黒澤の子種
舞台がすだれまいとしたのは、のちのちの映画の終末と同じである。
花は、二十才になり、祇園はメジャーになった。
誰だって過去があろう。
だが「リセット」を持ってして、ここ京都は明るい。
「交通事故ナンバーワンは、名古屋じゃけ」
「それ!それなんじゃが、車の蔓延に比例するじゃけ」
「猫も杓子もじゃなぁ」
ここ祇園で息の長いのは、花の店となった。
「岐阜の長良川の鵜飼いは、誰もが見れるものじゃないじゃけ」
これは、祇園のおかみを持ってしても例外はない。
今では、サスペンスは薄れ、公安が幅をきかす。
黒澤修二は、その素性を名古屋の黒澤組と明かした。
忙しさにかまけていると、女は股の快感より、精神の快感に溺れる。
幾度となく得た快感は、それ以上にならないとしていたが、それよりも花には目的があった。
「酒は、よう酔えるじゃが、カフェインというのは・・」
そのあきんどは、手を変え品を変え、花の店に取り入ろうとしていた。
「いや、これはまた。百聞は一見に如かずじゃ」
その豆は、遠いブラジル産だと言う。
「輸入輸出は、茶番じゃけんど、この店は、よう儲かっとる」
あきんどの風体は、ここ京都にふさわしい、少しささくれた着物もどきのはんてんだった。
「少々、湯を拝借」と、そのあきんどは、勝手にポットのお湯を使った。
「昨今のインスタントじゃが・・」
そう言いながら、あきんどは花にカップを渡した。
「まず、香りじゃけ」
そういうあきんど自身が、「ふぅ」と言いながら、「良い匂い」と言った。
花がそのカップを受け取ろうとすると、皆伐が横から手を出した。
そして、それを一気に飲むと、「出直し」と言った。
少し、憮然とした表情のあきんどは、それでもまた気を取り直したように、「また」と言い、出て行ったのだが、通りに出てから唾を吐いた。
黒澤は、たびたび、会議に出かけていた。
黒澤と花は、引っ越しはせずに、いまだ狭い2DKに住んでいた。
家に帰り電気を付けると、花はテーブルにあるメモを見た。
今日は帰る。寝ないで待っててね。
カーテンは、レースだけで、二階家のこの黒澤の部屋からは、祇園の商店街が見える。
店はもうすべて閉まっていたが、最終の地下鉄にはまだほんの少し間があった。
「俺は子種がない」と、黒澤は言った。
花は、特に子どもが欲しいとは思わずにいた。
セックスレスとは無縁な夫婦が、黒澤と花である。
黒澤は、花の膣よりも、自分のいちもつを花の口に入れると興奮するようだった。
ペニスが勃起するのは、お前だけだと黒澤は言った。
花は、シャワーを浴びたあと、自分の指を膣に入れてみた。
生理は終ったばかりで、おりものもそうそう多くない。
その指の匂いは、いやな匂いでもないのだが、乳首の先がはるのを感じて花は起き上がった。
窓の外を、ヘッドライトが灯すたび、花の胸に郷愁が起きる。
「巫女と舞妓は、紙一重じゃな」
パソコンを立ち上げようとした時に、花の携帯が光った。
愛してる。
黒澤の言葉に、花は、黒澤のキスを思い出し、その濡れたくちびるを感じた。
エクスタシーは、花にとって、今のところ「心」という精神である。
戸棚の中のウイスキーは、わずかである。
「上等の酒を持って帰る」
黒澤のメールである。
花は、「やっぱり、カフェインより酒じゃな」と、つぶやいた。




