねーか!

「姉弟二人、今までよくがんばったね。」

こいつはこういうところが狡い。そんな事言われたら、うっかりほだされるじゃねーか。

現に姉は涙ぐんでいる。

その姉を抱える男の名前もわかった。アレクセイ=コストリコフ。

俺達姉弟に姓は無い。彼らは本来雲の上の人なのだ。


大通りに出ると、小さな馬車が停まっていた。

ニコラが俺達を乗せると馭者は馬車を走らせる。

俺は馬車の窓から外を覗いた。ごみ溜めのようなごちゃごちゃした街が遠ざかる。

ぎゅっと目を瞑り、再び開くと、そのまま窓を閉めた。

「これから行くのは僕の王都にある家だよ。その後はキヤの領主館に。次に王都に来れるのは雪融け後だ。南部の冬は暖かいよ。楽しみにしていて。」

俺は頷いた。


貴族のお屋敷が並ぶ一角に、馬車は停まった。綺麗な建物だ。

今更だけど、ボロ服の俺達って場違いじゃないか?再びアレクセイに抱き抱えられた姉も、萎縮しているのがわかる。

すると、屋敷の扉が急にバーンと開いた。

中から出てきたのは、ドレスを着た黒髪の女。俺達を一目見るなり後ろに向かって叫んだ。

「あなた、ニコラが奥さんを連れて帰ってきたわよー!」

おい、まさか奥さんって俺の事じゃないだろうな。

後ろからがなる声も聞こえる。

「奥さま、はしたのうございます!」

てことは、これがニコラの母親か。母親ってのは、おっとり優しいもんだと思ってたがどうやら偏見だったようだ。

ニコラ母(推定)がこっちを向いてにっこり微笑んだ。

「いらっしゃい。それで、どちらがニコラの奥さんなのかしら?」


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