9話 ~コンセント~
眠い。
なのに寝られない。
目をつぶれば、高校時代を思い出す。
何度も我慢して寝ようと思った。
でも、耐えきれないんだ…。
目が開いてしまう。
こればっかりは本当にしょうがない。
目を開けたときの汗の量。
初めて見たときは自分でも驚いた。
汗ってこんなに出るものなんだと…。
□■部室■□
「亜歌音、USBとって!」
「ちょっと、パソコン起動遅いんだけど!壊れてんじゃないの?」
「未来さん、ちょっと来てください」
「待って、今手ぇ離せないから」
「なぁなぁ」
「今、話すヒマない!」
部室で広がる声。
締め切りまであと一週間。
みんな本格的に書き始めた。
本格的に集中してる。
というか、ぴりぴりしてる。
みんな、締め切り前の漫画家みたいだ。
俺はあと少し。
あとは、近藤の父さんの事件を解決して、終わりを作るだけだ。
俺は、自分の頭の中でキャラの構成を考える。
来斗は、どこでだそうかな…。希羅は、どういうキャラに固めようかな…。
なんて、+要素を考え中。
そんなとき
「ぎゃー!パソコンが壊れた!」
と叫んだ人がいた。
部室のノートパソコンで書いてた亜歌音だ。
えっ?
壊れた?
パソコンが?
あそこのパソコン、こないだ買ったばっかり…
「ちょっと見せてください!」
俺はすぐにそのパソコンに近づいた。
亜歌音の使ってたパソコンは急に電源が切れてしまったらしい。
何があったんだ?
俺は、机の下に潜って配線も確認する。
ん?
線がやけに机の下に溜まってる。こんなに余らないよな…。
線をたどっていく……。
……。
「亜歌音…」
「えっ?何?原因分かった?」
「コンセント、抜けてる」
呆れたように亜歌音に言うと、亜歌音の顔は青ざめた。
「えっ…。どうしよう…今まで書いた文…」
亜歌音が作業を始めて約2時間が経過していた。
…どうすんだ、おい。
2時間分の文が消えた?
書けるわけないだろ…。
亜歌音がさっき書いてた文よりいい文は出来そうにないな…。
でも、あと一週間。
新しい文を考えてるヒマはない。
「文は違ってもいいだろ。話は覚えてる?」
「…う、うん」
亜歌音はそう小さく返事した。
よっぽど頑張ったんだろうな…。
まぁ、この文研にいて、中途半端に小説書く奴なんていないと思うけど…。
このままじゃ、亜歌音が可哀想だ。
だから、俺は急いでコンセントをさしてパソコンをたちあげた。
たちあがるまで亜歌音は「アーもう駄目だ…」「終わった…」とずっと頭を抱え込んでいた。
「亜歌音、たちあがったよ」
ワードのとこにバックアップされてりゃいいけどな…。
亜歌音は、たちあがるとすぐに、ワードのコマンドをクリックした。
すると
「た…泰助…」
と亜歌音が興奮したように言う。
「どうした?」
「バックアップ…されてる…」
おぉ!奇跡!
奇跡的に亜歌音の文は生き残ってた。
「良かったね」
「ありがと、泰助」
俺はなにもしてない。
そう言おうとした。
「俺はなにもして…」
でも、そう言い終わる前に、亜歌音が遠ざかった。
いや…俺が遠ざかったんだ。
やばいな…。
「た、泰助!!!!」
亜歌音も都夢技も未来さんもユウさんも結衣さんも…みんな俺の名前を言って寄ってきた。
誰か、いなかった気もするけど…
それが誰だったのか覚えてない。
俺の目に映ったのは、遠ざかる亜歌音の顔とみんなが俺の所に集まる姿。
そのまま俺は目をつぶった。
そして、その後俺は気づいてしまった。
部室のパソコンなんて誰もコンセントを抜くわけがない。
だれかが故意にやったことだということ…
誰かが、俺たち文研に何かしようとしてるってこと。
それが、俺のせいだってことを……。