3話 ~入希~
次の日、俺と都夢技は、約束通り、5時に部室前にやってきた。
「みんな遅いね」
確かに遅い。もうとうに5時は過ぎてる。
短針は5を、長針は4を指していた。
「やーゴメンゴメン。遅くなっちゃった」
そう言って来たのは、未来さんだった。
「なにかあったんですか?」
「いや、なにも?」
続けて、結衣さん。リリィ、ユウさん。
「あれ、みんなもう来てる」
「なんで、部室前にいるの?鍵開いてるでしょ?」
「うん…俊太がいるはずだけど…」
そう言って、3人は俺らより早く部室へ入った。
みんなもう来てるって…結衣さんどんだけマイペースなんですか…。
「なんで、みなさん5時って言ったじゃないですか…」
俺がそう言うと5人は見合わせて、ニヤァと笑った。
不気味だ。
「やっぱ、いい子だったでしょ?」
「うん。想像通りの子だね」
「おもしろかった!」
俺らがキョトンとしてると、未来さんが口を開いた。
「これは、まぁ、一種の入部審査みたいなもんだよ」
入部審査…。
「やっぱり、泰助は律儀だね」
未来さんは続けてそう言った。
「なんでですか?」
俺がそう言うと、未来さんはさらに続けた。
「時間を守った」
いや、そんなの当たり前でしょう。
「いや、それだけじゃないよ?私が来たとき、「なにかあったんですか?」って言ったよね?」
「はい…」
「普通、「なんで遅れたんですか?」か「遅いじゃないですか」が打倒じゃない?」
よくよく考えてみれば分かる。
俺はなんでそんな言葉を選んだか分からないけど、それで入部審査は合格だったらしい。
でも…
「あの、もし、私たちが遅れてきてたらどうしてたんですか?」
俺が気になっていたことを、都夢技が聞いた。
「ん?簡単だよ。入部しても仕事を回さない。無視状態だよ」
なっ!
「……そ、そうですか…」
都夢技は顔が青くなっていた。
まぁ、そんなこと言われたら、そうなるよなぁ。
俺たちはそのまま昨日の呼び込みスペースへと向かっていった。
「我が文学研究会は、日頃から文学を学び…」
と未来さんの固い演説から始まり、
「昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがすんでおった…」
童話の朗読。
サークルの活動内容などを演説しまくった。
「はぁー。疲れた」
そう言って、机に手をつくのはユウさん。
ずっと、会誌を配ってたらしい。
「もう、死ぬぅー」
そう言って壁にもたれるのはリリィ。
ずっと、『桃太郎』を読んでたからかな…。
「のど乾いたー」
そう言って、ポカリを手に持つのは未来さん。
ずっと演説してたからなぁ。
その死闘の結果、入希は13人というありえないことになった。
「13人って、この部室でどう活動すんの?」
「知らないよ…。会員減らすしかないでしょ?」
「そーだよな…」
3年生の会話。
そうだよな…。13人って…俺たち含めて、15人だろ?
やばいんじゃないのか?
「入部審査、する?」
そう言葉を発したのは亜歌音だった。
「おぉ!」
「いいじゃん」
その亜歌音に対し、乗ってくる3年生。
思いつかなかったんだ…。
「んじゃ、また明日っ!」
亜歌音とリリィはそう荷物をまとめて部室を出て行った。
「あの、いいんですか?」
「あっ、いいよ。帰って。邪魔になるだけだと思うから」
結衣さんの言葉はキツイです。
これで、無自覚なんだよなこの人は…。
恐ろしい人だ。
「じゃ、都夢技、行くよ」
そう言って、俺と都夢技も部室を出た。
「面白い人たちだね」
「本当だよ。あの人達こそ小説の登場人物に出来るね」
そう言って、笑いながら俺たちは、アパートへ戻った。
本当にあの人達は面白い。
もう、きっと大丈夫だ…。
そう安心して、俺は、目を閉じ眠りについた。