第36話 陶芸教室に通う親子と婿(仮)
つい先ほど中川先生に佐藤アヤと会ってほしいとお願いしたが、娘より先に元嫁の麦さんに会わせることが先決だと思い、その段取りで進めることにした。
中川先生にとってはどちらと会うにせよ、一呼吸も二呼吸も置かなければならない。
確定ではないが元交際相手との間に生まれた子供、猫化した元嫁。
行きも帰りも地獄だろう。
どうやったらスムーズに事が運ぶか。
そうだ!ノアに協力を求めよう!
今現在の父親のことを知っているのは俺以外ではノアだけだ。
ノアはおそらく父親と母親が復縁してほしいと望んでいるだろうし。
陶芸教室に麦さんを誘って3人で行く。
そこで中川先生と会わせる。
10年ぶりくらいの空白をノアに緩衝材として入ってもらい埋めてもらう。
これなら上手くいきそうだが。
その前にノアには現状どうなっているか説明しないとならない。
モカは何となく空気で察していると思うが、ノアは何も知らないだろう。
ルナお姉ちゃんなかなか帰ってこないね、くらいにしか思ってないはず。
猫化のことはまだ麦さんから聞かされてないだろうから、そこは上手くボヤかしておこうか。
帰宅して夕飯後に俺は陶芸教室のことで話があると言ってノアを呼び出した。
「なーに。話って」
「実はさ、麦さんが最近癒しに凝ってるらしくて、俺に何か癒されるものとか、リラックスできる空間とかないかと聞いてきて」
「ふんふん、それで?」
「今度の休みにさ、いつもの陶芸教室に誘おうと思うんだけど、どうかな?」
「それってお父さんと会うことになるけど。お母さんに内緒で?」
「もちろん内緒で。サプライズだから」
「でも、大丈夫かな?気まずい空気にならない?」
「そこは俺とノアでフォローするんだよ」
「でも、上手くいくかな?」
「大丈夫大丈夫」
「そこまで言うなら」
「あと、ルナのことだけどさ」
「うん、今日も帰ってこないね。お母さんは心配しなくていいって言ってたけど」
「お母さんの言う通り、心配しなくていいから。でも、お父さんとお母さんの間でルナの話題になっても落ち着いて聞いてやってね」
「え?どういうこと?まさかルナだけお父さんと暮らすことになるとか?」
「そんなことはないけど。とにかく落ち着いて話を聞いてやって」
「何だかよく分からないけど、そこまで言うなら大人しくしてる」
「それじゃ、ノアから予約入れといてよ。俺からだと警戒されるかもしれないから」
「分かった。3人でね」
「麦さんには俺から伝えるから」
これで手筈は整った。
次の休みまで平穏無事でいますように。
そしてあっという間に次の休みに。
俺は麦さんとノアを車に乗せて陶芸教室へと向った。
「ノアが陶芸教室通ってることは知ってたけど、そんなに癒されるの?」
「もう癒やし効果バッチリだよ。土をこねてるときとロクロを廻してるときは無心になれるから」
「ひゃーっして気持ちいいよね」
「そうそうそれそれ。ひゃーっだから」
「2人がそこまで言うなら楽しみね」
教室のあるビルに到着すると、顔馴染みの生徒さんもチラホラ見えた。
生徒さんたちと一緒にエレベーターに乗り込み教室のある階へと向かう。
「あそこよ」
ノアが教室を指差した。
そして教室に入り受付を済ます。
中川先生はまだ来てないようだ。
「席は決まってないから空いてるところに座ればいいの」
「じゃあ、あそこに座ろうか」
俺たち3人は固まって座ることにした。
「こんな大きな粘土使うの?楽しみねぇ」
麦さんは子供のようにはしゃいでる。
改めて見ても可愛らしい女性だ。
その様子をノアは微笑んで見てる。
「パンパン」
中川先生が現れて手を鳴らした。
「皆さんお疲れ様です。それじゃ、今日も思うがままに進めてください。分からないことがあれば私に声を掛けてくださいね」
この教室はいつもこんな感じで始まる。
基本的には生徒の自由にやらせてもらえる。
あれしろこれしろと言うような指図めいたことは一切言わない。
そこが俺も気に入って通い詰めてる理由のひとつだ。
麦さんは先生の姿を見てすぐに気付くと思ったが、全くもって反応がない。
ひょっとしたら昔の面影が残ってないのだろうか?
失礼を承知で言わせてもらうが、中川先生は麦さんと比べるとどこにでもいるような中年男性だ。
白髪も目立ちかろうじて若い頃はカッコよかったかも?と思えるようなルックスである。
ノアも「あれっ?」というような表情で俺と顔を見合わせた。
ノアが昔の写真を見て気付いたくらいだから、分からないことはないと思うのだが。
先生も挨拶をしてから椅子に座ってPC画面を見つめているので、こちらの様子に気付いてない。
とりあえずはいつものように創作活動始めるとするか。
「お母さん、私のやり方見てて」
ノアが最初にお手本を見せる。
麦さんは同じようにやってみせる。
「そうそうそんな感じで大丈夫」
「こう?エイ!エイ!」
声を出しながら粘土を板にバンバンと叩いてこねていく。
そして空気を抜いた粘土を細かく紐状に切って、それをロクロに載せて積み上げていく。
積み上げた粘土を指でつぶしながらくっつけていく。
ロクロを手で回転させて水を付けたヘラを粘土に押し当てて形を整えていく。
気付けば3人とも無言になって作業を行い、あっという間に終了の時間が来た。
「あー、楽しかった。こんなに楽しいなんて知らなかったわ」
どうやら麦さん大満足のようだ。
すると先生がこちらにやってきた。
先生が近づいてくると麦さんの表情が一変した。
「初めてにしてはなかなか良い湯呑みですね」
次の瞬間、先生も気付いた。
「麦…か?」
「あなた…」




