第26話 モカの異変
三人娘の練習を始めて数日。
そろそろサボる人も出てくると思われたが、誰一人休む人はいない。今のところ全員が皆勤賞だ。
ノアは学校ではクラブ活動に所属していないので(実際は所属はしているが幽霊部員)放課後は習い事がなければ基本フリー、モカはフリーターなので、ある程度自由が利く身、ルナは会社の為を思って渋々だが参加してくれているのだろう。
何にせよチームワークが大切だからプロデュースを任される身としては今の状態をキープしていきたい。
「あのさ、歌詞書いてきたんだけど見てくれない?」
モカが俺にノートを手渡した。
「どれどれ…へぇ、素人っぽくていいね」
「それって褒めてるの?」
「褒め言葉だよ。この調子でどんどん進めてよ」
「分かった。やっておくね」
「今日は少し難しい振り付けをやってみましょうか」
佐藤さんからの提案だ。
基本的な動きはだいたいマスター出来たのだろう。
歌とダンスに関して俺は全くの素人なので、ここは佐藤さんに一任している。
3人も相談し合ってコンビネーションを考えている。
皆で一つのモノを作り上げてる感じだ。
「モカ、ちょっと顔色悪くない?」
「少し休んだらどう?」
「大丈夫。平気平気。次いこうか」
モカは立ち上がった瞬間その場に倒れ込んだ。
「モカ!大丈夫?」
すごい熱だ。
俺たちはモカを抱えて部屋に連れていった。
「どうしたんですか?」
仕事を終えて帰ってきた麦さんが何事かと近寄ってきた。
「モカが熱を出して倒れ込んでしまって。医者に連絡しようかと」
「私に任せてください。お医者さんには連絡しなくて大丈夫ですから」
「え?でも…」
「大丈夫です。私に任せて」
麦さんはそのままモカの部屋に入っていった。
モカの体調が心配だがここは麦さんに任せるしかない。
ユニット活動はモカが復調するまで一時休止することにした。
モカが寝込んでから数日経つ。
その間、麦さんは仕事を休んで付きっきりで看病している。
部屋を出てくる際にモカの様子を伺ったが、大丈夫のひと言のみ。
俺にはその言葉を信じることしか出来ないのだが。
心配してモカの部屋の前にいたノアが俺にこう言った。
「前にもルナが高熱を出して寝込んだときにお母さんが付きっきりで看病してたんだよね。時間はかかったけど元気になったからモカもきっと大丈夫だよ」
家族を大切にしてるんだな。
早く元気になっておくれ。
いつもの朝食の時間。
食卓にまだモカの姿はない。
付きっきりで看病している麦さんもだ。
ノアは学校へ、ルナは会社へ。
そして、俺はいつものようにニャンコたちへ朝飯の準備に取り掛かる。
はいはい、待ってくれよ。
今すぐ用意するからな。
「私にもご飯用意してくれる?」
ん?
振り返るとそこにはモカがいた。
「もう体調良くなったのか?」
「うん、心配かけてごめんなさい」
「ビックリしたよ。こんなに長い間寝込むなんて」
「もう大丈夫だから」
いつもなら軽口を叩く彼女だが、妙に大人しい。病み上がりだからなのか?少しいつもと雰囲気が違うようにも見えるが。
とにかくこれでひと安心だ。
「何か作って持ってくるから猫たちの世話頼むね」
「うん、待ってる」
モカは俺の作った小粥を残さずペロリと平らげた。食欲だけはいつもと変わらずだった。
モカの体調も考慮して3人揃っての練習は数日後にした。
その間に俺はPVのイメージをまとめることに、佐藤さんも曲に合わせた振り付けを考える時間に充てた。
モカが書いてくれた歌詞も曲にハマってる。
今日は佐藤さんと軽く打ち合わせ。
俺が作ったPVのイメージをラフな絵で描いて見せることにした。
「どうですかね?」
「いいですね。さすがオタクだけあります」
「元オタクですけどね」
「衣装について提案があるんですが、こういうのはどうでしょうか?」
スマホの写真フォルダから何枚か写真を見せてくれた。
彼女が提案したのはボディースーツだ。
これはちょっとセクシー過ぎないか?
「無駄なくシンプルという当社のサービスと合致してると思って」
言われてみると確かにそうかもしれないが、3人が了承するかな?特にルナが。
「3人には私から提案することにしときますので。男性だとその…変な目線で選んだと思われかねないですし」
確かに確かに。それじゃお任せしよう。
これで方向性は固まった。
あ、そうだ。
「その衣装なら猫耳とシッポも着けましょうよ」
「安直なんで却下で」
佐藤さん厳しい。
翌日、モカが復調してから最初の練習が行われた。
モカは休養明けとは思えないくらい動きはよい。他の2人も自主練でもしていたのか数日間のブランクは感じさせない。
佐藤さんの指導も熱心に行われた。
「よっし、皆集まって」
皆いい顔をしている。
「えーっと、曲が完成したので、まずは聴いてもらいます。モカが作った歌詞も仮歌で入れてあるので。それじゃ再生するから」
全員が黙って静かに聴き入る。
「これ歌ってるのは誰?」
「それは俺」
「けっこう上手くない?」
「うん、悪くない」
「え?え?ホント?ありがとう。でも、歌うのは君たち3人だから」
「パートの割り振りはどうなってるの?」
ルナが一番気にしているところだろう。
「一応、普段歌ってて経験があるモカがメインで、ノアとルナはコーラスを担当してもらう予定。何か異論ある人?」
「それでいいよ」
とノアとモカ。
ルナはホッとしているようだ。
「近いうちにレコーディングしてもらうから、まずは曲を聴いて覚えてね。曲に合わせた振り付けも佐藤さんが考えてくれたから、大変だけど皆頑張ってね」
「は~い」
俺はレコーディングの段取りをつけることにした。
佐藤さんは皆が分かりやすいように自身でカメラを回して振り付け動画の撮影に取り掛かってくれた。
レコーディングは順調に行われ、瞬く間に音源は完成した。
佐藤さんの振り付け動画も分かりやすいと皆から好評で、自主練にも効果てきめんだった。
リハーサルも何度か繰り返し、機が熟したところで、いよいよPV撮影を行うことになった。
いよいよ俺のプロデューサーとしての手腕が問われる。




