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Ep5:第27魔器レイリアス。



「今の音……索敵範囲外からか………」


周囲の光景に目を奪われていると、何処からか何かが落下した様な大きな音が聞こえた。

展開している魔力感知、気配感知、熱感知のどれにも反応は掛かっていない。

方角は南東くらいか。来た道を少し戻ってから東へ行ったあたりだろう。現在目に前に広がっている状況の原因がそのにいるに違いない。

そう思い、俺は再度周囲を見渡す。


そこにあるのは数多の死体。

人型の魔物、前世の記憶と照らし合わせれば、その特徴的な額の角と巨大な体躯からオーガだという事が分かる。

あとは数体だが、スカーレットウルフの死体も混じっているようだ。

その殆どが鎌鼬で切り刻まれた様に体を複数に分け、転がっていた。

腹が減っていたってよりは殺したくて殺した様に感じる。その証拠に咀嚼の後がない。最初に見たスカーレットウルフにはいくつか付いていたが殆ど肉が残っていた。


「とりあえず、南東に向かってみるか」


何度目か分からない強い蹴りからのスタートダッシュ。

リアドラも慣れてきた様にしっかりとしがみ付いて平然としている。時々、暇だからって服噛むのは止めて欲しい。

それから数分と経たない内にあの落下音の音源へとたどり着いた。

あの音の犯人は巨大なカマキリだったようだ。確か名前は母なる斬首者(マザーマンティス)。魔王グリルガンのお気に入りの殺戮蟲(ペット)だったはずだが、なんでこんなところに―――そう考えたのも束の間。すぐにマザーマンティスの目の前に見える影に気付く。

先ほど見たものと特徴では一致する。体は少し小柄だが、それでも間違いないだろう。マザーマンティスに襲われているのは一体のオーガだった。


見たところ重症だ。あれじゃもう逃げられないだろう。

そこにマザーマンティスの振り上げた鎌が下りようとして来る。


「リアドラ、あの鎌吹き飛ばせ」


すぐさまリアドラに指示を出す。

それを聞いたリアドラは咆哮を上げると共に口から無数の岩を吐き放つ。その殆どがマザーマンティスに命中し、その鎌を体もろとも押し返す。

重症で動けないであろう倒れ伏すオーガの首だけが動きこちらを見て来る。あまり姿を見られるのはいい事ではないが、今は認識阻害の掛かった鬼髑髏のマスクをしているから問題はないだろう。

とりあえずそのオーガと話をする為に身体強化で足を強化し、一瞬で近付く。衝撃波が行かない様に工夫はしたのだが、それでも少し風が立つ。


「力を貸そうか?」


そう言う途中で気付く。今は驚愕に染まるこのオーガの目は、助力を求めているのではないのだと。

だから、訂正する。


「いや、」


来るまでに見たオーガの大量の死体。あれはこのオーガの仲間のモノなのだろう。

このオーガが求めているのは、そんな仲間を守る力だったのだと。このオーガが欲しているのは、生き抜く力なのだと悟る。

だから、言い直す。


「力を―――やろうか?」


オーガの表情は一瞬、疑問を表すが、すぐにそれは決意を表すモノへと変わる。

声自体は弱々しく、だが、言葉は力強く響く。


「欲しい……。生きる為の力が、………仲間を守る為の力が、欲しい」


仲間は死んでしまっていた。もう守るには遅いだろう。

だが、それは言わない。言うべきじゃない。だから、ただ「そうか」とだけ返す。

力を与える。それはリアドラにした様に、だがリアドラとは少し違う様に、このオーガを強化してやる事だ。

魔器魔族化契約ダイア・ウェップ・アグメント―――それは対象を魔族に変え、魔器に変える。強力な高位の魔族へと存在が昇華し、さらには魔器へと姿を変え、武器としても戦えるのだ。

俺はすぐにその詠唱に入る。口調は威厳のあるような重いものに、ゆっくりと、問いかける様に、唱える。


「敗北を知り、力に飢えし貪欲な牙よ。お前が望むのなら、我は力を与えよう。それは、誰かを守る為の力であり、己を生かす為の力だ。」


オーガの瞳を見つめ、問う。


「その力を、お前は望むか?」


傷が痛むのだろう。動かない体を必死に動かそうとして、こちらを向きながら答える。


「望む…!」


「ならば、誓え。我に忠誠を」


「誓う…!」


それでいい。自分の無力さを知り、心の奥底から貪欲になってこそ、このスキルはお前を強くする。

お前は確実に強くなる。誰かを守れるようになる。

ふと気づく。どこかこのオーガが過去の自分と重なる。これは、魔王の記憶の方か?

このオーガが、大切な妹を亡くした時の自分に見えた。そのせいだろう。気付く事はなかったが、俺は少し笑っていた。


「ならば、我も誓おう。仇なす敵を討つ力を授けることを。」


本当は明かすべきじゃないんだけど、この方が効果が上がる。

示す名はその存在によっては効果が上がる。だから、ヒロトの方ではなくこちらを唱える。

大奮発だな。今回だけ、特別だぜ?


「我が名、ルローグの名の元に!牙よ、姿を変えよ!”魔器魔族化契約ダイア・ウィップ・アグメント”!」


そう唱えると共に、オーガの体が黒い光に包まれて行く。

そして、その光に完全に包まれたオーガは、その形を少しずつ変えながら、俺の手の中へと納まった。

次の瞬間には光は弾け飛び、手の中には一振りの刀があった。


「この形状は小太刀……じゃないな、半ばで折れた日本刀か」


波紋を浮かべた刃に、黒い柄。刃が半ばで折れているとはいえ、とても綺麗な良い刀だ。

鑑定してみると、名前が出た。


「第27魔器レイリアス。和名は餓鬼刃刀(がきばとう)か」


その刀に見入っていると、目の前をリアドラがすごい勢いで横切る。

どうやらマザーマンティスに弾き飛ばされたらしい。すごい勢いではあったが、さすがはリアドラ。頑丈な鱗があるだけあって傷は少ない。


「まあ、悠長にはしてられないな」


俺は手を真っすぐに伸ばし、餓鬼刃刀を前に突き出す。

するとその刀は再度、形状を変えて人型へと形を整えていく。ほんの数秒後には、餓鬼刃刀は完全に人型へと完成していた。

髪は白く長いロングヘアを後ろで一本に束ね、肌は少し赤いが肌色に近い。身長は一般的な人間と比べると高い。目測で見るに二メートル行かない程度だろうか。まだ四歳児の俺と比べるともう巨人だ。だが、身長は高くてもその体は細い。胸から腹、腰にかけてひょうたん型とでも表現すればいいのだろうか、キレイな身体つきをしていた。てか、メスだったのか。顔は整っていて美人だが、少し気の強そうな吊り目だ。

その顔の額部分にはオーガの時にあったモノと比べると少し細く長い角が少し上反った形で生えており、どうやら魔族の中でも高位な鬼人族になったことが分かる。

俺が握っていた柄の部分には右手があった。自然と握手をする様な形になってしまっている。


鑑定で名前を見てみたところ、レイリー・オガリアと言うらしい。

そのレイリーが、そっと閉じていた瞼を開く。


「おはようレイリー。生まれ変わった気分はどうだ?」


そう軽く訪ねてみると、レイリーがこちらに目線を合わせる。

俺を存在を認識したレイリーはそのまま片膝立ちの形になり、握っていた右手を捻って俺の手の甲が上を向く様にする。


「魔王ルローグ様、感謝いたします」


そうレイリーは言い、俺に右手の甲に口付けをした。

その後、すぐにスクッと立ち上がり、マザーマンティスの方に向き直る。


「じゃあ、レイリー。軽く倒して来いよ」


「仰せの儘に」


今度はレイリーが右腕を真っすぐに目の前へと突き出す。

すると、先ほどまでレイリー自身が変形していた半ばで折れた日本刀が、レイリーの手の中に出現した。

それを軽く振ると、空気が割れ、鎌鼬が起こる。その鎌鼬はマザーマンティスの方へと向かい、そのままマザーマンティスに襲い掛かるも、マザーマンティスが振る右鎌で相殺され、霧散した。


ぎゃああう!


マザーマンティスの呻く様な声に呼応するように声を上げ、レイリーも構え、戦闘態勢に入る。

そして数秒の均衡の後、お互いが同時に動き出す。マザーマンティスの振り上げた鎌がレイリーの頭部目掛けて振り下ろされ、それを数歩のステップで避ける。回避と同時にレイリーの持つ餓鬼刃刀が振られ、再度起こる鎌鼬が、先ほどの攻撃で地面に刺さったままのマンティスの鎌の関節部を襲う。

どうやら関節部は外骨格のある部分よりも柔い様で、切断までは行かずとも小さくはない傷が付く。


ぎゃうぎゃああう!


マザーマンティスは叫び声を上げながら両腕の鎌を乱暴に振り回す。

それによって無数の鎌鼬が周囲を荒らし、木を薙ぎ倒すが、その攻撃はレイリーには当たらない。

そしてまたレイリーの風を切る風の刃がマザーマンティスを少しずつ削るように傷付けて行く。



これならすぐに終わりそうだな。

レイリーも何かと余裕な表情を見せている。だが、それも束の間。突如マザーマンティスが奇妙な行動を取り出した。

マザーマンティスは高く跳ね、レイリーから大きく距離を取り、木の密集した森へと逃げ込む。

お互いの距離が大体七十メートルほど離れると同時に、マザーマンティスが身体を大きく震わせる。すると、その大きかった腹が一気に萎み、腹の先からクリームの様な物体が漏れ出す様に放出された。それは周囲の木の数本を支えに地上から三メートルほどの高さに付着する。


あれはマザーマンティスの卵。地球の方の前世の記憶を探るに卵鞘(らんしょう)と呼ばれるものだろう。たしかカマキリの卵鞘の中には約二百から三百の卵が―――そこでようやくマザーマンティスのしようとしている事に気付く。だが、そんなにすぐ孵化するのか?

そんな疑問に答えるかの様に卵からはすぐに三百を超える小さなカマキリが溢れる様に生まれて来た。そのサイズはマザーマンティスを基準に考えれば小さいものの、それでも大型犬程度のサイズはある。それにあの数は現在のレイリーでは少し手を焼いてしまうだろう。案の定囲まれてしまい、防戦一方になってしまっている。


「仕方ないな。あんま手を貸すつもりはなかったんだが……」


俺はレイリーに切りかかろうとした子カマキリに向けて無詠唱で魔法を放つ。

黒く燃える炎。闇魔法上級のそれはレイリーに襲い掛かったカマキリ以外に周囲の子カマキリまで巻き込んで燃える。

それを見て子カマキリの方は大丈夫だと考えたのだろう。レイリーはマザーマンティスの方に専念した様で、少しずつ攻撃の手が増えていく。

相変わらずなマザーマンティスの鎌の斬撃とその余波で出来る鎌鼬を紙一重で躱しながらも関節やのど元、眼や触覚など弱点になりそうなところを少しずつ潰していく。だが、それでも致命傷にはなっていない様で中々マザーマンティスは倒れない。

このままじゃいつまで経っても倒せないぞ。レイリーはどうするんだ?

そう思いレイリーに視線をやった時には、レイリーはすでに行動に出ていた。


マザーマンティスがむやみやたらと振り回す鎌がついにレイリーを切り裂く。

が、その光景を見たマザーマンティスは驚愕に一瞬硬直してしまう。確かに切った。切り裂いたはずだ。

だがその手応えはない。まるで宙を切った様に軽い。切られたレイリーはフッと密かに笑みを浮かべ、まるでその答えを明かすかの様にその身体を黒い霧状にして消した。次いで来るのは横腹を抉る様な激痛。

マザーマンティスは分からなかった。目の前にいたはずの、確かに一撃を与えたはずの敵がどこへ行ったのか。そしてそれは今もそうであった。

痛みの原因を探ろうと視線をやった自分の体には抉られたような傷口と漏れ出す体液。だがそれをした原因が視界には映らない。

次の瞬間にはマザーマンティスの思考は途切れていた。


ドサリッと倒れたマザーマンティスの身体のすぐ隣にフッと霧が晴れる様にレイリーが姿を現す。

俺には感知系のスキルがあるからすぐに分かったが、レイリーはあの戦闘の中で魔法により一瞬で自身の幻影を作り出し、同時に自分は魔法により姿を消したのだ。

魔力の精度は鬼人族に進化した時に上がっていたのだろう。瀕死のオーガの時では到底無理なほど魔法の腕が上がっている。


「援護感謝致します、魔王ルローグ様」


「あー、気にすんな。それにしてもやるな。よくやったんじゃないか?」


「全ては魔王ルローグ様の御蔭でございます」


なんか、雰囲気変わった?瀕死なオーガの時はなんか出来る女騎士みたいな感じだったけど、今は召使いって言うか忍者っぽい。

今だってシュタッて感じに素早く俺の前で片膝立ちになってるし。


「そう言えば、お前の仲間だけど」


「察しております。あのマザーマンティスが来た方角、仲間達はもう……」


「いや、生きてるぞ?」


レイリーの顔色が少し暗くなった様な気がしたが、俺の言葉にバッと顔を上げ俺を見て来る。


「まあ、残念ながら全員ではないがな。数名が俺の感知に引っかかっている」


「いえ、数名生き残っていただけでも幸いです」


「あ、でもお前にはもう会わせられないけどな。実は俺は魔王としての存在を隠している。お前のその変わってしまった姿を見られればもしかしたら勘付かれちまうかもしれないしな」


「……そうですか。それは残念ではありますが致し方ない事でしょう。では私はこれからはどうすれば宜しいでしょうか」


「そうだな。とりあえずその喋り方もうちょっと崩せない?堅苦しいんだけど」


「善処致します…」


「あと、これからはお前には俺のそばで情報収集を担当してもらいたいんだけど。その為にまず冒険者になって貰う必要があるかな」


「承知致しました」


これからの事だけは一応簡単には言っておいたので、リアドラを呼んで帰る準備をする。

レイリーにも「生き残ったお前の仲間が来ると面倒だから早く行くぞ」と言うとすぐに立ち上がり、リアドラの後を随行して来る。

こうして俺は新しくレイリーを仲間(って言うか配下?)に迎え、村へと帰った。





キャライメージし難かったらイラストとか書いた方がいいですかね?

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