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元オタクの動画配信者が結婚して嫁3人の主夫になる  作者: 龍田まや


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30/40

第30話 佐藤アヤの過去

麦さんと中川先生からそれぞれ話を聞いた俺は一人公園のベンチに座って天を見上げて考え込んだ。


麦さんの正体は猫で中川先生を想う気持ちが天に通じて人間へと変身する能力を身に着けてしまった。

中川先生は当時毎日お参りに行くほど想っていた病弱の彼女がいたにもかかわらず、人間化した麦さんに出会い惹かれて結婚した。

しかし、麦さんが猫だと知ってしまい家族を残して逃げ出した。

残された麦さんは子供3人を養うべく、人間の姿で四六時中働いて、今のニコネコカンパニーを創るまでになった。その代償として寿命を縮めることになってしまった。

麦さんの話だと変身しなければパワーを使わないので、娘たち3人は人間として暮らしていれば何の問題もない。

しかし、ルナは今回の件で人間に戻れない(戻らない?)状態になってしまった。

やはり今は動画の出処を見つけて回収するしか手がない。


俺は新たに重い任務を自らに課し、家路に着いた。


家に戻ると佐藤さんがニャンコたちに夕飯を与えていた。

いつもより早い時間帯だ。


「おかえりなさい。この子たちの世話は私がやっておくので、夕飯の準備お願いします」


佐藤さんの表情はどこか明るい。

今朝の感じとは少し違う。

何か吹っ切れたようにも見える。

ニャンコたち全員にエサを与えている中、一匹の猫が佐藤さんにくっついて離れないことに俺は気付いた。

見慣れないが見覚えがある黒猫だ。

この猫どこかで…。

俺は記憶を遡った。


あのときの、駐車場の?…何故今ここに?

もしや、あの猫は…?


俺は口にするのも恐ろしいひと言を彼女に向かって言った。


「その猫って、あのとき…の猫ですか?」

すると、佐藤さんは物怖じせず、

「そうですよ」

と即答した。

【あのときの】で伝わった。

俺に見られていなければ出てこない言葉を発した。

そして、俺は心のどこかでそうであって欲しくないと思いながらも次の言葉を続けた。


「その猫って、ルナ…ですか?」

「そうですよ」

普通の感覚の人ならばそこにいる猫を指差して「それって人間ですか?」と言われたら「お前何言ってんの?」となるが、それが当たり前かのように眉一つ動かさず答えた。

お笑いセンスがある佐藤さんなら鋭いツッコミを入れてくるだろうに。

だが今日に限って…。

いったいどういうことだ…?


「ホントにルナなのか?」

俺がその猫に声を掛けると、猫は怯えながら佐藤さんの後ろに隠れてしまった。

「ビックリするから大きな声出さないでくださいね」

彼女は猫をあやし始めた。

「何故そんなことに…?」

「私たちは子供の頃からの付き合いですから何でも知ってますよ」


俺の頭の中は混乱し始めた。

あのとき駐車場では明らかにルナが佐藤さんを手懐けてる感じだった。

慣れた感じでコトを済ましているようにも見えた。

普段ルナに怯えるような素振りなのはそのことが関係してるからだと思っていた。

しかし、今、明らかに立場が逆転している。


「私とルナのことについて話しましょうか」

彼女は静かに語り始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

幼い頃、私は母親と暮らしていた。

私に父親はいない。

母が隠し持っていた写真には父親らしき人が母に寄り添って写っている。

私はこの写真をいつもコッソリと見ていた。

この人が私のお父さんなんだと信じて疑わなかった。


母は私のために昼も夜も一生懸命働いていた。

裕福な暮らしではなかったが私は幸せだった。

私が小学生になり、学校で運動会が開催された。

私は自分で言うのも何だが運動神経が良く、クラス対抗リレーの選手に選ばれた。

アンカーとして走った私は前の走者をグングンと追い抜いて見事に優勝。

仕事の都合でお昼から来る母親を優勝トロフィーを持って探し始めた。

すると、校庭の端のほうでお昼ご飯を食べていたある家族を目にする。

体操着を着ている自分と同じくらいの女の子とまだよちよち歩きの小さな女の子、そして父親と母親の家族4人が幸せそうにお弁当を食べている。

どこにでもいるような普通の家族だが、その普通がなかった私にとってはとても羨ましく思えた。


「ルナは2等か、惜しかったな」

父親が子供に声を掛けたそのとき、私の心臓は止まりそうになった。


「お・と・う・さ・ん?」

私の視線の先には母の写真に写っていたその人がいた。

ほぼ毎日見てるから間違いない。

私は無意識にその家族の元へと歩み始めていた。


すると、その父親は私の視線に気付いた。

立ち上がってこっちにやってくる。

「あ、あ、あ!」

その父親は後退りする私の頭をガシッと掴んだ。


「お嬢ちゃん1等だったのか。スゴイな。おい、ルナ、こっちきて見せてもらえよ」

「ホントだ!すごーい!」

「あら、ホントすごいわね」

一家家族総出でチヤホヤされた。

とてもじゃないが「私のお父さんですか?」と聞ける空気ではないと子供ながらに察し、作り笑いをしてその場から立ち去った。


階段で座っている私を見つけた母がお弁当を持って駆け寄ってくれた。

母は私が抱えていたトロフィーを見て満面の笑みで私を抱きしめた。

強く強く抱きしめてくれた。

そしてたくさんたくさん褒めてくれた。

私を抱きしめるお母さんの手はひび割れてボロボロだった。

お母さん大好きだよ。

私を産んでくれてありがとう。

さっき父親に会ったことは秘密にしておこう。


それから数年後、母は交通事故で他界した。

過労が原因での居眠り運転らしい。

身寄りのない私は一人っきりになり、施設で生活することになった。







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