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元オタクの動画配信者が結婚して嫁3人の主夫になる  作者: 龍田まや


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第38話 あの日あの時あの場面

「佐藤さん、今度の日曜日のノアの教室の送迎なんですけど、俺と代わってもらえませんか?」

「別に構いませんが、珍しいですね」

「スイマセン、野暮用が出来て」

「日曜日は昼間でしたね?承知しました」


こう言って佐藤さんを誘い出すことに成功した。

当日俺は教室に先回りして様子を伺うことにする。


そして当日の昼。


「佐藤さん、送迎ついでに教室覗いていかない?」

「覗くって見学するってことですか?」

「一日体験入学みたいなこと」

「私にも出来ることならいいですよ」

「それじゃ決まりだね」


今の今まで佐藤アヤはノアが陶芸教室に通っていることは知らない。

普通は把握しておくことだと思うが、中学生の習い事のひとつの何かしらとしての認識程度だった。

その証拠に体験入学と聞いても具体的に習い事が何かを聞くこともしなかった。

今となっては興味がないのだろう。


「この建物の上だから」


2人はエレベーターで教室に向かった。


「へぇ。習い事って陶芸教室なんですね」

「そうよ。意外でしょ?」


教室に入ると生徒が何人かいて、準備に取りかかっている。

すると見慣れた顔の女性がいた。

麦だ。


「あら?お二人さんいらっしゃい」

「これは…どういうことですか?」

「私もノアに誘われて通い始めたの。今日で2回目よ。よろしくね」

「お母さんも今日の予約入れてたんだね」


アヤは偶然にしては出来すぎると思ったが口にはしなかった。

二人揃って私にルナのことをお願いするつもりで誘い出したのだろうか?

それとも別の要件で?


「せっかくだし、3人揃ってひとつの机でやりましょうよ」

「さんせーい!」


そうこうしてるとスタッフが現れた。

いつもなら中川先生の出番だが、例の作戦のために後から出てきてもらうことにした。


「こうやってやるのよ」


麦がアヤの手本となるべく自ら手取り足取り教え始めた。

足は取らないがアヤの粘土を奪って空気の抜き方を教えている。


「そうそう、初めてにしてはいい感じ」


そして、粘土を細く紐状にして手ロクロに積み重ねる作業。

水を付けたヘラで手ロクロを回しながら形を整える作業。

道具を使って粘土を切る作業。

自分が教えられた作業を一通り教えた。

心配された腕前だが、器用にこなしている。

麦が隅々教えるまでもなく自分で考えてどうすべきか理解している様子だ。


「こんなところでしょうか」


立派な湯呑みが完成した。

初めてにしては上出来だ。


「上手いね!3人の中で一番じゃない?」

「そう言ってもらえると嬉しいですね」

「ホントホント。才能あるわよ」


『ガラッ』


誰かが教室に入ってきた。

そして教室を見渡し麦たちの方へ歩み始めた。


「ほほぅ、これは上手ですね」


声がした方向を振り向くと一人の男が立っていた。

するとアヤの表情は固まってしまった。


「え…?どうして…ここに?」


男は黙ったままじっとアヤを見つめた。

そして、


「3人の中で一番上手いな。ほら、2人もよく見せてもらえ」


10数年前と同じようなセリフを言った。


「おとうさん…?」


すると男は再び黙ってアヤを見つめた。

そして、アヤの頭にそっと手を乗せた。


「真綾、待たせたな」


そう、アヤの名は彼女の母親の名前。

後から調べて分かった真綾が彼女の本名だったのだ。


「話は麦から聞いてる。もうやめてくれないか?」


先生がそう言うと、涙目で今にも涙がこぼれそうだった瞳を拭った。


「そういうことですか。そういうことだったんですね」


彼女は頭に乗せた先生の手を振り払った。


「私が一番許せないのは宮尾麦、その次はあなたです。あなたがしっかりしていればお母さんは苦労せずに済んだ。そして、今の私がこんなことにならずに済んだ。今更現れたところで父親面されても私は心変わりなんてしません」


「ルナには何も罪はないはずだ!お願いだからやめてくれ!」


「あなたと宮尾麦の娘だからです。ルナが生まれなければ、あなたの人生もきっと変わらずに済んだ。道を踏み外さずに済んだ。だからです」


「2人とも俺の大切な娘だから!」


「よくそんなことが言えますね。私の存在も最近知ったんでしょ?」


「確かにその通りだ。それを知って動揺もした。しかし、俺の血を分けた子供がこのようなことをしてるのは見過ごすことはできない」


「口では何とでも言えますよ。私がやめたら何かしてくれるのですか?」


「それは…。今は具体的に何も思いつかないが、そうだ、俺と一緒に暮らさないか?」


「そんな今思いついたことで逃げないでくださいよ。心がこもってないので何も響かないです」


このままでは埒があかない。

教室の外で隠れて様子を見ていた俺はただごとではない雰囲気に言葉を失う生徒たちを手招きで誘導して1人ずつ教室の外へ出てもらった。

みんなが出ていったところで俺は教室に入った。


「全てはあなたが仕組んだことなんですね?小谷さん」


アヤさんは物凄い形相で俺を睨んできた。

こんな顔はアイドル時代の変顔パフォーマンス以来かもしれない。


「アヤさん、もうやめにしましょう。こんなことしても誰も幸せにはならないです」


「誰も幸せにならないことが私の目的です。そして、私だけちょこっと幸せになればそれでいいのです」


「そんなの悲しいだけです」


「それが目的だからいいんです」


「アヤさん、いや、真綾さん聞いてくれる?」


この状況にいてもたってもいられない麦さんが口を開いた。


「あなたを養子として正式に宮尾家に迎えます。娘たちと一緒に会社を盛り立ててもらえませんか?」


「私は宮尾家を崩壊させるのが目的なので、そのようなことには興味がないです。でも、私のことを実の娘のように接してくれたことには感謝しています。私の生い立ちを知ってのことだったんですよね?」


「ええ。失礼ながら調べさせていただきました。それ以前にお母さまと同じニオイがしたので、薄々とは感じていましたが、4人目の娘だと思って大事にするのが私の使命だとも思いました」


「ニオイで分かるなんてさすがですね。子供たちもみんなそうなんでしょうか?あなたの血を受け継いでるならそうかもしれないですね」


「真綾もうやめよう。こんなことをしてお母さんが喜ぶと思っているのか?」


「あなたがお母さんのことを心配するなんて、この私が許さない!」


先生の説得も虚しく一喝されて終わった。


「私の考えは変わりませんから」


アヤはそう言うと教室から出ていった。

ノアはアヤの凄みにビビったのか、彼女が出ていってから床に座り込んでしまった。

先生は天を見上げるのみ。

麦さんはせっかく作った作品をその場で握りつぶしてしまった。

俺は…万策尽きた。













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