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〈想い、想われ〉物語集

無題の想い

作者: 高戸優

 人の往来が激しい場所で、視線を上下左右へ動かし続ける。平均身長より少々高い君の背中を探すには、こっちの方がいいだろうと上を重点的に見まわした。


 やっと見つけた後ろ姿。見慣れているけれど何処か真新しさを感じる、大切な君の後姿。


 見つけたら安堵が襲ってきて、同時に少しだけ鼓動が早まる。理由不明な身体現象を不思議に思いながらも、走りだした。


 人の波の間を縫って前へ前へ。途中で飲まれて、君の姿を見失ってしまう。けれどそれでも、何度も何度も見つけ出す。


 ……どれだけ波に飲み込まれていても、見つけ出す事が出来るから不思議だった。


 人を掻きわける度に迷惑をかけた相手に謝り続ける。一歩一歩進むたびに、鼓動は何度も自由に踊ってみせた。


 精一杯伸ばした手でシャツを引っ張り、名を呼んで引きとめる。 振りむいてもらえただけで、舞い上がるくらい幸せなのはなぜだろうか。


 微笑んで私の名前を呼び返してくれる。どうした、と問うてくれる。


 それだけで、理由は分からないけれど自然と笑みが零れる位、舞い上がってしまう位には幸せだった。







 翌日の早朝。君を無意識に探しながら、歩いた登校道。幾つもの笑い声が上がる波に、君の姿はなくて悲しくなる。


 私の感情は、何時の間にか君の有無や君の表情――さしづめ、君を中心に回っている様で。


 ……どうしてだろうなぁ。君がいれば嬉しくて、君がいなければ悲しくて。君が笑えば嬉しくて、君が悲しみに満ちてれば悲しくて。


 自分ではコントロールが効かない上、君中心で移り変わる感情。初めての感覚に未だに名前がつく気配は一切ない。けれど唯一分かるのは、はっきりと断言できるのは君相手の時だけだという事だった。


 何だろなぁ、と思いながら今日もその姿を探し、見つけた瞬間追いかけ始める。


 息を切らして、走った。早く会いたいとはやる気持ちを抑えつけながら。


 気付いた時にはもうどうしようもない程落ちているとは知らないままに。







 暫くした後。君の笑顔を見て確信してしまった感情に、ようやく名前が付いた。それがいいか悪いかは分からないけれど、ついてしまったのだ。


 数日間、慌てふためいて何も手につかなくなったのは言うまでもないだろう。


 動悸の理由もすぐに見つけられる理由も分かった後には、酷く焦った。


 すでに救いようがない位落ちていると気付いた後には体中が火照った。


 それからは話しかけられる度にびくつく日々だったけど、嬉しかった。


 君に話しかけてもらえた、君と時間を共有した、という事実は酷く幸せだったから。


 けれど、ちょっとした恐怖心も同時に浮かんできたり。


 君に言葉を投げかける度に、気分を害してないか心配になった。君に笑いかける度に、どう映っているか無性に気になった。


 何てめんどくさい感情何だろう、とため息を漏らした日々もあった。けど捨てる事は出来なかった。


 何でだろうね、めんどくさくても大切で仕方が無いんだよ。


 焦る気持ちも、はやる気持ちも、心配な気持ちも、愛おしい気持ちも、全部全部。


 大切で大切で守って生きたくて。


 私はそっと抱きかかえて、行く事に決めたんだ。





 あれから幾つかの日が過ぎた。臆病な私は伝えることなく日々を過ごしていた。


 目をまともに合わせられないくらい動揺して、無駄に距離感を意識して。けどやっぱり根底は揺らがないままで、性懲りもなく姿を追い求めて探し歩く日々。


 一体どれだけの時間を重ねて、この感情を抱えて行くんだろう。ちょっと疑問に想う日々。


 臆病だから、君から告白してくれないかな、と考えてしまう日々。けれど気配はないなってしょんぼりする日々。


 今日も視線を上げて、踵も上げて君の姿を探していく。つま先立ちで数歩進む。ちょっと移動した視界でも君はいなくて、ちょっとだけ悲しくなった。


 踵を一旦着地させる。ちょっと背伸びして買った靴のヒールが高く鳴った。


 君を中心として回る感情は何時か、届くのだろうか。届ける事は叶うだろうか。


 ちっぽけで大切な想いを伝える、それだけの事だ。今はまだ分からないけれど、鈍感な君と臆病な私という現状じゃ勇気よ起これと願い続けるしかないようで。


 小さくため息をひとつ。何だかなぁ。呟きながらもう一度踵を上げて探してみる。ぐるりと見回して、一瞬映った君の姿にくぎ付けになった。


 姿を見つけただけて鼓動が踊る。姿を見つけただけで悲しい気持ちは消え去っていく。


 ……本当に、私の日々は君を中心に回っている様で。


 苦笑しながら踵をもう一度地面へ。深呼吸をひとつした後、振り向いてもらえるよう願いながら、性懲りもなく君の名前を呼んだ。


 願った通りに振り向いてくれた君は更に笑いかけてくれた。最近よく会うな、と言ってくれる。


 当たり前だ、と想いはしたが出かけた声は飲み込んだ。


 君は知らないだろうね。私が一生懸命君を探している事を。


 君は知らないだろうね。私が君にとあるものを抱いている事を。


 君は知らないだろうね。私の日常の中心に君が居る事を。


 不思議そうな君を見ながらまだいいよ、と想う。


 まだ知らなくていいよ、と内心で呟いた。


 何時か、分からせてあげるから。その時まで知らないままでいいよ。


 何時か――私が君の隣に立ってみせるから。


 誰にも届かない宣戦布告を抱えながら、君に向けた笑顔。





 きっと、綺麗に笑えただろう。







ツイッタ―で流したら、某フォロワーさんに気に行ってもらえたものを書き直してみましたー。

恋愛? したことねぇよ状態の作者が書いたのでまぁ想像上が多いですが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。

では、高戸優でした!

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