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元オタクの動画配信者が結婚して嫁3人の主夫になる  作者: 龍田まや


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最終話 そしてひとつになる

大人しく寝床につこうとしたら何やら物音がする。

気になった俺は物音がする方へと向かった。

すると庭の真ん中に一匹の猫の姿が見えた。

あれは…ルナだ!

猫の姿に変身したルナがそこにいた。

こんな夜中に何をやっているんだ?

何やら懸命に身体を動かしている。

あのことがあってからずっとアヤさんのそばにいて、俺が関わるスキさえなかった。

俺は近寄って声をかけることにした。


「ルナ、俺だ。分かるか?」


その猫は俺の方を振り向いた。

随分と痩せ細ったようにも見える。

ちゃんと食事をとっているのだろうか?

俺の方をひと目だけ見て、また振り返った。

そして再び懸命に身体を動かし始めた。

声も出しているが俺には何を言っているのかまでは理解できない。

すると、俺の背後から誰かが声をかけてきた。


「何も聞こえてませんよ」


アヤさんだ。


「よくそのような動きをとってます。人間に戻ろうと無意識でやっているのか、それとも本能なのか。もっとも私は変身するきっかけや方法などは一切知りませんけど」


「もうそろそろ許してやってもらえませんか?こんなことをしても誰も幸せにはならない。あなたもそうでしょ?」


「まだまだ足りないですよ。私の失われた時間を取り戻すにはね。それに私自身は何もしていないです。虐待をしてるわけでもなければ食事を与えていないわけでもない。自由にさせてます。人間に戻れるかどうかは彼女次第です」


「それはあなたが動画を隠し持っているから、それがいつ公開されるか不安で元に戻れないだけでしょ?」


「確かに私が持っていますが、それが全世界に公開されたとしても、そこに映っている人物がルナだと気付く人なんて、いたとしてもごく僅かだと思います」


「ネットの拡散力を甘く見ちゃいけない。それは俺が動画配信者としてやってきた経験から分かること。しかもエロのカテゴリーに入るものだと尚更すごいことになる。あなたもアイドルやってたんだからそれは分かるはず」


「ハハハ、そんなこと力説しないでくださいよ。確かにライブの現場にはオヤジどもがたくさんいましたけどね」


「どこにあるんですか?俺に渡してください」


「私に何の見返りもないのに渡すわけないでしょ。それ以上のものがあるのですか?」


「それは…今はないけど必ず!」


「だったらそのときが来るのを首を長くしてお待ちしてますね。その前にルナがどうなるかまでは保障できませんが。念押ししますけど、私は何も手出しはしません。他の猫と同様の扱いをするだけです」


アヤさんがルナを連れて部屋に戻ろうとしたその瞬間、


「待って!」


モカだ。

さっき酔い潰れて部屋に寝かしつけたのに。

俺達のやり取りが聞こえていたのだろうか?


「アヤさん、いや、真綾さん」


「私の本名知ってるんですね」


「ええ。話はすべて聞かせてもらいました」


「何かご用ですか?」


「ルナを…返してもらえますか?」


「…何か見返りになるようなものでもあるのですか?」


「これをどうぞ」


モカはアヤさんに歩み寄って何かを渡した。

ビデオカメラだ。


「何ですかこれは?」


モカは裸足のままルナがいる庭先まで歩いた。

そして、そっとルナの頭を撫でた。

するとおもむろに服を脱ぎだした。

上も下も身に纏っているもの全て脱いだ。

生まれたままの姿に、スッポンポンになった。

目を逸らしそうになったが、月明かりに照らされたその姿はとっても画になっていた。


「私の姿を好きなだけ撮影してください。お望みならどんなポーズだってとります。そして、それを好きにしても構いません。だから、ルナを…私たちのルナを返してください!」


「あなた何を言ってるんですか?あなたのその恥ずかしい姿が全世界に広まっても構わないのですか?」


「構わない!」


「私が躊躇するとでも思ってます?」


「思わない!」


「それに私はその交換条件に応じてませんけど。撮るだけ撮ってルナの動画は返さないことだってあり得ますよ?」


「そうなったら次はノアと二人でやる。二人なら文句ないでしょ?」


「それって、ノアさんに許可を取ったんですか?」


「それは…姉の権限でやってもらうから!」


「ニャーン」

モカを見守るようにそばにいたルナが彼女の前に立ち塞がった。

当然ながら立ち塞がったところでモカの恥ずかしい部分は隠れるわけではない。

だが、短い両手を目いっぱい広げて必死で隠そうとしている。


「お姉ちゃん…」


するとルナの身体が光り出した。

みるみるうちに猫の姿が人間のフォルムに形を変えていく。


「ああっ!」


俺達の目の前にルナが人間の姿で現れた。

ルナは全裸のモカを全裸の姿で身を呈して隠した。


「私の…妹だけは守る…!」


声に力はないが強い眼力でアヤを睨んだ。

その眼力にアヤは若干怯んだ。

そして、諦めたかのようにその場に崩れ落ちた。


「私の負けです」


「ルナっ!」


モカはルナに抱きついた。

俺も抱きつきたくなるほど嬉しかったが、全裸の二人に抱きつくのはさすがに自重して、抱き合う二人を離れた場所から見守った。

ルナは疲弊していたのか、モカの腕のなかで目を閉じて眠った。

気がつくとアヤさんはその場からいなくなっていた。



翌朝、俺はいつものように朝食の準備のため、台所に向かった。

しばらくするとノアもやってきた。


「おはよう」

「おはよう。そっち準備してくれるかな?」

「オッケー」

「味噌汁の味見してくれる?」

「どれどれ、美味しいよ」


食卓に朝食が並び始めるとみんなも集まってきた。

麦さん、モカ、そしてルナも。


「さぁ、いただきましょうか」

「いただきます!」


ルナがいつものように食卓に戻ってきたことについて誰も何も言わない。

ルナも特に何も言わない。

いつも通りの食卓だ。

まるで何事もなかったかのように自然だ。


「お母さん、次の陶芸教室はいつ行くの?」

「うーん、週末くらいかしら?」

「あ、次は私も連れてってよ」

「陶芸教室に何かあるの?」

「そういやルナはまだ知らなかったよね。陶芸教室の先生がお父さんなの」

「え!?嘘?!ホントなの?」

「そうなのよ。お母さんもつい最近知ったの。ルナも一緒に行く?」

「うん…。でもお母さんは平気なの?」

「いろいろと誤解があってね。みんなで行きましょうよ」

「そうしようそうしよう!」


全員が食べ終わるとそれぞれ仕事に学校にと向かった。

俺はみんなが食べ終えた食器を洗い始めた。

とうとうアヤさんは朝食に姿を見せなかった。

昨夜あの後、どうなったのかも分からない。

これからどうするのだろうか…?


「よーし、よしお前ら、ちょっと待ってろよ」


俺はいつものようにニャンコたちに朝飯を与え始めた。

心なしか元気がないように見える。

何かあったのか?

すると、目線の先に部屋から荷物を持って出ていくアヤさんの姿が。

え?もしかして?


「お前ら、ここに置いておくから勝手に食べてろよ」


俺は慌てて彼女を追いかけた。

玄関で彼女が靴を履こうとすると、俺より先に麦さんが彼女に声をかけた。


「そんなに荷物を持ってどこかへお出かけですか?」


「本日をもって使用人の仕事を辞めさせていただきます。今までお世話になりました」


「なぜお辞めになるのですか?」


「…それって分かってて聞かれてますよね?」


「次の仕事はもう決まったのですか?」


「まだこれからです」


「それなら我が社で働きませんか?」


「我が社ってニコネコカンパニーですか?」


「ええ」


「本気で仰ってますか?私が何をやったかご存じですよね?」


「勿論。でもね、あなたは私の子供ですから。親が子供を捨てるなんてありえませんよ」


「子供って、私はあなたとは血の繋がりはありません。血の繋がりがあるのはあなたの元夫とだけです」


「真綾さん、勝手ながらあなたのことは養子にしました。なので、あなたは私の子供です」


「えっ?ちょっ、何を勝手なことしてるんですか?そんな…ありえない…」


「ルナと一緒に会社を盛り上げてくれますよね?」


真綾は昨夜と同じくまたしても膝から崩れ落ちた。

そして目に涙を浮かべた。


「はい、頑張ります…」


俺の出る幕なしだ。


こうして、数ヶ月にわたる俺の使用人生活も終わりを迎えた。


それから4年の月日が流れた。



「お父さん、それこっちこっち」

「おお、スマンスマン」

「しっかりしてよ、一応社長なんだから」

「社長って呼ぶのやめてくれないか?どうも堅っ苦しくて俺には向いてない」

「これからは私に任せてよ」


ノアは高校を卒業して、そのまま中川先生の陶芸教室に就職というか弟子入した。

高校に入学してから様々なコンクールに入選しており、今では若手のホープとも言われるまでになり、自分の作品を作りながら生徒たちの指導まで行っている。

若手のホープがいる教室として人気を博し、生徒数も増えたため、前より大きな場所に教室を移すことになった。

今日はその引っ越しの日だ。


その後の宮尾家だが、麦さんと中川先生が復縁し、麦さんはニコネコカンパニーの社長を退任して中川先生の陶芸教室を手伝う形になった。

ノアも麦さんについて行って3人で暮らしていた。

しばらくは3人での生活が続いていたが、麦さんの身体はすでに限界を超えており、3人での生活は2年ほどで終わりを迎えた。


「お父さん、そこに置いたらお母さんが見えないでしょ?」

「おお、悪い悪いつい」


麦さんの形見の髪留めと眼鏡だ。

一番日当たりがよい場所に置いてある。


「これからもっともっと繁盛させるから。お母さん見ててよね」

「陶芸教室で繁盛とか言うなよ。金儲けで始めたわけじゃないんだから」

「ダメよそんなんじゃ!お母さんに笑われちゃう。もっともっと有名になって、もっともっと生徒数を増やす!それが今の私の目標!」

「まったく、誰に似たんだか(笑)」



そして、麦が退任したニコネコカンパニーでは…。


「社長、14時から商談なのでご同行お願いします」

「分かりました」

「それにしてもまだ社長って呼び慣れないわね」

「私も呼び慣れないわよ」

「二人でいるときくらい名前でいいのよ」

「それだと普段皆の前でも出ちゃうし」

「いっそのこと社員全員肩書じゃなくて名前で呼ぶ?」

「なんかどこかのプロ野球チームみたい。監督と呼んだら罰金みたいな」

「罰金だと問題あるから罰ゲームにする?」

「それも問題でしょ?」

「ゲームだから楽しくすれば問題じゃないわよ」

「その線引きが難しいのよね」


ニコネコカンパニーは麦さんの跡をルナが継いで社長に就任した。

真綾は副社長に就任した。

相変わらず人見知りなところがあるルナを社交的な真綾がサポートしている形だ。

サービスも拡大して社員数も以前に比べて増えている。

心配された二人の仲だが、昨年晴れて結婚した。

まだ同性同士の結婚は少ない世の中だが、二人はとても相性がよい。

ルナが学生時代に真綾のことをアイドルに仕向けたのも、好きが高じてのことだった。

真綾自身は同性愛者ではなかったが、ルナの気持ちに応えた形で結婚することになった。

心配された猫化した分のルナの寿命だが、今のところ身体に異常はきたしていない。

きっと麦さんが守ってくれたのだろう。


「商談終わったらノアのところに向かいましょうよ。今日から新しい場所でオープンだし」

「そんな時間ありませんよ」

「そこは副社長の腕の見せどころでしょ?」

「まったく、しょうがないですね」



そして、俺、小谷陽平は…。


「よし、こんな感じかな。おーい、ちょっと見てくれよ」

「どれどれー?あ、この子たち可愛い。昨日の村にいた子だね」

「いい顔してるでしょ?」

「うん。あれ?いつの間にこんなの撮ってたの?私こんな変な顔してた?」

「いつも変顔してるけど(笑)」

「ウッソ!やめてやめて消してよ!」

「もうupしたから手遅れだよ」

「えー!全世界に恥晒したー!」

「もうコメントきてるよ」

「どれどれ?あ、意外と高評価だわ。こういうのがウケるんだ」

「な?俺を信じろ信じろ」


俺は今、南米にいる。

使用人を辞めてから世界中を旅して世界各地の子供たちを中心に動画を撮っている。

そんな俺についてきたのがモカだ。

俺は1人で旅立ったのだが、空港で待ち伏せされて、一緒に行くことになった。


「あ、ノアからメールきてる。なになに、陶芸教室の新装開店か」

「新装開店ってパチンコ屋じゃないんだから(笑)」

「でも、新しくするなら一緒じゃん」

「せめてリニューアルって言葉使ってくれよ」

「リニューアルもおかしいでしょ?パチンコ屋じゃないんだから」

「そりゃそうだ(笑)」

「一旦帰国する?」

「そうだな、きっとみんな集まるだろうし」

「集まるの久しぶりだもんね」

「その前にさ、行きたいところあるんだけど」

「えっ?どこ?」

「俺の実家。両親に会ってくれない?」

「えっ?それって…」

「みなまで言わせるなよ。そういうことだよ」

「そういうことに…しておく」


彼女はとびっきりの笑顔を見せてくれた。

















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