第40話 飲んだら飲んだ
モカの希望もあり、家族揃って食事をすることになった。
さすがにモカが言ったようにアヤさんも含めた家族全員での食事とはいかず、アヤさんとルナを除いたメンバーで集まることになった。
場所はモカのバイト先である居酒屋。
従業員割引が利くからと、モカからの提案だ。
俺は麦さんとノアと一緒に、中川先生はこの日の仕事を終えてから合流予定だ。
「いらっしゃいませー」
店に入るとモカが出迎えてくれた。
この日もバイトが入ってるらしく、勤務時間が終わってから合流するとのこと。
「ご予約のお客様ご案内しまーす」
「はい、よろこんでー!」
なかなか威勢のよい店だ。
俺たちは奥の座敷に通された。
「メニューは私に任せといて」
どうやらお店のオススメ料理を振る舞ってくれるようだ。
ここはモカに任せよう。
「外で食事するって久しぶりだよね」
「そうね。何が出てくるのかしら?」
「佐藤さんに断っては来ましたけど、少し気まずいですよね。何かしら企んでると思われそうで」
「それならそれで構いませんよ。それより今日は楽しみましょう」
「お料理お持ちしましたー」
「わぁ、美味しそう」
「ホント美味しそうね」
「先に食べちゃってて。私とお父さんはあとでたくさん食べるから」
「それじゃ遠慮なく」
俺もちゃんとした外食は久しぶりかも。
会社勤めの頃は出前やコンビニ弁当が主食だったからな。
宮尾家に来てからは強制的に自炊だったし、それが面倒だなと思う反面、自炊を始めると外食って高いなと思うようにもなった。
それに関しては感謝しなきゃだわ。
「ようやく仕事終わったー。私の分まだ残ってるよね?」
モカも合流して焼き鳥をパクっと口にした。
あとは先生を待つのみ。
「お父さんどんな感じになってるんだろ?」
「昔と変わってないよ」
「ノアは小さかったから覚えてないでしょ?」
「写真で見てたから分かるよ」
そんな会話を聞いて麦さんはにこやかにしている。
普段はどこかしら気張っているような表情をしてることが多いので、良い意味で力の抜けた母親の顔だ。
「お連れ様到着いたしましたー」
店員さんがふすまをガラッと開けた。
先生だ。
麦さんとは前回顔を合わせたが、モカとは久しぶりの対面になる。
果たしてモカの反応は?
「お父さんこっち座って早く!」
いつものモカだ。
親子が別れたのは10年以上前だと思うが、昨日まで一緒にいたかのような自然な対応だ。
「モカも大きくなったな。昔と変わらず元気な子だ」
「元気だけしか取り柄ないみたいな言い方やめてよ(笑)」
「元気だけは人一倍だからな」
「そこの他人!余計なこと言わないの(笑)」
「まだ(仮)家族で悪かったな(笑)」
「まぁまぁ。みんな揃ったから改めて乾杯しましょうか」
「それじゃカンパーイ!」
みんながドリンクを一口飲んだタイミングでモカが切り出した。
「みんなから話は聞いてるけど、陶芸教室やってるんだって?」
「ああ。小さいところだけど楽しくやってるよ」
「私も陶芸やってみたいな」
「いつでも歓迎するよ」
「そしたら私が教えてあげるから。先輩だし」
「ノアよりお父さんに教えてもらいたいんだけど」
「なら、お母さんも教えてあげるわよ。先輩だし」
「お母さんはまだ2回しかやってないんでしょ?それなのに先輩って言い過ぎだから」
「俺はもっとやってるぞ。俺が教えれば文句ないだろ?」
「いやいや、それこそ無理だから」
「無理って何でよ?」
「とにかくお父さんお願いね!」
「わかったわかった(笑)」
やはりモカがいると場が和む。
重たい空気にならない。
俺もツッコミが来るのを分かってて遠慮なく話せる。
が、次の瞬間、場の空気を一転させる問いかけをモカは言った。
「あのさ、お父さんが私たちの前から突然居なくなったのは何故なの?浮気じゃないんだよね?」
そう、浮気じゃないことはモカもすでに知っている。
知っていてあえてこの質問をしたのだ。
先生は言葉を選びながらゆっくりと慎重に話し始めた。
「俺は麦という人間を愛していた。だが、麦という存在までを愛していなかった。だからあの場から逃げ出した。自分のことだけしか考えていなかった。その結果、みんなを傷つけてしまった。今、大変なことになってる責任は俺にある。何とかしてみんなを守りたい。今はただそう思っている」
重たいセリフだが想いは充分に伝わったと俺は思った。
「そっか。分かった。よし、今夜は飲もう」
モカはそう言うと俺が頼んだ生ビールを一気飲みした。
その瞬間顔が真っ赤になった。
もしかして酒飲めないのか?
「ほら、お父さんもお母さんも飲んで飲んで。そこの他人!アンタも飲め飲め」
ビール一杯でたちの悪い酔っ払いと化した。
そんなモカを見てノアはキャッキャキャッキャと笑っている。
麦さんも先生も笑っている。
俺もつられて笑っている。
これまでのことがどうでもいいと思えるくらい飲んで笑った。
改めて良い家族だなと思った。
「お客さーん、そろそろ閉店のお時間です」
「あ、スイマセン。お会計お願いします」
「ほら、モカも起きて起きて」
「うーん、まだまだもう1軒行くぞぉ」
「あなたも飲み過ぎですよ」
「イテテテ。こんなに飲んだの久々だな」
モカの奢りかと思ったが、モカがこのザマでは俺が支払うしかない。
痛い出費だわ。
モカのバイト代から天引きしてもらおうかしら?
「大丈夫ですよ。従業員割引適用させてもらいますから」
店員さんありがとー!
「それじゃまたね」
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
俺たちはそれぞれタクシーに乗り込み帰ることにした。
「今日は楽しかったね」
「そうね。モカも楽しそうだったし」
モカは酔い潰れて寝ている。
良い夢でも見ているだろうか?
「モカってお酒飲めないんですか?」
「家でも飲んでるところ見たことないけど」
「まだ飲める年齢になったはかりだし、居酒屋で働いてるならそのうち飲めるようになるでしょう」
「今日は酒の力を借りたんですね」
家に着き、俺は酔い潰れたモカを部屋に運び、自室に戻って今後の計画を練った。
しかし、俺も飲み過ぎた。
大人しく今日は寝るとするか。




