Ep1:前世を知り初めて転生を知る。
受験終わりました!
まあ、合否待ちなんですけどね!
週一更新くらいです。
はじめはたくさん書く予定ですが……
太陽の光がよく射す大きな窓があるお気に入りの部屋。
絵本を開いたまま、寝てしまっていたらしい。目を覚ましてみると、薄手のタオルケットがかけてあった。
寝起きで半開きの目を擦り、部屋を出てリビングへと向かう。
そこにはソファーに座るお腹を大きく膨らませた母さんがいた。
「あら、ヒロト。起きたの?」
「うん、ママ。お腹空いた。」
空腹を訴えながら、母さんが座るソファーの隣まで行く。
「もうすぐ生まれるの?」
「そうよ。先生はあと一週間もしないうちに生まれるって言ってたわ。お昼ご飯、すぐ作るから待っててね!」
そう言って母さんはガスコンロの様な魔道具に魔力を流し、火を付けた。ん、ガスコンロ?魔道具は魔道具だ。他に名前なんてない。言ったとしても火の魔道具とかそこら辺だ。
とにかく火を付けた母さんは、風魔法で鳥の首を切り落とし、ぶつ切りサイズに切って行く。
そう言えばみんな包丁使わないな。あれ?てか、包丁ってなんだっけ?
頭の中に知らない単語や知識が溢れる様に増えて行く。そう言えば、母さん?俺は、いや僕はママの事はママって呼んで……。
そんな事を考えていると、目の前にメッセージログが出現する。
【魂の集約と一部の記憶の復元が完了しました。】
その瞬間、理解する。
俺は死んで転生していた。
なんで死んだかは覚えていない。前世の名前も分からない。けど、少なからず前世の記憶はある。
現在の俺の名前は、ヒロト・ウィルベルク。4歳の男児。
父はウィルダム・ウィルベルク。今は狩人をしている。母はルーシエ・ウィルベルク。前世の言葉では専業主婦だが、この世界にその様な呼び方はない。
そして、新しく生まれるルーシエ母さんのお腹の中の兄弟。男の子ならリヒト。女の子ならリノアにするらしい。
前世の俺は、高校生の時に死んだらしい。家族は何人いたか覚えていない。友人も、知り合いの一人の顔も、名前も思い出せない。だが、確かに前世で俺は存在していた。
前世の世界の知識はある。物の名前や地理、学業の知識など一般知識はあるようだ。
思い出せないと言う感覚は不思議だった。そこにあるはずの、パズルのピースが欠けている様な不思議な感覚。だが、そんな事を考えている事もほんの一瞬だった。
俺は意識をすぐに戻し、そのまま普通に生活を続ける。ただ、忘れていた事を思い出しただけ。そこまで意識する事でもない。
「ん?どうしたの、ヒロト。ボーッとしちゃって。」
「ん?なんでもないよ。あ、ご飯なに作ってるのー?」
「今日のお昼はヒロトの好きなウィークバードの餡掛けよ!」
「わー!美味しそう!」
そんなたわいも無い会話を続ける。記憶が蘇った事により、思考なども少し大人びたモノになってしまっているが、それをそのまま出すのは周囲の人間を混乱させかねない。なので、普段通り、4歳児らしい態度で応答をする。
その後、俺は昼食を食べ、さきほど寝ていた部屋へと戻った。
記憶が戻り、自分の将来について考えておきたくなったのだ。
とりあえず、今必要な事は将来の最終目的地点、就職に着いて考える事だ。
と言っても、ここは剣と魔法の世界。前世の記憶では職業の種類も分からない。
「とりあえず、魔物がいるみたいだし戦える程度の運動はしておこう。」
俺がこの世界について知っている事は、
・現在自分のいる国が王政であること。(この世界の約9割がそうなのだが)
・魔物がいること
・戦闘職は優遇され、英雄視されること
・学校(冒険科、騎士科、商業科、農業科)があること
・自分のいる場所は地方の田舎の村だということ
くらいである。
戦闘職には憧れるが、もし才能が無かった場合を考えると商人の道も考えておいた方が良さそうだ。
とりあえず、習慣的に簡単な運動と後は勉強だな。
確か父さんの書斎に本が何冊かあったはずだから、まずはそれを読んでみよう。
やる事が決まると、父さんの書斎へと向かう。父さんの書斎は二階にあるのだが、4歳の体に階段は結構くるな。
書斎に入ると、父さんのいつも座る机の後ろ側に20冊程の本が置いてあった。
その中から適当に一冊抜き取り、中をパラパラとめくる。読めない言葉も多いが、6割くらいは読む事が出来る。この世界の文字は日本のように漢字は無く、全てひらがなの様な一文字一音ずつの文字で書かれているので読む事は難しくはない。
後は、普段喋っている言葉と照らし合わせながら読んでいき、分からない単語などは前後の言葉から名詞なのか動詞なのか程度だけ理解出来たら意味を考えずに読み飛ばす。
そうしていれば、そのうち感覚的にある程度の意味が予測できていくのだ。
この本はどうやらこの国の歴史について書かれているらしい。商人にとっては覚えておいた方がいいだろう。内容は建国から数多に渡る戦争の歴史、その結果の獣人や亜人の奴隷化などが書かれている。後に奴隷解放運動から一部の奴隷は解放されたが、奴隷制度は未だに残っているらしい。一部の人間、主に貴族ではまだ人間至上主義の思想を持った人間も多いらしい。
他には魔族とその他全種族での全面戦争。魔族は姿が限りなく人間に近い者もいるようだが、見つけ次第駆除するか国に報告するのが義務づけられているようだ。中には魔族を愛玩用奴隷として飼っていた貴族が処刑された例もあるらしい。
魔族の中に魔王が生まれ、五体の魔王が人間と敵対し、当時数百あった国のほとんどを滅亡においやったらしい。その時、五つの国で勇者の天職を持つ子供が生まれ、五人の勇者が魔王を倒し、世界を救ったようだ。そのうちの一人がこの国にいたとも書かれている。
歴史……長いな…。
えっと、
・亜人獣人奴隷化からの一部解放。奴隷制度現在進行中。覚えた
・貴族亜人獣人嫌い。覚えた
・魔族必滅ここ重要。覚えた
・勇者対魔王、5対5の世界を賭けたデスマッチ。覚えた
まあ、政治についてももうちょっと知っておいた方がいいだろうな。
亜人や獣人には正直夢を見てしまうが、貴族などは嫌っているようだ。まあ、前世でも火星でゴキブリが人間になったら嫌われてたし、同じなのかな?ゴキブリと犬や猫が同じなのかは分からないが。
と、そんな事を考えていたせいで後ろから忍び寄る人物に気が付かなかった。
「あーなんだヒロト。こんなとこで俺の本読んでたのかー?まだお前には難しいだろ」
「わっ!パパ……びっくりした…」
「はっはっは、今日はヒロトの好きなウィークバードを沢山狩ってきたんだ!晩飯が楽しみだな!」
「………お昼に食べた」
「……そうか」
あ、父さんが落ち込んでしまった。
うちの家庭は父も母もとても優しく、よく可愛がってくれる。本当にいい家族だ。前世の家族の事は思い出せないが、もしかしたら前世でもこんな感じだったのかもしれないな。
そんな感じに父さんが落ち込んでいると、一階のキッチンから「ウィル〜!ヒロト〜!ご飯出来たわよ〜!」と母さんの声が聞こえてくる。落ち込む父さんの背中を見ると少し気まずい。
「ねぇ、パパ……僕、剣使いたい……教えて?」
そう4歳児らしい拙い言葉使いで頼んでみる。すると父さんの表情が一変して明るくなる。
「おぉ!いいぞいいぞ!教えてやる!こう見えても父さん昔は王都の方でぶいぶい言わせて…」
と、急に元気になりなにか語り出そうとした所で母さんの「早く!」との催促が掛かり、話題は半ば強制的に終了させられる。
夕飯を食べたあと、明日から剣術の稽古を朝にしてくれる事になった。
明日は朝早くから稽古なので、今日は早くに寝た。
草木も眠ると言われる時間、無意識に目が開く。
覚めてしまった目の視界には一つのメッセージログが表示されていた。
【一部の記憶の復元が完了しました。】
薄っすらと輝く光が徐々に強くなって行くように、ゆっくり、ゆっくりと記憶が濃く思い出されて行く。
その記憶はこの世界の知識。だが、どうやら視点が偏っている。人間視点の記憶じゃない。魔族、その中でも一際強い魔王の記憶。
その記憶の中にあった一つの魔法を唱える。詠唱は最小限まで短縮した。
「"ステータオープン"」
そう小さく口にすると、視界の真ん中にステータス表示が現れる。
そこにいくつも書かれた項目。その中で、一際目を引くのが天職の欄だった。
天職:魔王(ルローグの転生体)
五人いた魔王の一柱、ルローグの転生体。主に人型の魔族や魔物の長。
他にもいくつか目を通して行く。ステータスの筋力値などは至って普通。だが、スキルが多かった。全属性魔法の中級までと、闇魔法は最上位の神級まで取得しており、その他にも魔物化契約スキルやステータス隠蔽スキルもある。スキルの説明は後でするとして、大体全部で100ちょっとくらいだろうか。
とりあえず、ステータス偽造スキルでステータスを書き換えておこう。
魔王だとバレたら面倒になりそうだからな。
天職を魔王から魔術師に書き換え、スキルは火と風の魔法の初級だけにしておいた。
明日からレベル上げにも専念するか。他のステータスもマメに書き換えておこう。
窓から差す日の眩しさに目が覚める。
どうやらあの後、すぐに寝てしまったらしい。
とりあえず、まだ眠い身体を起こしてリビングへと向かう。
「おうヒロト!起きたのか!」
「おはようパパ」
「よし!机の上にあるパンを一欠片食っとけ。今から剣術の練習してやるからな!」
そう言われ、机の上にあるパンを一欠片だけ頬張る。
起きたばかりで空いていたお腹が少しだけマシになる。
「お、食ったな。じゃあ庭に行くぞ」
父さんに連れられ庭に出ると、父さんが木刀を投げ渡してくる。おいおい、父さん!俺4歳児!危ないだろ!
「その木刀をまずは持つだけでいい。俺がその木刀に打ち込むから絶対離すなよ?」
父さんにそう言われて、木刀を構える。イメージは剣道の握り方に、足はそれを少し崩した形のものだ。どちらかというとボクシングのそれに近い。
剣道の構え方は縦方向に力を入れやすいが、横方向へのバランスが少し劣る。受けるだけなら剣道の型ではない方がいいだろう。
「じゃあ、行くぞー」
そんな軽い合図とともに父さんが踏み込んでくる。あまりの勢いと威圧感に一歩下がってしまう。
そこに強烈な一撃が木刀へと入り、手が痺れる。
「お、木刀を落とさなかったか。なかなかやるじゃないかヒロト。」
父さんはそう褒めながらも手を止めない。また二撃、三撃と打ち込み続け、五撃目にして俺の木刀が弾き飛ばされる。
「どうだ?これが戦闘での攻撃を受けた時の衝撃だ。本来はこれを受け止める、あるいは受け流してから反撃しなければならない。」
父さんはそう語りながら、拾ってきた木刀をまた投げ渡す。
「今日から毎日、本気で木刀に打ち込んでやる。それを最低一週間以内に二十撃くらいまでは連続で受けれるようになれ。それから型を教えてやる。木刀の握り方は出来てたみたいだしな。」
そう言い、父さんはまた最初の位置まで戻り、構え直す。
「じゃあ、もう一回行くぞ。ヒロト」
その言葉と同時に父さんは踏み込み、またも強い一撃を打ち込んでくる。
父さん、俺まだ4歳なんだけど……。
ちょっと年齢に合ってなさ過ぎませんか?
それから二時間ほどその練習を続けた。結局、最高で連続で受けたのは七撃だけだった。しかも、受け止めたのではなく、受けたのが、だ。まだまだ道は長いな……。
練習が終わり、家に入ると母さんが朝食を作ってくれていたので、それを食べた。その後すぐに父さんは仕事に行ってしまったので、俺はまた父さんの書斎で勉強だ。
昼には森に行ってみよう。
したい事もあるし。
と、言うことで昼になり森に来た。
場所は家の裏にある山のすぐ横辺りだ。
そして、今からしようと思っている事は主に二つ。
魔法の練習と魔物化契約だ。
魔王の記憶から魔法は簡単に使えるだろうが、実際にこの体でどの程度使えるか知っていく必要がある。そして、魔物化契約だが、動物や昆虫を魔物に変化させて眷属にするスキルだ。これをしておくと、天職を魔物使い辺りに書き換えておける。
魔物使いのメリットは自分で戦わないので、戦闘でミスを犯し、力を使い過ぎて目立つなどのトラブルを防ぐ事ができるところだ。
とりあえず、三体ほど動物を探してみよう。
歩きながら指先に、火、水、風、土などの初級魔法、各種ボール型を浮遊させ、飛ばす。
ファイヤボールを木に当てたあと、その火を消すようにウォーターボールを当て、ウィンドボールで切り刻み、クレイボールで叩き折る。
四つ全て一つの木に当ててようやく直径20cmほどの太さの木が折れる程度の威力だ。
「やっぱり初級魔法は威力が弱いか。どちらかと言うとその属性の優越を活かして戦う感じだな。」
中級魔法の防御壁型、武器型の魔法も数個試したが、武器型はどれも一撃で先ほどの太さの木は倒す事は出来た。
防御壁型はその武器型を二度まで防ぐ事ができ、苦手属性なら一度、得意属性なら四度まで攻撃に耐えた。
「それにしても動物いないな……。」
こんなに魔法の練習をしていては、逃げられてしまうのは当たり前なのだが、それにしても居なさ過ぎる。
仕方なく近くの昆虫や爬虫類を探す事にした。
「お!トカゲだ!めっちゃドラゴンなトカゲがいる!」
そこにはトゲトゲの鱗をしたドラゴンを小さくした様なトカゲがいた。鑑定スキルで見てみたところ、名前はアルマジロトカゲと言うらしい。全長15cm程で、色は乾いた土のような色をしている。
「こいつでいっか。って、あー!逃げんな!」
捕まえようとすると、トカゲは手をスルリと躱し、木の上へと逃げて行く。
ムキになり、とっさに闇魔法を発動する。詠唱は破棄し、魔法名だけを唱えた。
「"シャドウプリズン"!」
その上級闇魔法は、トカゲを自身の影の中へと拘束する。
自分の影に包まれたトカゲは、その体を少しずつ影へと沈めていく。
「よし、なんとか捕まえたな。」
影に沈んでいくトカゲを両手でそっと持ち上げ、その顔を覗き込む様に抱く向きを変える。
腕の中で暴れるトカゲにスキルの"魔王の威圧"で威嚇し、黙らせる。
あ、ちょっと震えてる…。やり過ぎたかな……。
「とりあえず、魔物化契約をするか。」
指に魔力を集中させ、そっとトカゲの額を撫でる。魔力が額に薄く付着した事を確認し、詠唱を開始する。
魔物化契約の詠唱は契約対象によって変わるのだが、魔法を使い始めるとなんと詠唱すればいいのか自然に分かる。
「大地の鱗を持ちし、地を這う竜族の僕よ。その形貌を変え、我に仕えよ!"魔族化契約"」
誤字脱字あれば教えて頂ければ嬉しいです!