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「っ…待ってくれ!」
それは窓の傍でうとうととしていたディーナが、突如として聞いた声だった。
先に気付いたのはハワードの方で、御者に命令してその場に停車してもらう。ディーナが遅れて声の方を向くと、ついさっきすれ違った馬車が止まって誰かが馬車を降りるのが分かった。
何か大切なものを抱えるようにして、こちらへと駆けてくる男性。
「ディーナ…っ、すまない。実は…」
そこにいたのは半年以上ぶりに見る…彼の姿だった。
かつてのような若々しく爽やかな雰囲気は消え去り、髪も髭も手入れされずにぼろぼろとなった姿で現れたジュール。服も酷く汚れていることから、見た目だけであれば誰も本人だと気付かないだろう。
しかし、そんな彼は清潔なシーツを手にしており、その中に泣く元気もなくぐったりと目を閉じている赤子を抱いている。
「ディーナ、その…」
「今すぐ家に戻りましょう。そこで色々と話を聞きますから」
ディーナは何か話そうとしたジュールの言葉を遮り、目線を逸らすようにして馬車に乗っておくよう指示をする。
(…何を話していいか分からないわ)
馬車の中では何度も再会したあとのシュミレーションをしていたはずなのに、いざ顔を合わせて見ると視線すら合わせるのが難しい。彼を別荘に追いやったことがとてつもなく恐ろしいことのように感じて、ディーナは後ろめたさを感じてしまうのだった。




