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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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短編

ワンフレーム

作者: みき
掲載日:2026/07/11

 大学からの帰り道、私はいつものホームの同じ場所に立っていた。


 夕日が線路を赤く染めている。


 向かいのアパートの壁はオレンジ色に焼け、窓ガラスだけが白く光っていた。


 毎日、この時間になると一台の白い車が帰ってくる。


 それを眺めるともなく眺めるのが、いつの間にか習慣になっていた。


 名前も知らない。


 会話を交わしたこともない。


 ただ、毎日同じ景色の中にいる人だった。


 その日も、車はいつものように角を曲がった。


 乾いた音がした。


 何が起きたのか理解するまで、一拍ほど遅れた。


 道路の上に、人が倒れていた。


 運転席から男が飛び出してくる。


 何かを叫んでいる。


 ここからでは声は届かない。


 口だけが大きく開いて、夕日の中で震えていた。


 人が集まり始める。


 誰かが走る。


 誰かが電話をかける。


 時間だけが、不自然なくらいゆっくり流れていた。


 赤色灯が回る。


 救急車が来る。


 警察が来る。


 男は警察官の腕をつかみ、何度も首を振っていた。


 泣いているように見えた。


 違う、と言っているようにも見えた。


 本当は何一つ聞こえていない。


 私は、ホームのこちら側にいる。


 後部座席から、小さな男の子が降りてきた。


 制服姿だった。


 ランドセルは背負ったまま。


 ただ立っていた。


 誰かに呼ばれ、振り返り、また父親のほうを見る。


 やがてアパートから駆けてきた人に手を引かれ、ゆっくりと離れていった。


 ストレッチャーが救急車へ吸い込まれる。


 男はパトカーに乗せられる。


 交差点だけが取り残されたように静かになる。


 そのとき、一人の女性が走ってきた。


 息を切らし、何かを探すように辺りを見回している。


 近くにいた人と言葉を交わす。


 短く。


 ほんの数秒。


 そして、その人は笑った。


 口元だけが、静かにほどけた。


 安堵だったのか。


 諦めだったのか。


 それとも、私には想像もつかない何かだったのか。


 分からない。


 分からないまま、踏切の音が鳴り始める。


 レールがかすかに震える。


 電車がホームへ滑り込んできた。

 

 銀色の車体がゆっくりと景色を横切り、


 夕焼けも、


 交差点も、


 白い車も、


 笑った人も、


 一枚ずつ塗りつぶすように隠していく。


 やがてその景色は、見えなくなった。

ちなみに実話です。

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