"感情のうたげ"
はっきり言って、僕は水族館に行きたかった
僕が提案すると、君は「は?男二人で?」「ホモじゃん」と即時却下した
まあいい、君にも君の考え方が有るだろう
しかしそれでも、朝から僕が次々に色んな物を奢らされ続けてるのだけは、なんか納得がいかなかった
「結構これも美味かったぞ」
君が幾らか残りの入った、たこ焼きのパックを手渡してくる
二人とも朝の陽射しを浴びながら、公園のベンチに居る
君は、にこやかに満ち足りた表情だが、僕は君と合流した明け方近くから、ほとんど虚無の表情をして過ごして居た
明け方近くから
そう、まだ朝だが、既に数時間この調子で支配と束縛を繰り返されて居る
今日は君と会うし、本当なら結構可愛い格好とかもしたかったんだけど、僕は今日、ナメられないようにオラついた服装をして居る
言動もだ
『無理』って程の無理はしてないけど、君の前ではいつも僕は「俺」という一人称で会話をして居る
僕は自由が好きだった
故に、既に少し我慢の限界を迎えつつあった
「お前さあ」
たこ焼きを全部食べ終え、怪しまれない程度に口の中の爪楊枝を舌で弄んだあと
僕は苛立ちながら立ち上がると、本日五回目の抗議を行った
「舐めんなよ、マジで」
「なんでここまでの切符まで、僕が買ってるんだよ」
「…………『僕』?」
君が、多少の動揺を視線に込めて僕を視る
頭が真っ白になりそうだったが、それをなんとか表情に出さずに、僕は「とにかく、もう帰るからな!」と宣言した
「まあ待て」
「…………7,296円だ」
立ち去ろうとした背中に掛けられた言葉に、仕方なく振り向く
「ここまでの、お前の出費な」
そんな事を、覚えて居たのか
少し許してしまいそうになったが、ここで許すと調子に乗りかねない奴だ
判断が付きかねた
「で、オレはお前の五倍以上イケメンだから」
「35,000円を上限に、オレが服を選び直してやる」
「てめえ」
「俺が、服ダセェってのか………?」
今度こそ『俺』という事に成功しながら、きちんと腹を立てる事にも成功する
「いや………」
君は少し僕から視線を外すと、
「お前はもっと、可愛いのとか似合う気がしてな」
なんて事を言い始めた
「………あっ、うん……」
「…………選んで?」
限りなく、状況は僕の敗北に近かった




