屋敷の主人に実験場を貸してもらいました
部屋の外が、わずかに騒がしくなった。
扉がノックされる。
エルザ「失礼いたします」
扉が開き、背の高い男性が入ってきた。
年は四十前後。
装飾は控えめだが、立ち姿に威圧感がある。
エルザ「ハウエル男爵です」
ハウエル「目を覚ましたと聞いた」
「……陽菜です」
名乗ると、男爵は即座に視線を向けた。
宙に浮かぶ光の玉。
床に残る、かすかな霜の痕。
ハウエル「もう使ったのか」
エルザ「低級精霊による水属性の発現を、二度ほど」
ハウエル「二度」
男爵は短く笑った。
ハウエル「普通は一度目で倒れる」
「倒れる?」
エルザ「精霊に拒否されるか、術者が耐えられません」
「私は……平気ですけど」
ハウエルは陽菜をじっと見た。
ハウエル「理由を聞いても?」
「条件を整理して、出力を制御しました」
ハウエル「ほう」
興味が、はっきりと表情に出た。
ハウエル「感覚ではなく、手順か」
「再現できない現象は、信用できません」
ハウエル「面白い」
即答だった。
ハウエル「水の精霊で、どこまで出力を上げられる」
「密閉空間は危険です」
ハウエル「同感だ」
男爵は少し考え、言った。
ハウエル「屋敷の裏に、村の溜池がある」
エルザ「……あそこを?」
ハウエル「周囲に民家はない。水量も十分」
「開放系ですね」
ハウエル「?」
「エネルギーの逃げ場がある」
ハウエルは一瞬考え、頷いた。
ハウエル「なるほど。壊れにくい」
「観測点を確保できれば、なお良いです」
ハウエル「用意しよう」
決断は早かった。
エルザ「準備に半日はかかります」
ハウエル「構わん」
男爵は陽菜に視線を戻す。
ハウエル「怖くはないか」
「……少し」
正直な答えだった。
「でも、確かめたいです」
ハウエルは、満足そうに頷いた。
ハウエル「よし。溜池でやろう」
光の玉が、
まるで了承するように、静かに集まった。




