キンモクセイが舞い散る頃に。
初めまして、残雪と申します。
この「キンモクセイが舞い散る頃に」が初投稿なのですが、指摘があった場合どんどん言ってもらえると幸いです。次回もこのような短編を書こうと思っています。乞うご期待。
僕の名前は鮎河輝紀、高校2年生だ。今は夏休み真っ只中で平穏な日々を過ごしていた。2年生になって虐められることもなくなったが、一年生の頃は酷かった。クラスでは一軍が屯し、逆らったり,意にそぐわない行動をしたりしたら当たり前のように暴力を振るわれる。パシリなども日常的にある。大半の教師は面倒くさがって関与してくれない。相談してものらりくらりと逃げるだけだ。校長も同じように言い訳ばかり言って逃げ腰だ。学校が虐めを黙認しているという事実を公表してないため,バレないように全力で隠蔽している。この学校で唯一注意をする存在は生活指導の平山先生くらいだ。バスケ部の顧問も兼任しており,怒ると怒髪天を突くほど激しい。なので先生が近くにいる時は表面上仲良くしているみたいだ。
2年になってからは虐められないように全力で三軍を演じている。誰も話しかけてくれないが、そんな僕に話しかけてくれる存在が1人だけいる。
同じ学年の飛鳥志樹。僕と同じオタクだ。だが志樹は一軍で女子にすごくモテる。ただ誰とも付き合ってないので変わったやつだ。
彼の事を話しているとちょうど彼が遊びに来た。
「よう、輝紀!」
「やあ志樹、今日も元気だね。」
「お前は元気ないな。」
「いつも通りじゃないか?」
「確かにそうだな笑」
「そういえば最近、街の雰囲気が淀んでるように感じるんだ。」
「え、そうか?」
「うん、めっちゃ淀んでる。」
「お前がそういうんならそうなんだろうな。」
「何かの前兆なのかもしれない,不吉だな。」
そこまで気にすることもなく僕たちは普段通りにゲームなどをして遊び始めた。
この時僕たちは気づくことはなかった。
この違和感が、どうしようもない惨劇の始まりということを……。
そこから1ヶ月ほど経ち,二学期が始まった。
二学期が始まり1週間経った頃,惨劇は起きた。
「まだ四時なのに外が薄暗い、嫌な予感がする。」
まだ9月の夕方なのだが、やけに外が薄暗い。
紫色の厚い雲に覆われ,淀んだ空気が立ち込めている。カラスもけたゝましく鳴いている。
不思議なことに蝉は一匹も鳴いていない。
こういう時の勘というものは当たるものだ。
「母さん、ただいま。」
返事が来ない。シーンとした廊下の奥から異音が聞こえる。
「母さん?」
不思議に思いながらリビングの扉を開けると、
そこには指を噛み切り、血だらけになった母が
奇声を発しながら自身の血液で「呪」の文字と「息子焼死祈願」など怨恨に満ちた文字をつらつらと書いていた。
そんな中、母と目があった。
数秒か,数分か、沈黙が流れた。
母はゆらりと幽鬼のように立ち上がり、言語かどうかすらわからない言葉をボソボソと呟きながら追いかけてきた。
「綺麗なクラウチングスタートだ。」
いや、そんなことはどうでもいい。
多分これが俗にいう、人生最大のピンチというやつなのだろう。
とりあえず通学カバンを母にヘッドショットして僕は逃げ出す。靴は履いていないが,まあいいだろう。玄関を開けた瞬間僕は固まった。
四時過ぎにも関わらず黒に近い紫色の曇天に、淀んだ霧。そして線香のような匂いが立ち込める。
人影があったが,それはゾンビのように腐敗した‘元’人間だけだった。しかもそいつらは人を襲い、貪るような暗黒世界が広がっていた。
周囲には崩れたブロック塀に埋もれ、息も絶え絶えで瀕死の女性、大木の枝に突き刺さり,目と内臓が飛び出ている明らかに死亡している老人、その足元には体が真っ二つに裂けた小学生、道の中央に倒れ伏す首のない小太りした中年男性、母を求めて泣きじゃくる幼稚園児。ここは本当に日本なのか疑わしい。アニメなどでよくあるゾンビ系にありそうな状況だ。後ろを振り向くと血涙を流している母が奇声を発する。その瞬間,母とゾンビどもが一斉に追いかけてきた。帰宅部が持つ謎の運動能力を駆使し,僕は全力で逃げる。だが,数分と持たず体力がつきかけていた。
「はあっ、はあ、もっと運動しておけばよかった。」
とりあえず近くのマンホールに隠れる。
下水の匂いがひどいが、ヤツらに見つかるよりマシだ。少し上を覗いてみると、僕を探す奴らがいた。このまま下水を通っていけばバレることはないだろう。だが、僕は後悔した。
下水の方が奴らがたくさん溜まっていたからだ。
僕は急いで下水から出て,全力で走り出す。
奴らもそんな僕を見つけたらしく、追いかけてくる。民家の塀の後ろや,自販機の影など色々な場所に隠れるが、その尽くを見つけ出されてしまう。
もしかして奴らには探知能力があるんじゃないだろうか?僕はそう思った。多分だが嗅覚などが異常に発達しているのではなかろうか。
そんな中僕は目的地を定めた。そう、志樹の家だ。
幸い彼の家はここから走って15分ほどだ。
この異変が収まるまで匿ってもらおう。
僕は全力で走り出した。
その時、急に母たちが僕が向かっている方向とは見当違いの方に走り始めた。
ラッキーだ。このまま急いで彼の家を目指そう。
街に徘徊している奴もいるので,そいつらに気をつけながら僕は全力で走った。走って,走って,走りまくった。10分ほど走り,息も絶え絶えになりながら,彼の家にたどり着いた。
インターホンを鳴らす。
……………返事がない。
ドアノブを捻ると,扉は開いていた。
恐る恐る彼の家に入ると、そこには
すでにゾンビと成り果てた親友の姿があった。
僕の頬を涙が伝う。
絶望していた。その一瞬で親友は距離を詰め、
いつ伸びたのかも分からない鋭利な爪で僕の胸を深く切り裂いた。僕は吐血した。その後も何度も何度も、僕は親友に切り裂かれてしまった。特に腹部と顔は損傷が激しく,目と消化器官と思わしき内臓が飛び出ていた。身体中が血まみれだ、止まらない、体から大事なものが失われていく喪失感があった。このままだと確実に死んでしまうだろう。血が出過ぎたのか、身体が氷のように冷たい。目の前にまで迫っている死。常人なら精神が崩壊することだろう、もちろん僕だってそうだ。
いや,違う。母が狂った時からもう壊れていたんだ。
突然、志樹が僕の前にしゃがみ込んだ。
爪はいつの間にか短くなっていた。
何をしているのだろうか、霞む視界がとらえたのは
虚な目で、僕の体を貪る志樹の姿だった。
声にならない声が飛び出す。
僕はなぜ生きているのか不思議なほどにボロボロになっていた。僕の意識は,ここで途絶えた。
……どれほど時が経っただろうか,数分か,数時間か、思考が途切れ途切れになった時、視界が真白に輝いた。そうか、、これが走馬灯なのか、、。
見えたものは、虐められていた時の記憶の中に笑顔で手を振る母とにこやかに語りかけてくる志樹の姿だった。ぐしゃぐしゃになった顔から涙が溢れ出した。不意に志樹が立ち上がった。僕の残骸を踏みつけ、いつの間にか晴天となった暗黒世界に消えていった。
その日は快晴。血で染まった金木犀が舞っていた。
ザザッ、えー、本日未明、〇〇町で集団失踪事件が起きました。死亡者は一名。警察はこの事件について詳しくしらべていk……………………ツーーーープツッ