余韻でドキドキ
午後の実験室。白衣に着替えたクラス全員が机を並べ、試験管やビーカーを前に準備を始める。
薬品とアルコールランプの匂いが漂い、静かに緊張した空気が満ちていた。
丸尾は、手にした試験管を見つめながらも、全く集中できていない。
有介(心の声)
「多野と一緒に実験......って、なんで
芳賀や藤井とじゃないんだ。これじゃ授業に身がはいらねぇ・・・。いや、俺、普段から真剣に授業受けてたか?......もうわけわかんねぇ!」
(隣では多野が真剣な表情でノートをとっている。髪を耳にかける仕草さえ落ち着いて見えて、余計に胸が苦しくなる)
多野
「・・・・・・今日は水のpHを測定するんだよね。滴下して、色の変化を観察して・・・・・・・」
有祐
「・・・・・・あ、ああ!そ、そうそう!(全然頭に入ってねぇ・・・・・・・!)」
クラスは自然に2人組へと分かれていた。芳賀と藤井は同じペアになり、こちらにちらちらと視線を送ってくる。
芳賀
「おー、丸尾が多野と組んでるぞ、これは・・・チャンスだな」
藤井
「バカ、お前声大きい。まだバレてねえんだから静かに見守れ」
(彼らだけが、丸尾の恋心を知っている)
一方、周囲の生徒たちは単純に実験に集中していた。
「試薬こぼすなよー!」
「おい、ゴーグルちゃんとつける!」
そんな声が飛び交う中で、丸尾だけが緊張で落ち着かない。
有祐(心の声)
「・・・俺 だけ異世界みたいになってる。みんな普通に実験してるのに、なんで俺だけ心臓バクバクなんだよ」
丸尾と多野の机の上には、ビーカーと試験管、指示薬の入ったスポイトが並んでいる。
多野
「えっと、まず蒸留水を取って、試験管に入れて」
有祐
「お、おう!(手が震えて試験管にこぼしそうになる)」
(多野がすっと手を伸ばし、丸尾の手をそっと押さえる)
多野
「落ち着いて。少しずつで大丈夫だから」
有祐
「っ!(近い!近い!距離近すぎるだろこれ!)」
(頬を真っ赤にしながら試薬を垂らす丸尾。液体がほんのり色づくと、クラスのざわめきが少し遠くに感じられた)
だが、そのときー。
有祐が手元を誤り、スポイトから指示薬を一気に入れすぎてしまった。
「ボトッ、ボトボトッ・・・・・・!」
本来は数滴で良いのに、十滴以上が一気に落ち、試験管の中の液体は鮮やかな真っ赤に変色する。
有祐
「うわっ!?な、なんだこれ!」
多野
「入れすぎ!これじゃ正確な測定ができないよ!」
(隣の机から「おーい丸尾、カクテル作ってんのカー?」と笑い声。クラス中がどっと笑い、丸尾は耳まで赤くな
る)
有祐(心の声)
「あああ・・・やっちまった・・・!なんでよりによって多野の前でこんなドジを!」
慌てて机を拭こうとする丸尾。その背中を、多野が心配そうに見つめていた。
多野
「・・・丸尾くん、さっきからすごく緊張してない?」
有祐
「えっ!?な、なんで!?別に緊張なんかしてねぇし!」
(声が裏返り、動きもぎこちない)
多野
「・・・手、震えてるよ」
(彼女はそっと丸尾の手元を支える。その指先の温もりが伝わり、丸尾の顔はさらに真っ赤に染まる)
有祐
「ちょ、ちょっと待って!ほんとに大丈夫だから!だ、大丈夫だから!」
有祐(心の声)
「だめだ・・・..これ以上目を合わせたら、完全に爆発する・・・!pH測定じゃなくて、俺の心臓の測定してくれ!」
実験は何とか最後まで進み、結果をノートにまとめる時間になった。
隣の机では芳賀と藤井がニヤニヤしながらこちらを見てい
る。
芳賀
「おいおい、完全にラブコメだろあれ」
藤井
「....・・・まあ、こっちは静かに応援するだけだ」
(その一方で、丸尾はノートを取りながら必死に平静を装っていた)
有祐(心の声)
「今日、俺カッコ悪い所ばっかだったな。でも・・・多野の優しさに救われた気がする。次こそ・・・次こそは。」
(静かな実験室に、ペン先の音と、丸尾の決意だけが残って
いく ー)




