第31話 佐藤アヤの過去②
私は施設に行くことになり学校も転校することになった。
今思うと私のことを誰も知らない土地に行くほうがイジメにも合わないだろうと配慮してくれたのかもしれない。
実際、転校先の中学校ではそのような心配もなく、平和な学校生活を送っていた。
そして中学2年になったときに私はある少女と出会うことになる。
長い黒髪がとても綺麗な女の子。
中学生にしては大人っぽい感じ。
彼女の名前は中川ルナ。
そう、後の宮尾ルナだ。
彼女は私のことを憶えていなかったが、私はハッキリと憶えていた。
小学生のときの運動会のあの日。
楽しそうにお弁当を食べていたあの家族。
そこにいた彼女だとすぐに分かった。
彼女とは一緒のクラスで席が隣同士となり、私から声を掛けてすぐに仲良くなった。
彼女は若干人見知りなところがあったが、人当たりが良く、勉強もスポーツも良く出来た優等生だった。
傍から見れば私たちはとても仲良しに見えたと思うし、実際私は親友だと思っていた。
彼女もそう思ってくれていたと思う。
それでも彼女の父親が私の父親である可能性があるということは胸に秘めておいた。
そして、中2の終わり頃になってルナの家が離婚して父親が家を出ていったと人づてに聞いた。
はっきりとは覚えてないが、父親の浮気が原因というまことしやかな噂も流れた。
子供の頃はこういったデリケートな話題はすぐに広まってしまう。
私は父の行方も気になったが、それ以上にルナのことも心配になった。
小学生の頃に僅かな時間だが家族仲良くしていた記憶が鮮明に残っていたからだ。
ルナはショックからなのかしばらく学校を休んでいた。
心配になり何度か見舞いに行こうとも思ったが、ルナのことを心配がてら、居なくなった父親が住んでいた家を見たかったという本能も抑えられずにいた。
小学生の頃の自分ならその気持ちを抑えることは出来なかっただろう。
なんとかなんとかその気持ちを抑えて、ルナが学校に出てくるのを待った。
こんなとき親友ならどうやって元気づけるのだろうといつも考えていた。
しばらくするとルナがまるで何事もなかったかのように普通に登校してきた。
私はいつもと同じように明るく振る舞ったが、彼女は性格が一変し、私への当たりが次第に強くなっていった。
理由は全く解らない。
私が彼女に対して何かしたのだろうか?
彼女が相変わらず優等生なのは変わらないのだが、私にだけあからさまに態度が違った。
中3になってからはクラスが変わったので、私と関わることはなくなったが、彼女のことはいつも気にはしていた。
時はあっという間に流れ、中学生活が終わり、ルナと私は同じ高校に進学した。
そして私とルナは再び同じクラスになる。
入学早々、ルナは私をアイドルデビューさせようとオーディションを受けるように仕向けてきた。
私は彼女の言ってることが1ミリも理解出来なかった。何故私がアイドルに?
私はアイドルなんてまるで興味がなかったので拒否したが、彼女はそれを受け入れてくれなかった。
とにかくやれの一点張り。
彼女は私を奴隷か何かと思ってるのだろうか?
私は半ば強引に履歴書を書かされ、それを提出したら、書類選考を通過してしまった。
そして、いくつかの審査を通過して見事合格することとなり、レッスンを受けてアイドルとしてデビューを目指すことが決まった。
私は半ば強引にアイドルとなったが、私は純粋に活動を楽しめていた。
元々、子供の頃から人前で何か披露するといった目立とう精神があったので、芸能活動は私に向いてると思ったからだ。
歌もダンスも苦にならなかった。
何よりレッスンを受けてる最中はルナと関わることがなかったことも理由のひとつとしてある。
日々のレッスンをこなし、私と同期のメンバーたち数名でグループとしてデビューすることも決定した。
デビュー直後はショッピングモールでのライブや、レコードショップでのイベントスペースを借りてのライブなど、地道な活動が続いた。
ルナはイベントが開催させると必ず姿を現した。
他のお客さんと違って声援を上げたり、合いの手を入れたりはせず、腕組みをしてステージの私を見ていた、ただそれだけだった。
アイドルとして順調に活動し、いよいよブレイク間近というところで、私個人に関する変な噂が流れ始めた。
あとから分かったことだが、その噂の出処はルナからだった。
ルナは私を辱めるためにアイドルとしてデビューさせたようだが、思いのほか私が楽しんで活動してることに苛立ち、まことしやかな噂を流して辞めざるを得ない状況を作り出した。
私はいろんなところからの批判に耐えられなくなり、ルナの思惑通りにグループから脱退するはめになった。
私が脱退したことでグループは解散。
私は芸能界からも引退することになった。
芸能界を引退した私は地元の企業に就職するも、悪い噂が広まっていたせいか何をやっても上手く行かず、何度も短期離職を繰り返すことになる。
何度も死にたいとも思った。
失意のどん底にいた私に声を掛けてきたのが、あろうことかルナだった。
ルナから宮尾家で働くことを勧められ、使用人としての生活が始まった。
その頃の宮尾家は母の麦が事業を成功させており、それなりに裕福な暮らしを送っていた。
そんな私を麦さんは快く迎えてくれた。
私は子供の頃から一通り家事は出来たので、麦さんから信頼を得るのに時間はかからなかった。
ルナはその頃大学生だったが、何れは母親の跡を継ぐ存在として周りからそう見られていた。
ルナの妹のモカと私が知らない間に生まれていたその下の妹のノアとも私は上手くやれていたと思う。
ようやく安心して暮らせる場所が見つかったと思った。
ある日の夕方、ルナに誘われて彼女の部屋に入った。
部屋に入るとルナは私を後ろから抱きしめて激しくカラダを求められた。
私は懸命に抵抗したが彼女は物凄く力が強く、そのまま床に倒されてしまった。
気がついたらコトが終わっていた。
え?ナニコレ?
「これからよろしくね」
ルナはひと言そう言い残して部屋を出ていった。
父は母だけではなく私も苦しめるのか…。
大粒の涙が頬を伝った。
そしてある日、ルナは自身の秘密を私に明かした。
彼女は私の目の前で人間から猫の姿に変身してみせたのだ。
私は手品かCGかと思ったがそうではなかった。
変身した理由まで教えてくれなかったが、彼女は猫の姿のままカラダを求めてきた。
「きっとこれは悪い夢だ」
何度もそう呟いたが体中に爪痕が残っているのを見て、これは現実なんだと思い知らされる。
とめどなく涙が溢れた。
このままだと私は壊れてしまう…。
私の人生っていったい…。
次の瞬間、私は彼女に対して復讐することを誓い、計画を練ることにした。
数年後、麦さんが娘に結婚相手を探してることを聞き、それが何度も頓挫していることも知った。
頓挫している理由についてはおそらくアレが原因だろうとピンときた。
そこで、彼女に提案を持ちかけ、私が結婚相手を探してくるようにと仕向けた。
これは全くの偶然だったが、私の計画にハマる人材として、結婚相手となるべく見つけたのが、そう、小谷陽平。
彼を上手く利用すれば私はこの苦しみから解放される…。
私は笑いが止まらなかった。
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「そして、私の計画通りにコトが進みました。ようやくです。やっとです。遂にです。クックック」
彼女は笑いを堪えるのに必死だった。
「小谷さん、あなたにはとっても感謝していますよ」




