ワンフレーム
大学からの帰り道、私はいつものホームの同じ場所に立っていた。
夕日が線路を赤く染めている。
向かいのアパートの壁はオレンジ色に焼け、窓ガラスだけが白く光っていた。
毎日、この時間になると一台の白い車が帰ってくる。
それを眺めるともなく眺めるのが、いつの間にか習慣になっていた。
名前も知らない。
会話を交わしたこともない。
ただ、毎日同じ景色の中にいる人だった。
その日も、車はいつものように角を曲がった。
乾いた音がした。
何が起きたのか理解するまで、一拍ほど遅れた。
道路の上に、人が倒れていた。
運転席から男が飛び出してくる。
何かを叫んでいる。
ここからでは声は届かない。
口だけが大きく開いて、夕日の中で震えていた。
人が集まり始める。
誰かが走る。
誰かが電話をかける。
時間だけが、不自然なくらいゆっくり流れていた。
赤色灯が回る。
救急車が来る。
警察が来る。
男は警察官の腕をつかみ、何度も首を振っていた。
泣いているように見えた。
違う、と言っているようにも見えた。
本当は何一つ聞こえていない。
私は、ホームのこちら側にいる。
後部座席から、小さな男の子が降りてきた。
制服姿だった。
ランドセルは背負ったまま。
ただ立っていた。
誰かに呼ばれ、振り返り、また父親のほうを見る。
やがてアパートから駆けてきた人に手を引かれ、ゆっくりと離れていった。
ストレッチャーが救急車へ吸い込まれる。
男はパトカーに乗せられる。
交差点だけが取り残されたように静かになる。
そのとき、一人の女性が走ってきた。
息を切らし、何かを探すように辺りを見回している。
近くにいた人と言葉を交わす。
短く。
ほんの数秒。
そして、その人は笑った。
口元だけが、静かにほどけた。
安堵だったのか。
諦めだったのか。
それとも、私には想像もつかない何かだったのか。
分からない。
分からないまま、踏切の音が鳴り始める。
レールがかすかに震える。
電車がホームへ滑り込んできた。
銀色の車体がゆっくりと景色を横切り、
夕焼けも、
交差点も、
白い車も、
笑った人も、
一枚ずつ塗りつぶすように隠していく。
やがてその景色は、見えなくなった。
ちなみに実話です。




