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Ep4:魔域の異変。


朝の父さんとの鍛練も終わり、昼前の勉強の時間を使って工作をする。

何を作るかと言うと"仮面"だ。魔域には少なからず冒険者がいることがある。むやみに魔法の訓練などしていて、魔王だとバレるまで行かずとも目立ってしまうと、その危険性も上がって来てしまう。なので正体を隠す為に仮面を作るのだ。


作り方は簡単。

まずはこの前倒したブラッディベアの頭蓋骨(ずがいこつ)を錬金スキルで形を少し変えて、自分の顔にフィットするように変形させていく。前へ長すぎる骨格をより小型化し、密度を高めていく。その上に装飾としてブラッディベアの魔石や爪を埋め込んだり取り付けたりして行くのだ。

ブラッディベアの骨は赤黒い。固まった血のようなドス黒さがある。そこに赤い魔石が輝きを放ち、怪しさが増す中、鋭利な爪の装飾が角の様に生え、異様さが更に増し、鬼髑髏(おにどくろ)とでも呼称してしまいそうなマスクが完成する。

うん、中学二年生辺りが好きそうなデザインだな。


形が完成した仮面に"スキル付与の儀"を執り行う。まあ、簡素な魔法陣の上に置いて魔力を込めるだけなのだが。

スキル付与の結果を見てみると、仮面には、認識阻害スキルと気配隠蔽スキルが付与されていた。

仮面としては上々のスキルだろう。


次はマントを作る。

マントもブラッディベアの素材を使う。ブラッディベアの剥ぎ取った毛皮をクラウドスパイダーの糸で縫いつける。(のみ)とかいそうだから火魔法で熱殺菌しまくった上での浄化魔法で清潔にしていく。

うん、もうこれでいいや。マントは街にでも行った時にもっといいの買うか。

同様にマントにもスキル付与した結果、俊敏上昇と気配隠蔽が付いた。




昼からは魔域に行く為に一度部屋に戻る。

リアドラは「外に出ないの?」みたいな顔をしてこちらを上目遣いで見上げてくるが、問題ない。なぜなら今回は歩いていくのではなく転移魔法で向かうからだ。前回、わざわざ魔域に入ってから帰宅したのは場所を確認するためではなく、この転移先として登録する為だ。

登録といってもこの転移は行ったことのある場所なら何処にでも行ける。転移距離に応じて消費魔力も増えるが、魔力の足りる距離であればどこへでもだ。

しかし、逆に言えば行ったことのない場所には行けない。つまり、一度は魔域に足を踏み入れなければならないのだ。


部屋に入ると周囲を感知スキルで確認し、人がいない事を確かめる。

父さんは仕事だし、母さんはリノアの面倒を見ているんで大丈夫だ。

他に心配する要素も無さそうなのですぐに闇の転移魔法を唱える。


「空間を繋げ、"転移門(ゲート)"」


魔法を発動すると、すぐ目前に黒い縦長の楕円形の空間が出来る。

その空間を覗き込んでも向こう側は見えないが、通り抜ければ転移先に一瞬で行けるのだ。

リアドラは俺の意を察したのか、その空間の出現とともに中に飛び込んだ。それに続く様に中に足を踏み入れると、周囲の景色は一瞬で魔域の入り口へと変わる。


「よし、周囲に人の気配はないな。」


転移門(ゲート)(くぐ)ってすぐに感知系スキルを発動し、周囲の安全を確認する。

周囲には特に変わった様子はない。魔素を含んで普通より少し黒くなった土に通常の森よりも一回りほども大きな木、少しどんよりとした空気が何処と無く落ち着く。

魔王だった前世の記憶があるからなのか、魔界に似た魔域の空気は心地いい。


鬼髑髏の仮面越しに周囲を再度確認する。最初は気付かなかったが少し違和感を感じる。

周囲の景色に可笑しな所は特に言ってない。だが、問題は別にある。先ほどから展開している感知系スキルに魔物の反応が一体もかからないのだ。

森ではどこであろうと昆虫や爬虫類、獣など様々な動物の反応がする。魔域も少し数は減るが森と同じように魔物の反応があるはずなのだ。大型の魔物がいなかったとしても小型の魔物は何処にでもいる。

なのに今はその両方の反応がしない。


「なにかあるっぽいな。行ってみるか。」


俺は毛皮で出来た少し赤黒いマントを翻す様に払い、森の深部へと向けて歩く。


「ガゥ!」


すると、突然リアドラがマントの端を咥え、引き止めてくる。


「ん?どうしたんだリアドラ」


「ガウガゥ!」


そう唸るように吠えると、リアドラはおもむろに巨大化し、「乗れ!」とジェスチャーするように首をクイッと、いや、どちらかと言うと「乗って乗って!」だろうか。巨大化しても何処と無く溢れ出す可愛らしさが命令よりは甘えを表現しているような気がする。


「ありがとうリアドラ。」


そう言うと俺は瞬間的に身体強化を脚部に発動し、リアドラの背に軽く飛び乗る。ゴツゴツとした鱗の上では座る場所がなく、立ったままだ。

俺が乗った事を確認すると、リアドラは一気に全速力で地を駆け出した。

おお!速い!速いけどリアドラさん、鱗がゴツゴツしててバランス取りにくいからこっちにも少し気を使ってくれ!

俺は振り落とされない様に少し身を屈め、リアドラの鱗の一枚を掴みバランスを保つ。




数分ほど進んでもまだ魔物の気配はない。冒険者も見ない事から冒険者ギルド側もなにか警戒しているのかも知れない。


この世界にはギルドや組合と言うものが存在する。冒険者ギルド、商業ギルド、鍛治師ギルド、狩人組合、能芸組合、忍の座、侍の座など様々な組合やギルドがある。ギルドと組合、座の違いについてはギルドが個を主とする組織、組合が複数を主とする組織の認識でいいだろう。座は東にある離島、日本に似た文化を持つ島国でのギルドや組合の呼称の仕方だ。


その中の冒険者ギルドは、主に魔物に対する戦闘をメインとする組合であり、動物との戦闘をメインとする狩人組合とは区別される。

冒険者ギルドも狩人組合も戦闘職の括りで同じにされるのでどちらも対人戦を行ったりもするが、対人戦は大抵、国や貴族お抱えの騎士がする事が多い。

その様に相手によって所属を分けられており、魔界や魔域を活動範囲のメインとする冒険者ギルドには、必然的にその場の管理が任される。専門に任せた方が上手く纏まるものだ。領主もある程度の権限は持つが、それも討伐報酬などの一部を税として払え、くらいにしか言っては来ないので余り関係ない。世界全土に広がる冒険者ギルドを敵には回したくないのだろう。


現在この魔域に冒険者などの人間がいないと言う事は、ここを管理する冒険者ギルドが立ち入り制限を掛けているのだろうと伺える。

少数の調査隊くらいは派遣しているだろうが、その程度ならもし原因の魔物と鉢合わせても心置きなく魔法が使えるだろ。


「それにしても本当になにもいないな……。」


リアドラも少し疲れてきたのかスピードが落ちてきている。体格操作のスキルは常に一定量の魔力を消費し続けるため、長時間の使用には向いていない。

そろそろ休ませるべきだろう。そこまで急ぐ要件でもないし、歩いて行動しても十分なはずだ。


そう思い、リアドラに止まるよう言おうとした時、魔力感知に微量だが、複数の魔力の反応が掛かる。


「リアドラ!反応があった!北方向に約350mだ!」


「ガゥア!」


その指示を聞いたリアドラは落ちてきていたスピードを再度加速させ、北に向かって走り出す。

魔力の反応はどんどん近付いていき、ようやくその正体が露わになる。


「魔物の死体か。魔力の残留量から見て死んでからほんの数時間だな。それにしても、こいつはスカーレットウルフか?」


そこに広がっていたのは、十数体のスカーレットウルフと呼ばれる赤毛の狼の魔物だった。ブラッディベアに比べれば戦闘力は落ちるが、集団で生活する彼らにとってはその程度の戦力差は数で補えるのだ。


「群としては中規模か。この数のスカーレットウルフが殺されたとなると、相当強い魔物だな。」


戦闘痕もほとんどない。圧倒的な戦力差だった事が予想される。

空気中に少し魔力が漂っているな。スカーレットウルフのものではないだろうし、目的の魔物のものだろう。

となると、向かったのは更に北か。


全速力で走って疲れ切ったリアドラに元のサイズに戻る様に言い、肩に乗せると、俺は身体強化を掛けて更に北へと向かう。少しずつ濃くなる空気中を漂流する魔力を辿りながら、その先にいるであろう魔物への対策を考える。


死体には複数の咬み傷があったが、それは獣のものではなく蟻の様な昆虫の牙で付けられたものに近かった。

昆虫は、口が小さいものから大きなものまで様々な種類がいる。咬み傷の大きさが分かっている現状で、もしそれが口が大きな種類の昆虫だったなら問題はない。だが、逆に口が小さい昆虫だった場合、その体の体積は途轍もなく大きなものだろう。


他に見られたのは、何かで強く挟んだかの様な圧迫痕とその上に等間隔に何かが刺さった様な痕が見られた。相手は牙以外になにか敵を掴む手段を持っている様だな。出来る限り相手に近付かない形で攻撃した方がいいだろう。


そんなこんなと思考を巡らせながらも、身体強化を緩めず、更にリアドラに負担が掛からない様に、俺はひたすらに駆けた。




視点がまた変わります!


誤字脱字があれば教えて頂けると嬉しいです!

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