第22話 佐藤さんのやりたいこと
ノアを家まで送り届けると俺は車を入れ替えてディーラーへと向かった。
先日修理に出した会社の営業車の修理が完了したと連絡を受けたので、今日のうちに済ませとこうと受け取りの電話を入れておいたのだ。
「宮尾様、お待ちしてました」
「修理完了しましたか?」
「ええ。これでまだまだ走れますよ」
「どれどれ。エンジン音もバッチリだ」
「それじゃ、こちらにサインお願いします」
足回りも快適だ。
まだまだコイツには頑張ってもらわないとな。
俺は寄り道することなくまっすぐ帰路についた。
そして、地下駐車場の指定の場所に停めて、一息つくことにした。
この間はここで衝撃的な光景を目にしたんだったな。
目を閉じるとあの日の出来事が頭に浮かぶ。
あのときの佐藤さんの表情といったら…。
いかんいかん、俺は何を考えてるんだ。
彼女がアイドルのPUSSYCATの元メンバーだっただけに想像を超える非現実的なことだったから忘れようにも忘れられない。
なんかモヤモヤするな。
俺は頭をスッキリさせるべく缶コーヒーをグビッと一気に飲み干した。
すると、遠くの方から人の声が聞こえた。
まさかまた…?
俺は声がする方へと気配を殺してゆっくり向かった。
駐車場の奥にある休憩スペースから声が聞こえる。
佐藤さんだ!
隣にも誰かいる。
あれは…ルナだ。
何を話してるんだろう?
この場所からでは彼女たちから姿を見られる可能性があるので、気づかれないように壁際にスマホを置いて、録音機能を作動し、少し離れたところに身を潜めた。
会話はあとから聞くとしてとりあえずは彼女たちの様子を見守ろう。
しばらくするとルナは佐藤さんを抱きしめてそのまま慣れた手つきで服を脱がし始めた。
え?二人はそんな関係なの?
休憩スペースだが、応接室にあるような立派な長椅子が置いてあるのはその為なのか?なんてことを考えてしまったが、行為をするには充分な場所ではある。
しかし、オープンスペースだから人目につくような場所なのだが、そんなことはお構いなしに始まった。
会社のスケジュールを把握しているルナだからこそ出来る芸当ではある。
いやいや、感心するところではない。
2人の関係はどうなってんだ?ってことだ。
俺は無意識のうちに身を乗り出してしまった。
すると胸ポケットに入れておいた車のキーを落としてしまい、駐車場中に音が鳴り響いてしまう失態を犯した。
その音に気付いたルナは動きを止めて周りを見渡した。
佐藤さんも脱がされた上着のボタンを留めた。
ルナは何事もなかったかのようにその場から立ち去った。
佐藤さんも服を着てからルナを追うように、いや、逃げるように出ていった。
俺は2人がいなくなったのを確認して壁際に置いたスマホを回収しにいった。
この場所に留まるのはマズいと思い、俺は自室へと戻った。
このスマホには先ほどの2人のやり取りが鮮明に記録されている。
遠目では見たが、明らかに男女の行為、いや2人とも女性だから女同士の行為だ。
今、再生ボタンを押す。
2人の生々しい声を聞くことになるが、これも致し方ない。
佐藤さん許して!
ポチッとな!
あれ?録音されてない?
まさかそんな?
どうやら再生を2度押しして一時停止になっていたようだ。
何たるイージーミス。
肝心の会話がまるで録音されていない。
録音じゃなくて録画にしておけばよかった。
でも、2人がそういう関係だったとは。
しかし普段の関係性は対等には見えないし、佐藤さんはルナに怯えてるように見えるときがある。
ひょっとして無理やり関係を持たされてるのか?
デリケートな問題だからこれまた聞きづらいな。
さりげなく聞けないだろうか…。
台所に向かうと佐藤さんはいつものように夕飯の準備に取り掛かっていた。
「お疲れ様です」
「あ、お疲れ様?です」
佐藤さんはいつもと変わらぬ様子だ。
ここで前々から聞きたかったことを聞いてみた。
「佐藤さん、今やりたいことって何かありますか?」
「どうしたんですか急に?」
「いや、俺が来たから少しは佐藤さんの仕事も負担が減ったと思うんですよ。だから1日や2日くらい休暇を取ったらどうかなーと思って」
「私から見たら小谷さんはまだまだですよ」
「朝食はノアも手伝ってくれるようになったし、ニャンコたちの世話もたまにモカが手伝ってくれるし」
「それでもまだまだですね」
「そうですか…それじゃあ、今すぐじゃなくてもやりたいことはありますか?」
「今すぐじゃなくてもですか…普通の…普通の恋愛がしたいですね」
「普通…ですか?」
「ええ、普通が一番です」
ついさっきまで普通じゃないことをしていた女性から発せられた普通という言葉に違和感ありありだった。
同意の上での行為ではなかったのか?
彼女とルナとの間に何があるんだ?
「おしゃべりはこれくらいにして、猫たちにも夕飯あげてきてくださいね」
「あ、はい。行ってきます」
庭に行くとニャンコたちが集まってきている。
早く飯よこせといった顔を雁首揃えてる。
「いいよな、お前たちは何も考えてなくて」
餌を取り出すといっせいに飛び掛ってきた。
飯のことは人一倍、いや、猫一倍考えてるんだな。




