黄昏時御伽噺
「彼」が雪路を静かに過ぎていく。
外には「彼」以外の姿は見えない。
他の者はみな、「彼」によって語られる物語を震えながら聞いているのだ。
静かに、ぼんやりと物語は語られ始める。朧月夜には贄にされた王女の話を。
夏蛍の夜には女神のように美しい機械人形の話を。
秋の長夜には眠れる光と闇の話を。
冬の雪夜には彼と同じ名の、彼と同じ記憶を持った者の話を。
さあ夜の物語を聞こうじゃないか。窓は閉まっている。
ひんやりとした硝子を透かして、歌うような声がゆるゆると流れ込む。
それはさながら、子守唄のように――