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トラヴィスと共に船へと乗り込んだ後、船着き場に突然1台の馬車が駆け込んできた。周囲が騒ぎになる中、ディーナは馬車から降りた人物に見覚えがあった。
船は出発寸前だったが、焦ったラジェイア公爵は船を引き止めるつもりのようで、胸元から大量の金貨を出して船員たちと交渉する。しかし、船員たちは公爵の願いを叶えるつもりはないようで、むしろ一部の者たちは手荒にラジェイア公爵を抑えつけていた。
「ディーナ、風に当たって大丈夫かい?」
トラヴィスがディーナの体を気遣うようにそう声を掛けてきた。トラヴィスには「大丈夫よ」だなんて答えてから、胸元にいる赤子の姿を確認するディーナ。連れ去って来てからも本当に大人しく、この子はディーナの胸元で過ごしていた。
時折楽しそうに声を上げることがあるが、赤子らしく泣くことなんてない不思議な子。ディーナは少しだけ、公爵邸に残してきた産んだばかりの我が子が気になったものの、暫く会うことはできないだろうと悲しみを押し殺すことにする。
そんな中、ディーナは誰かに呼ばれた気がして、船着き場に視線を向けた。そこにいたのはディーナを探しているのか、あちこちに視線を彷徨わせるジュールの姿だった。
(…え…あの血は何?)
ディーナはジュールの姿を見た途端に、胸が締め付けられるような思いをする。というのも、ジュールは首元から胸元辺りに掛けて、血が付いたような痕があるのだ。
別荘で過ごした期間で本当に痩せて、今にも倒れそうなほどに青白い顔つきに変わってしまったジュール。そんな彼が血を流している姿はずっと痛々しく思えて、ディーナは今すぐ船を降りてしまいたい不安に駆られた。




