精霊術を使ってみた
部屋の空気が、わずかに揺れた。
「……?」
陽菜は胸の奥に、奇妙な感覚を覚えた。
さっき低級精霊に触れた場所。
そこから、微弱な振動のようなものが広がっている。
「心臓の鼓動とは違う……」
エルザ「どうしましたか」
「中で……動いてます」
言った瞬間だった。
ふわり、と。
陽菜の指先から、白い霧のようなものが溢れた。
霧はすぐに形を持ち、
細かな光の粒となって、宙に広がる。
エルザは息を呑んだ。
エルザ「もう……?」
「私、何もしてないです」
エルザ「精霊術は、意識より先に反応することがあります」
光の粒が集まり、
床の上で渦を巻いた。
空気の温度が、わずかに下がる。
「温度低下」
陽菜は無意識に呟いていた。
「熱が奪われてる。でも冷たくない……相転移じゃない」
次の瞬間。
床に、薄く霜が広がった。
レンガの隙間をなぞるように、白い線が走る。
だが、氷は割れず、湿り気もない。
エルザ「……氷の精霊」
「氷?」
エルザ「正確には、水の低級精霊です」
「水なのに凍る?」
エルザ「お願いの形が、そうなったのでしょう」
陽菜は自分の手を見た。
「……私、お願いしてない」
エルザ「思ったのでは?」
「……温度が下がるとどうなるか、考えてました」
エルザは小さく息を吐いた。
エルザ「それで十分です」
霜は数秒で消えた。
跡形もなく。
「エネルギー保存則は……」
陽菜は周囲を見回した。
「どこから持ってきた?」
エルザ「精霊から、です」
「じゃあ精霊は減った?」
エルザ「いえ。力を使っただけです」
「燃料じゃない……触媒?」
エルザは首を傾げた。
エルザ「難しい言葉ですね」
「でも、近いと思います」
陽菜の目は、恐怖ではなく、完全に探究者の光だった。
「条件が分かれば、再現できる」
エルザ「無理はなさらず」
「大丈夫です」
陽菜は、再び宙に浮かぶ光の玉を見た。
「……もう一回、やってみてもいいですか」
光の玉が、
答えるように、静かに揺れた。




