後編
惑星ショコラ、少しお値段が高いのですが食べてみたいものです。
今日は、新月か……。
ページの端に映る天気予報を見る。僕の趣味は、星を見ることだ。新月の日は、特に星が綺麗に見える。
ニュースという文字をタッチし、ページが表示されると、一番上に火星、金星、木星など沢山の星と同じ色をした、半円のものが映し出された。
なんだ、これ……。
それは、照明によってキラキラと輝いていて、僕の目には宝石のように映し出された。僕がそれに見とれていると、いつの間にか担任の先生が来ていた。僕は慌てて携帯をしまい、周りと合わせ重い腰を浮かせた。
今日も、何事もなく一日が終わろうとしている。放課後の教室には、チョコを持った女子どもが街灯に集まるハエのようにわらわらと集まっていた。
そんなにバレンタインが楽しいか。僕にはまったくもって理解出来ない。そもそも、こんな地味な男にチョコをやるような女子など存在しない。チョコを貰える男子なんて、この学校の五分の一いるかいないか程度なのではないか? その内の大半は、髪の毛をワックスで、てかてかとさせた間違った日本語を使う馬鹿な奴なのだろう。
あぁ、くだらない。
僕はマフラーを首に巻き、手袋をはめ教室を出た。
昇降口は風がよく通るため寒い。足元には、自動ドアをくぐり抜け入ってきたと思われる、枯れた銀杏の葉が落ちていた。こんなにも寒い日は、帰るのも気が滅入る。
革靴に履き替えようと靴箱に手を伸ばすと、隣の靴箱に目が行った。明らかに、ラッピングのリボンが出ている。僕の隣は誰だっただろうか……。どうせ、イケメンと言われる人間の一種だろう。
バレンタインという行事は、本当にくだらないな。靴と一緒にチョコを入れるなんて、僕には到底理解できない。それに、チョコの何がそんなに嬉しいんだ。
僕は靴箱を開き、革靴に履き替えた。その時、何とも言えない渋い色の箱が、足元に落ちた。僕が見た限り、それは僕の靴箱の中から落ちたものだった。ピンクの目に悪そうなラッピングや、赤や黄色などの女子が騒ぎそうな色のリボンは巻かれていないけれど、僕にはそれがすぐチョコだと分かった。
うるさい女子も、寒いこの季節も嫌いだけれど、バレンタインってのは悪くないのかもしれない。
僕はマスクの下で笑みをこぼし、火星の色をしたバレンタインチョコを、一つ口に含んだ。
こんなことがあってもいいかなぁ、なんて。