村人は見ました
その日の朝、村の掲示板に新しい張り紙が出た。
溜池付近にて精霊術を行うため、当面の間、近寄らぬこと。
ハウエル男爵
内容自体は、珍しくない。
精霊術はこの世界では特別なものではなく、
溜池が使われることも、過去に何度かあった。
だが。
「……なんだ、あれ」
最初に気づいたのは、畑仕事をしていた村人だった。
溜池の中央から、
水柱が一定の間隔で噴き上がっている。
「一回……二回……」
高さは、毎回ほとんど同じ。
偶然でも、暴発でもない。
「規則的すぎるだろ」
「精霊術って、あんなだったか?」
人が集まり始めた。
お達しが出ているため、誰も近づけない。
だが、遠目にも異常は分かる。
水柱は五回で止まり、
少し間を置いて、また始まる。
「鐘みたいだな……」
「いや、測ってるみたいだ」
噂は一気に広がった。
精霊術自体が珍しいのではない。
あの規則性が、見たことがなかった。
やがて、別の噂が混じり始める。
「術者、見たやつがいるらしい」
「どんなやつだ?」
「……子供だって」
ざわめきが走った。
「弟子だろ?」
「いや、一人で立ってたって」
「男か?」
「女の子らしい」
「は?」
昼前には、話が歪んでいた。
「溜池で精霊を従えてる、貴族の令嬢」
「白い光に囲まれてた」
「水柱の高さを指で測ってた」
午後、さらに決定打が落ちる。
溜池の近くを通りかかった村人が、
柵の内側を一瞬だけ見た。
「……いた」
「誰が?」
「女の子だ」
背は低い。
髪も、服装も、特別ではない。
ただ、溜池を見つめる目だけが、
異様に真剣だった。
「可愛らしい……よな?」
「精霊術師、だよな……?」
その日の夕方。
村の話題は、完全に一つになっていた。
規則的に噴き上がる間欠泉。
それを起こしているのは、
見たこともないほど若い、女の子の精霊術師。
溜池の水面が、
また一度、高く跳ね上がった。
遠くからでも、
その高さは、正確に同じに見えた。




