Another Ep1:女神と転生者達。
リノアターン
前世の記憶は少し曖昧。
大まかには覚えてたりするのだけれど、人の名前や会話の内容が思い出せなかったりする。むしろ思い出せないことの方が多いくらいかもしれない。
自分の名前や家族構成も思い出せなかったけど、なにかトラウマを抱えて引き篭もってしまっていたことは覚えている。でも、そのトラウマの内容が思い出せない。イジメられていたんだっけ?学校や外が苦手だったのかもしれないし、誰か大切な人を亡くしちゃった気さえする。
まあ、前世のことは置いといて。
私は確かに死んだ。いや、殺された。誰に?神様に。お願い事の代償に。内容はあんまり覚えてないけど、死んだのは覚えてる。いや、覚えてるんじゃなくて知っているんだ。
そうして、死んでしまった私は現在よく分からない空間にいる。
何がよく分からないって、その空間を把握できない、認識できないのだ。上を見上げれば果てしなく空間が続き、先も見えないほど空があるのに、それに色はなく、その上距離が掴めない。なのに感じるのは閉鎖感ばかりで、低い天井の部屋に押し込まれている気さえする。周囲を見渡してみてもそんな感じだ。何も無いここに、私は、私達はここに閉じ込められている。
その場所には多くの人がいた。人数は数えられないほどでも無いように感じられるけど、その数は分からない。もっとも近い人でも50cmほどの距離なんだけれど、顔は認識出来ない。伝わってくるのは雰囲気だけ。男であり背が高い。女であり小柄。そんな些細な情報しか分からない。まるで認識を阻害されているように感じる。
周囲の多くの人が困惑している。
自分がなぜこんな所にいるのか理解出来てないみたい。騒騒とする雰囲気の中でも、話し声は一切しない。私も少し前に気付いたのだけれど、どうやら声が発せられないみたい。
周囲の困惑も収まらない中、突然、私達の前方に人影が現れる。だが、周囲の人達と同じようにその姿を正確に把握する事はできない。やはり認識が阻害されているようだ。
その影を全員が認識したであろう瞬間、頭の中に声が響く。
"はじめまして。私はとある世界を治めし神。神界第十八女神ロリィシスです。"
女神。姿は見えないのにどこか神々しさと、品の有る美しさを纏っている。初対面ではあるが、その名前は知っていた。私を殺した神。私と約束を交わした神。
"あなた達に頼みたいことがあります。実は私が治める世界に他の神、邪神が魔王を召喚し、支配しようとしているのです。"
ロリィシス、彼女が話した内容は、こう言う転生モノに定番な、こんなものだった。
曰く、過去に邪神が5体の魔王を召喚し、世界を乗っ取ろうとしたらしい。
曰く、その魔王達は初代の勇者達に倒されて死んだらしいのだが、何度か復活しているらしい。
曰く、魔王の復活は今回で三度目であり、一度目は次代勇者が勝利し、二度目は魔王同士での仲間割れが原因で不戦勝だったらしい。
曰く、今までは魔王の殲滅が目的だったが、今回は邪神の消滅が目的であり、その為に女神の使徒として五人の勇者と共に多数の転生者を召喚したらしい。
要するに私たちに魔王と邪神を倒して世界を救って欲しいってことか。話を聞くに、五大魔王を倒し魔王の持つ魔核を5つ集める事で邪神に辿り着くことが出来るらしい。
なんてゲームチックな設定なんだろうか。でも、シンプルでいい。目的がはっきりしている方が転生後も迷わずにすむ。
"では、今からみなさんを転生させます。その時、少なからずギフトを付けておきますので、転生後確認して下さい。"
その女神の言葉を聞いた瞬間から、徐々に意識が薄れていく。ボヤける意識は、目の前での事や女神の言葉が夢の中での事のように感じさせる。
まるで起きる直前まで見ていた夢の様に、起きた直後に思い出そうとする夢の内容の様に、その情景は記憶の中で薄れていく。
その比喩とは逆に、まるで眠る様に、その意識までもが薄れていった。
目を開くと同時に、意識がはっきりとしていく。
夢の様に曖昧な記憶を辿り、女神によって転生させられた事を思い出しながら周囲を確認する。
見えるのは揺りかごの縁に切り抜かれた天井だけ。身体が上手く動かなくてそれ以外は確認出来ない。動く身体を知っているとなんとももどかしい。
目を覚ましてから少し、ほんの数分時間が経つと誰かの足音とともに扉が開く。
扉の方角は揺りかごの縁に遮られて見えない。足音が近付きすぐそこまで来ると、私を覗き込むように見つめる金髪の男の子が視界に映る。目が合い、じっと見つめてくる。
見た目的には4、5才と言ったところか。幼いながらも落ち着いた雰囲気の漂う小さな男の子。少し短く切られた金髪の下には浅黄色の瞳。肌は白く頬は赤い。だが、そんな容姿は可愛さよりも格好良さの方が際立っており、どうしても見惚れてしまう。
小さな男の子を観察していると、彼はそっと私を抱き上げこう言った。
「リノア。お兄ちゃんだよ!分かる?」にこっ。
素晴らしい天使スマイルいただきました!彼は私のお兄ちゃんであり、どうやら私のお兄ちゃんはイケメンらしいです!そして優しそう!名前は....
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【簡易鑑定】
名前:ヒロト・ウィルベルク
Lv:5
年齢:4
性別:男
種族:人間
天職:魔物使い
職業:村人
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おぉ!なんか出た!
お兄ちゃんの名前はヒロトって言うのか!ヒロトお兄ちゃん♪ぐへへへ...
おっと、いかんいかん。かっこいいお兄ちゃんに見惚れてしまったではないか。年齢は4才か。多分、私は最近生まれたんだろうし4年差があるのか。天職は魔物使い、なんか面白そうな職業だよね。ゲームとかだと低ランクのモンスターしかテイムできなかったりするけど、小説とかだと時々チート無双してる職業だし!
あ、自分のステータスも見れるみたい。えーっと、名前はリノアで、天職は勇者か。女神が言ってたやつだよね。勇者は全部で五人だっけ?
あ、アイテムボックスの中にアイテムが一個入ってるみたい。なんだろ?
【女神からの贈り物:ランダムで天職にあった装備が出る。使用回数限度:1】
おぉ!装備が貰えるのか!
どうやればいいんだろう。鑑定の時みたいに、こうしたい!って意識すればいいのかな。
【SystemMessage:"女神からの贈り物"を使用しました。アイテム"女神からの贈り物"が"聖炎剣ディアドール"に変化しました。】
【聖炎剣ディアドール(☆10):勇者だけが使える剣。使用者のステータスに合わせて武器ステータスが成長する。形状は使用者にあったサイズに自動的に変形し、任意で変形することも出来る。属性:火】
聖炎剣?勇者専用装備ってことはそれなりに特別なんだろうけど、強さ的にはどうなんだろ?
まあ、使えるようになったら試してみよう。
そんな考え事をしていると、疲れて来たのか次第に眠くなってくる。
眠気に誘われるのとお兄ちゃんの抱っこが心地良くて、だんだんと意識が薄れていく。
ああ、もうダメだ。おやすみなさい。ヒロトお兄ちゃん……。
短くてごめんなさい!
誤字脱字あれば教えてもらえると嬉しいです!