11話 ~創作活動~
いい気分で一週間眠れた。
って、言ったらウソになる。
ハッキリ言って、気持ちよくなんかない。
高校のことも中学のことも脳裏にうつる。
小説コンクールのことだって、気になってしょうがなかった。
「泰ちゃん」
退院手続きを終え、病院を出ると都夢技がいた。
「おう。都夢技、来てたのか」
「うん…。大丈夫?」
「何が?」
「また、寝れなくなってたの?」
「また、寝れなくなったのはここ最近だ。でも、もう大丈夫だ」
「本当に?」
「あぁ」
都夢技は、高校のとき、俺が眠れなかったこと知ってる。
だから…心配してくれる。
文研のみんなは、心配してくれるだろうか…。
未来さんも、エントリーを取り消しにするのに、ちょっと迷惑をかけてしまった…。
俺は、まだあそこにいてもいいのだろうか…。
そんな心配を胸に、俺は、都夢技と大学へ向かった。
□■部室■□
「泰助!」
「大丈夫なの?あんた」
部室にはいると、未来さんと亜歌音が俺に声をかけた。
よかった。みんなは、俺のことを心配してくれるんだ…。
「もう、大丈夫ですよ」
「本当でしょうね」
「はい」
未来さんは、俺の方をじっと見て、それから、こう言った。
「我が、文研は、会誌を月1で出すことに決めたから」
会誌…って言うと…あれか。
みんなの小説を、大学のみんなに読んでもらうってことか…。
「だ、か、ら、今日は、みんなでネタ探しよ」
未来さんはそう言って、ニッコリ笑った。
□■南門■□
大学の南門にみんながそろうと、未来さんは張り切ったように
「じゃ、出発!」
と言った。
未来さんが向かうのは、大学の向かいの山。燈豊山だ。
「未来さん。ココで何見つけるんですか」
リリィはぜぇぜぇ言いながら未来さんにそう言う。
あれから、一時間ずっと山を登っているだけだ。
「いや、なんかあると思ったんだけど何にもないね…」
なんて、未来さんは苦笑いをした。
いやぁ…さすが、猪突猛進な未来さんらしいや…。
この一時間はいったい何だったんだ。
「あーあー。秘密基地欲しいな…」
未来さんがそう呟いた。
そのとき、目にした光景。
「ココ……」
広い、広い所だった。
「なんか、ココに秘密基地出来そうだよね」
「そうだね…」
皆が口にする。
「作ろうよ!」
小説のネタ探しに来たはずが、いつの間にか、秘密基地作成になってしまった。
このままで、エライことにならないかな…。
「リリィ、木もっと持ってきて」
「分かった!」
みんないつも以上に張り切る。
楽しそうだ…。
「泰ちゃん…」
「ん?何?」
「泰ちゃんも仕事してよね」
いつもなら、俺の前じゃ弱気のくせに、都夢技が俺にそう強めに言った。
みんなガキかって…。
「泰助、あんた、なんで、1人で木に登ってるの!」
「あっいや…」
訂正。
一番ガキだったのは、俺だ。
だって、秘密基地だよ?小さいとき憧れたよな…。
でも、実際テレビみたいな秘密基地を小学生が作れるわけがなく…
ただの夢で終わってたんだ。
それが、大学生になった今、作れるんだよ?
興奮せずにはいられないだろう…。
子供に戻らずにはいられないだろう…。
その日から、毎日俺たちは燈豊山に登り、秘密基地を作り始めた…。