荒地を土壌改良してみた
溜池での実験から数日後。
陽菜は馬車に揺られていた。
目的地は、領地の外れ。
耕作放棄された荒地。
地面はひび割れ、
草すら根付いていない。
ハウエル「ここだ」
馬車を降りた瞬間、陽菜はしゃがみ込んだ。
土を掴み、指の間で崩す。
「……軽すぎる」
ハウエル「水が足りないのだ」
「違います」
即答だった。
「水捌けが良すぎる」
エルザ「良すぎる……?」
「砂が多すぎます。水を撒いても、下に逃げるだけです」
ハウエルは眉をひそめた。
ハウエル「では、水の精霊術では足りぬか」
「無意味です」
言い切った。
「水は保持されない。まず土壌構造を変えないと」
陽菜は立ち上がり、周囲を見渡した。
そのとき、
視界の端に黄色い光が映った。
白や青ではない。
鈍い、土色の輝き。
「……あれ」
エルザ「見えますか」
「見えます。あれ、土の精霊じゃないですか」
ハウエル「土の精霊?」
「低級より少し密度が高い。たぶん中間層」
陽菜は一歩、踏み出した。
「取り込めば、この土地を耕せる」
胸の奥に、
水の精霊の気配が強まった。
次の瞬間。
黄色い光が、弾かれたように後退した。
地面が、わずかに震える。
「……反発してる」
エルザ「精霊同士が?」
「水と土。相性が悪い」
陽菜は胸に手を当てた。
「私の中に、水が多すぎる」
ハウエル「どうする」
「一度、解放します」
陽菜は静かに息を吐いた。
「水の精霊。少しだけ、外に」
身体の内側から、
白い光が溢れ出す。
空気が、潤んだ。
水の精霊は、完全には離れない。
だが、主導権を手放した。
その隙に。
陽菜は、黄色い光へ手を伸ばした。
今度は、弾かれない。
光が、
雪のように崩れて、消えた。
「……入った」
足元の土が、音を立てて動いた。
ひび割れた地面が割れ、
内側から、黒っぽい土がせり上がる。
砂が押し流され、
土が絡み合い、締まっていく。
「粒径が揃ってる……」
無意識の独り言だった。
地面は、
畑としての形を取り戻しつつあった。
ハウエルは、言葉を失っていた。
ハウエル「耕した……精霊術で……」
「まだです」
陽菜は、もう一度胸に意識を向ける。
「水、戻っていい」
白い光が、再び体内に収まる。
陽菜は、地面に手を置いた。
水は撒かない。
染み込ませる。
土が、水を受け止めた。
「これで、水の精霊樹を植えれば土は水分を保持します」
ハウエルは、深く頷いた。
ハウエル「領地が救われる」
陽菜は、少しだけ首を傾げた。
「実験が、一つ成功しただけです」
足元の大地が、
確かな重みを持って、応えていた。




