Ep3:妹人が愛くるしい。
少し短めです!ごめんなさい!
―――勇者
それは魔王の絶対的な敵であり、人間を代表する強者。それがこちらの世界での共通認識であった。
その勇者に、妹は勇者に選ばれたのだ。え、リノアすごい!俺の妹すごい!将来有望じゃないか。さすがは俺の可愛い可愛い妹、魔王なんてリノアにかかればイチコロの一殺だよ!その魔王が俺なんだけどさ!うん……。
そのままステータスを見ていく。スキルはそこまで多くはない。魔法は火が得意みたいだな。それ以外で一番目を引くのは、
女神の加護:ステータス上昇。他言語理解。簡易鑑定。以上のスキルを授かる。
女神の呪縛:女神の命に従う代わりに、致命傷回避、成長補正のスキルを得る。
勇気:スキル使用時、任意の仲間のステータスを上昇する。自分より高いレベルの者と戦う際、実力以上の能力が発揮される。
この三つくらいだろう。
女神の名称が付くスキルと"七つの元徳"の一つ、"勇気"のスキル。
この世界では最高峰に位置する同時に一人しか取得できないスキル、"七つの元徳"と"七つの大罪"の計十四のスキルの内の一つだ。
それにしても、勇者か。
となると、リノアと同世代に他に4人の勇者が誕生するのだろう。
そして、勇者が誕生するという事はまた戦争が起きる。
レベリングを強化した方が良さそうだな……。
とりあえず、今日は森の調査に言ってみるか。
そう決めると、すぐに念話スキルでリアドラを呼ぶ。
一人での訓練を禁止しておいたのでどうやら近くにいたらしく、リアドラはすぐに現れた。
「よし、行くぞリアドラ!行ってきます、リノア!」
森に着くとすぐに魔力感知に気配感知、熱感知を発動する。全力で発動すると魔力が保たないので半分ほどの魔力でだ。それでも身体強化を使って多く動いた方が魔力の燃費が良かったりする。時間は少しかかるけど。
「それにしてもやっぱり異常は無いんだよなぁ……」
調査を開始して十数分が経ち、森も半分ほど探索し終わっている。
それなのに未だにその魔物がいた痕跡などはない。
やはりリアドラが犯人なのだろうか……。
そう思い、もう少し歩いてみると、木に何かの爪痕が刻まれているものを発見する。
「これは……クマか何かの爪痕か?クマの魔物は多い。ここだと魔域からも近いし、魔物の可能性も高いが……」
この世界は大きく分けて二種類の土地に分かれている。それは、魔素が濃く魔物や魔族が多く住む魔界と、主に魔族や魔物以外の人間や亜人、動物が多く住む聖界だ。(まあ、人間の教会関係者以外は魔界、聖界としか呼んでないけど。)
だが、聖界にも例外的に魔界と似た様な土地がある。そこには魔界の生物や植物が生息しており、その土地は魔域と呼ばれている。
「もし魔域から出てきた魔物だとしたら危険だな。ここはまだ村と近いし、いつ魔物が村を襲ってもおかしくない。」
リアドアもどうするか尋ねる様にこちらを見てくる。よし、とりあえずこの爪痕の犯人を探してみるか。
そう思いリアドアに指示を出そうとした時、「ガゥゥウウ!」と少し離れた辺りから唸り声が聞こえる。
爪痕に気をとられて感知系スキルが弱まっていた事に気付き、咄嗟に出力を上げ、感知範囲を広げる。すると、すぐに一つの魔力の反応と、二つの気配と熱源を感知する。
どうやら魔物が動物かなにかと戦っているようだ。
「行くぞリアドア!」
身体強化を再度掛け直し、地を蹴る。その感知が反応する位置まで10秒とかからない。
実際にそこに着くと、予想通り熊型の魔物と鹿が争っていた。鹿はすでに重傷、もう数秒で息絶えて死ぬだろう。
「熊型の魔物はブラッディベアか。とりあえず、爪痕の正体はあいつっぽいな。リアドア、やっておしまい!」
「ガゥア!」
倒した鹿を咀嚼し始めるブラッディベアに、身体を巨大化させたリアドアが襲いかかる。リアドアの存在に気付くのに遅れたブラッディベアは奇襲を受ける形になってしまい、その初撃を躱すことができなかった。
「あ、うん一撃なんだ……。強くなったなリアドア……。」
リアドラが倒したブラッディベアの胸をエグり、魔石を取り出す。
それを口を広げて飲み込むが、アレは食べているのではなく、体内にある収納袋に保管しているのだ。なんかリトルアースドラゴン固有の器官なんだとか。
それにしても、魔物の中でブラッディベアはそこまで弱い部類ではない。魔域から出てくる魔物は、大抵魔域内での生存競争に負けた者だ。つまり、魔域内にブラッディベアなどを追い出すほどの強力な個体が発生した事になる。
これは一度調査して、場合によっては討伐も必要かもしれないな。まあ、どうせリアドアの訓練の場所は森から魔域に変える予定だったし問題はない。それに自身のレベリングも必要だからな。
とりあえず、今日は魔域の入り口まで行って見て少しレベリングしてから帰宅するか……。魔域は広いから調査は明日だな。
家に着くとリノアが起きていた。
え、目開けてるんだけど!?可愛いつぶらな瞳で見つめて来てるんだけど!?可愛い!アーって手を伸ばして来て可愛い!はいそこ、赤ん坊は生まれてから2、3週間目を開けないとか言わない。
リノアはまだ首が据わってないから自分では身体を動かしたり出来ないようだ。
そっとリノアを持ち上げ、あやすように抱き上げる。
「リノア。お兄ちゃんだよ!分かる?」
まだ理解出来ない年齢だと分かっていても話しかけてしまう。可愛いんだから仕方ないじゃないか!
そうやって長い間抱いていると、疲れてしまったのか寝息を立て始める。
あー、寝顔も可愛いな!
「おやすみ、リノア。」
そっとリノアの頭を撫でてから、俺は部屋を出た。
次話は目線変えますね!