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俺の友達の話シリーズ

作者: 尚文産商堂

注意!この作品に書かれている呪いの方法は、わざと不完全な物にしています。現実世界で行っても、効果がないばかりか、自分自身に跳ね返ってくることがあります。決して真似しないでください。

 線香の煙が、未だに消えぬ部屋の中。私は彼の冷えた体を見下ろしていた。

「…これで満足?」

 まだ5歳になったばかりの子供が、父親を起こそうと、わずかに揺らしていたが、起きるはずはない。私が彼を殺したのだ。といっても、死亡診断書には、自然死として書かれている。私が彼を殺した方法は、呪いによってだった。


 最初から説明をすると、私と彼が出会ったのは、19歳の時。大学で、たまたま一緒のゼミになったのをきっかけにして、私は彼に接近することにした。元々は、好きでも何でもない相手だ。だけど、彼を、気付いた時には好きになってしまっていた。

 必要なのは、単なるきっかけ。そのきっかけをくれたのは友人だった。詳しいことはプライバシーにかかわるから言えないが、彼との距離を近づけてくれる行為だった。

 そして、私は彼に告白をした。彼はすぐに受け入れてくれて、私は晴れてカップルとなった。

 それから、私は彼と結婚をした。彼も私に優しくしてくれて、22にして子供もできた。でも、幸せの後には不幸もある。そのことを、私はすっかりと忘れていた。ずっと、この幸せのままでいてほしかった。


 でも、人生はそうはうまくいかない。彼は、私と子供を置いて、別の女のところへと向かった。それが、私には恨めしかった。

「恨みますよ……」

 その声は、当人には届かないだろう。だが、私は口からこぼさずには居られなかった。そして、歯車は、嫌な音を立ててきしみ始める。


 呪い、というのは、簡単なことだ。相手と自分と媒体があれば、事足りる。あとは、媒体を通して、相手へと念を送ることになる。もちろん、相手が呪われているという意識があることが前提なので、そのあたりもぬかりなくネタを仕込む。

 彼のメールに、呪いの手紙を送りつけたり、無言メールを送ったり、電話にも細工をする。こうすることによって、彼は徐々にノイローゼ気味になって行った。

 仕事することもできなくなり、鬱の症状が出始めると、あと一歩だ。

「ねえ、大丈夫?」

 私は布団に眠っている彼に、話しかける。

「大丈夫じゃない…」

「今日は病院へ行く日でしょ」

「あー…いいや」

 ここまでは、計画通りだ。あとは、締めにかかる必要がある。


 丑の刻参りが有名ではあるが、実際の効果は薄かったりする。なので、私がしたのは、とある部屋で執り行う呪術だ。もう、戻れないことは分かっている。願わくば、彼が来世で楽しく生きられることを願うだけだ。

 彼が吐血した時の血を10ml、木偶を1体、彼の髪の毛が1束。さらに、彼の名前と指紋が描かれた紙。これで、呪いができる。

 部屋の中に誰もいないことと監視カメラや盗聴装置がないところはまずは、私の身を清める。湯浴みをしてから、精神的に清めるため、九字印を切る。臨兵闘者皆陣裂在前(りんぴょうとうしゃかいじんれつざいぜん)という印を結ぶ。気もゆっくりとした呼吸で、私の体の周りに漂わせる。

「…いこう」

 一言息を発する。それがきっかけとなり、部屋の空気が一斉にこちらへ向かってくる。

 タン、タン、タンと3回手を叩く。そして、印を次々と結んでは解く。その一つ一つに念を込め、ただひたすらに彼を呪い続ける。

 逆送という手法を使って、先ほどとは逆の順番で言葉を唱えていく。それで、気を混ぜていくのだ。それをしながら、次の段階へといく。

 気を練り上げられたら、木偶に血をなすりつける。

「我が恨み、この血と共に晴らし給え」

 そして、髪の毛を木偶の真ん中あたりに巻きつける。

「我が恨み、この髪と共に巻き給え」

 さらに、紙で木偶を包む。

「我が恨み、この紙と共に包み給え」

 最後に、木偶に私の息を吹き込む。これが私の念を吹き込むことになるわけだ。術はこれで完成する。余った術式の材料などは、忌み火を()り、その火に投入した。

「我が恨み、晴らし給え。巻き給え。包み給え」

 その炎の中に、声を投げかける。これで、呪いは完了した。


 効果が表れたのは、次の日の夜だった。彼は、唸りながら、飛び起きると、急に何もない穀雨へ向けて、手足をバタバタさせ、来るな来るなと叫んでいた。

「どうしたの」

「あ、あいつらが…あいつらが迫ってくる!やめさせろっ」

「あいつらって、誰?誰もいないじゃない」

 彼は、えっと言い、そして、宙を見る。確かに、誰一人として近寄ろうとしている人はいない。幽霊は私はもとから見えないから、どうしようもない。

「大丈夫だから、ね」

 これも、呪いの効果なのだろうか。私には判断がつかなかった。


 それから、しばらくして、彼は死んだ。あっけなく、簡単に。

 私は、最後まで彼に嘘をつきとおした。ノイローゼになった原因の女は、私じゃないと。別の誰かだと。

 ただ、死んだ彼の顔は、とてもすがすがしく、穏やかな顔をしていた。

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