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Another Ep2:赤き大鬼の優しき女戦士。



竜の様な形をした大陸群。

その尻尾の位置に当たる大陸の名は、ティーレ大陸。その広大な大地の一角に、”レッドテイル”と呼ばれる魔域がある。そこに棲む者は魔物ばかりであり、その姿も禍々しい。魔域の環境は魔界と酷似しており、魔界に棲むはずの魔物がそこにも生息しているのだ。

”レッドテイル”の由来は、単純であり、その由来を知る者も、誰もが安直な名だと言うだろう。それもそうだ。ただ、竜の形をした大陸群の尻尾に当たる大陸にあるから”テイル”なのであり、そこに棲む魔物が赤を基調としてものばかりなので、名の頭に”レッド”が付いただけなのだから。


そんな安直な名の魔域”レッドテイル”は、その多くが森だった。

そして、その魔域の森に、一匹の赤いオーガの娘がいた。名前は、レイリー・オガリア。魔域に棲む、赤オーガと呼ばれる大きな鬼のような魔物の一種、その一族の集落で、赤オーガの戦士を束ねる隊長を任されていた。


その集落、村の規模はそこまで大きくはないが、そこには少なからずも百を超える赤オーガ達が暮らしていた。


そもそもオーガと言う魔物は、人型であることからも分かるように、多少の知性はある。だが、他の人型の魔物と比べると、”脳筋”と評価されてしまう程度には頭が悪いのだ。そんな”脳筋”なオーガの種族内の序列は、脳筋らしく力比べで決まる。どの集落でも、時期は違えど、毎年序列を決めるための力比べの祭りが行われる。

その序列祭とでも呼ぼう祭りで村長に勝った者が新たな村長となり、集落での全ての最終決定権を得るのだ。まあ、そもそも魔物の多くは”強きに従い弱きを統べよ”がポリシーでもあるので、ごく当然のことなのだが。


でも、それは逆を返せば自分より弱い者には絶対に従わないという事を意味する。レイリーの集落でもそれは例外ではなかった。彼女は弱くはないが、決して隊の中でも強いという事はなかった。しかし、なぜか村長の命により、一隊の長を任されてしまったのだ。


彼女は少し変わっていた。他のオーガや魔物と違い、力が全てとは考えてはいなかった。そして、オーガの割に知恵が回った。それだけでも十分オーガの中では異質な存在だったのだが、さらにはオーガには極めて珍しく、魔法の才があった。

彼女の魔法は闇魔法の中の幻影魔法。周囲を黒い霧で覆ったり、自分の姿を眩ませたりするのことが出来る魔法だ。その能力は、非力な彼女にとっては個人戦において微々たる効果しか及ばすことは出来ずとも、集団戦においては有能であり、村長もそれを理解していた。村長は、レイリーの回る知恵とその魔法の才を評価し、隊長へと推したのだ。

だが、そんな事情も知らず、魔法を見下す脳筋のオーガ達にそれは理解できるはずもなく、自分達より非力な彼女に従う者はいなかった。それでも、共に仕事を熟すうちに、周囲のオーガ達の反応は次第に変わっていった。

何度も彼女の魔法や知恵に救われ、共に過ごすうちに皆の考え方が少しずつ変わっていたのだ。だが、その主な原因は、彼女の知恵や能力ではなく、彼女自身の、レイリー自身の仲間を大切に想う優しい性格から来ていた。例えどんな状況でも仲間を見捨てず、常に仲間のために行動する。そんな彼女に、みんな惹かれていった。そして、ついには彼女の事を認めない者は一人もいなくなっていた。


レイリーが皆に認められるようになってから少しのこと。

いつもの様に周囲の森の探索から帰ってきた彼女は、報告の為に村長の屋敷へと訪れていた。他の建物よりも、いくらか大きな建物の一室の扉を叩き、中へと入る。

オーガの間には大した礼儀作法などないが、彼女は律儀に一礼してから入室する。


「失礼します。ただいま探索より帰還し、報告に上がりました」


「おー、レイリーか。で、わざわざ報告しに来たと言う事は何かあったのじゃろ?」


執務室の様な部屋の真ん中でソファーにくつろぐ屈強な体格の老人。彼がこの集落の村長であり、序列祭で三十二年に渡り連続で優勝している絶対的強者でもある。


「はい、どうやら魔域の中心部、もしくはそれよりも北の方角から警戒心の強い種類の魔物達が、周囲の森や山に逃げるように移動しているようです」


「つまり、北で何か起こっておると?」


「そう推測されます」


そのレイリーの報告を聞くと、村長は「そうか」と一言呟くと黙ってしまった。そして、村長は少し考えてから話題を変えるように話しだした。


「レイリー、お前は多くの仲間に信頼されておる。それは、お前の強さからではなく、お前の優しさからじゃ。」


「……はい」


「レイリー、お前は魔王様の話は聞いた事があるか?」


「はい、かつて魔界を統べる絶対的な力を持った魔人が五人いたと聞いています。それが後の魔王だと」


「その一人が、かつて我らオーガ族がお仕えしておった魔王ルローグ様じゃ。そのお方は、魔の名を持つ種族には珍しく、力が全てとは考えておらんかった。誰にでも平等に接しておられ、とても仲間想いのお優しい方じゃ」


「……」


「お前はあの方に似ておる。あの方と同じように、仲間想いなところがそっくりじゃ」


「私と同じ考えを持つ魔族がいたとは……、それも強大な力を持つと言われている魔王に……」


レイリーはその話に、そのルローグと呼ばれる魔王に、少なからず興味を覚えていた。そして、心のどこかで会ってみたいとも。


「それでじゃ。ルローグ様と同じ考えを持つお前にかけてみたくなってな、お前を隊長に任命したのじゃ」


「そうだったのですか…」


「その結果は十分に出た。力が弱きお前を、お前は部隊の全員に認めさせた」


「それは、私の力では…」


それは自分の実力ではなく、みんなの御蔭だとレイリーは訂正しようとするが、村長はレイリーのそんな主張には興味がないとでも言うかのように無視して話を続ける。


「そこで今度は、お前に村長を引き継いでもらいたいのじゃ」


「そ、それは!ダメです!村長は毎年、祭りで優勝した者だけが選ばれる。それ以外で決まった村長なんて誰にも認めて貰えるはずが…」


「わしは力も重要ではあると思っとる。じゃがな、村長の仕事をしていて一番大切であると感じるのは力ではない。本当に必要とされるのは、集落の者達のことを一番に考えられる仲間想いな心なのじゃ。」



村長のその言葉に、レイリーは黙ってしまう。


「かつて、ルローグ様は争いのない世界を目指しておられた。食物連鎖的に共存の出来ない者同士は仕方がないとは思うが、そうでない者が争い合うのは可笑しいと。幼少の頃に妹君様を争いで亡くされたルローグ様はそうお考えじゃった。」


「……争うべきではないというお考えには、深く共感します」


「そして、ルローグ様の博愛は人間までに及んだ。ルローグ様は人間とも争う事を拒んでおられた。だから、他の魔王を説得し、一度目の生では誰とも争わんかった。しかし、人間に裏切られて死去された。勇者に殺されたのじゃ」


「!?」 


「魔王様方は一度滅びてもまた蘇られた。そして、人間への復讐をお誓いになった」


村長はソファーから立ち上がり、書斎のデスクまで向かうと、そこの椅子へと座り変えた。そして、威厳あり気に肘をつき、手を組むと、再度話を始める。


「しかし、ルローグ様だけは違った。人間に裏切られたにも関わらず、まだ人間と争おうとはしなさらんかった。その時には、寿命の短い人間であった、魔王様方を倒した勇者は生きとらんかったからかもしれんな」


「それで、魔王達はどうなったのですか?」


「これ、様を付けんか。……そうじゃな、ルローグ様以外の魔王様方は人間を滅ぼそうとしておられた。じゃが、それをルローグ様が止めたのじゃ。相打ちでの共倒れという形でな」


「……そうなのですか。それから魔王様達は復活されたのですか?」


「いや、魔王様が相打ちで亡くなられた当時、わしは十二の歳であったが、それから今日に至るんでに魔王様方の復活の情報は耳にしておらん。魔王様方は復活の際に”魔王の咆哮”というスキルで眷族をお集めになる」


「魔王の咆哮、ですか?」


「そのスキルはこの世界の全土に轟き、眷族にその存在を知らせるためのものじゃ。その咆哮を聞いた眷族は魔王様の位置がある程度分かるのと同時に、”魔王の加護”が発動し、力が強化されるのじゃ。じゃが、その咆哮は高位の魔物や魔人、勇者にまで聞こえてしまう。まあ、それらには位置までは知られんじゃろうが、存在を知られるという事は危険じゃからタイミングを窺っとるだけで、すでに復活されておられる可能性も無きにしも非ずじゃがな」


「その、ルローグ様の眷族とは誰なのですか?村長は違うんですよね?」


「そうじゃ、わしは当時十二、会うことは出来たとしても眷族にして頂くには若すぎた上に未熟じゃった。今でも当時の眷族様方には遠く及ばんよ」


「そうだったのですか。そうですね、そんなに昔なら当時の眷族の方々も多く生きているかどうかも……」


「いや、生きているじゃろうな。魔王様の眷属契約は種族のレベルを上げるのじゃ。かつてルローグ様の眷族となったバンプと言うコウモリの魔物は、魔族の中でも上位のヴァンパイアと言う種になられておった。たしか名は、キューラ・シュードレ様と言ったかの。眷族様方もみな心優しいお方じゃった」


「そうでしたか」


「おっと、話が逸れてしまったな。要するに、わしは魔王様と同じ考えを持つお主に我らの一族を託したいのじゃ。返事は今すぐでなくともよい。考えておいてほしい」


そう話をまとめると、先ほど報告した北から逃げ去る魔物達の原因の調査をレイリーに依頼し、村長は話を終えた。




村長宅から外に出ると、レイリーはすぐに副部隊長であるハイディアの元へと向かった。すぐに隊員を集めさせて村長からの依頼へ出る準備をするためだ。


「失礼する。ハイディア、いるか?」


「おー、隊長じゃねぇか。どうしたんだ?」


「いや、今回の件で調査に出て欲しいと村長から依頼が出てな。すぐに準備してほしい。他の隊員も集めてだ」


「やっぱりか、今回のは異様だったからそうなると思ってたぜ。だから、隊員は帰らせずに待たせといた。みんな準備は出来てるぜ」


「そうか。ありがとう」


「おうよ!」


そう気前よく返事をするハイディアだが、すぐにレイリーの表情を見て何かに気づく。


「どうしたんだレイリー隊長。なんかあったか?」


「いや、大丈夫だ…」


「…そうか。ならいいんだがな」


少しの沈黙のあと、レイリーは恐る恐るというようにハイディアに訊ねる。


「ハイディア……私は…私は、誰かをまとめ上げられる様な人材だろうか?」


「なんだ?そんなこと悩んでたのか?ここの隊長はお前以上に適任はいねえよ。もし他の、もっと大きな集団をまとめ上げるとしても、隊長なら上手くやれる。俺はそう思うね」


「本当にそうだろうか…」


「なんだよ、らしくねえな隊長。シャキッとしろよな!」


ハイディアは喝を入れるようにレイリーの背中をバシッと叩く。不意に来るその衝撃と痛みに顔を強張らせながら、レイリーは抗議するようにハイディアを睨む。


「お前なら出来る。俺らをまとめ上げられたんだ。自分に自信持てよ、レイリー」


「ありがとうハイディア。だが、私も一人のレディなのだ。もう少し丁重に扱ってくれないだろうか」


「まあまあ、そんな怒んなって。それにこんくらいもう慣れてるだろ?」


「まあ、そうなのだが…」


「じゃあそろそろ他の奴らのとこに行こうぜ。みんな隊長を待ってる」


「そうだな。行こうか」


ハイディアとの話を終え、レイリーは他の隊員が待つ場所まで向かった。





続きます。

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