表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

レーザーおじさん

 昔、近所の公園にうなだれおじさんという、おじさんが居たんです。


 住宅に囲まれた小さな公園で、うなだれおじさんを見ない日はありませんでした。


 うなだれおじさんはいつも公園のブランコに座ってうなだれていました。だから僕たちのような近くの学校に通う小学生の間では噂になっていたんです。


「陽太。うなだれおじさんをからかってこようぜ」


 陽太、というのは僕の名前です。


 ある時、友達の一人が僕を誘いました。うなだれおじさんをからかってみようと、おじさんが何かしようとすれば、すぐにブザーを鳴らして逃げれば安全だって、友達は皆そう言っていました。だから僕も軽い気持ちで友達の誘いに乗ってしまったんです。


 ある日の放課後、僕たちはブランコに座るうなだれおじさんを囲むように立ちました。その時僕たちは六人くらいいたかな。防犯ブザーもあったし、その時は怖くありませんでした。僕はうなだれおじさんの正面に立っていても怖さを感じていなかったのです。


「うなだれおじさん、今日もうなだれてらあ!」


 皆が口々に同じことを言います。今になって思えば恥ずかしいことです。いじめと何も変わりません。だから、僕は痛い目に遭いました。


 おじさんの手元で何かが動いた時、僕はぼけっとしていました。死んだり、ケガをしたりする恐れすらなかったのです。どうしようもなく馬鹿だったと思います。そうして、何かから赤い光が出てきました。赤い光が出たのだと思います。


 直後、僕の目は猛烈な痛みに襲われました。焼けるような痛みです。うずくまって涙を流しながら、僕はおじさんを見上げました。その時おじさんと目が合いました。


 あの顔を今でも覚えています。


 おじさんは嬉しそうにニヤニヤと笑っていて、それなのにどうしてか楽しそうには見えなかったのです。ただ、僕を見ながらニヤニヤとした笑みをした、あの顔のことを覚えています。


 友達が散り散りに逃げ、誰かが落とした防犯ブザーが鳴り響く中、僕はおじさんと見つめあっていました。その時、僕は片眼が見えなくなっていることに気付きませんでした。


 その後、騒ぎになって、近所の人が通報して、おじさんは青い服を来た人たちに捕まっていきました。後からわかったことなのですが、おじさんはその手に持っていたレーザーポインターの赤い光で僕の目を焼いたそうです。


 それから、僕の周りでは新たな噂が広まるようになりました。あの公園には、レーザーおじさんが出て来るそうです。手に持ったレーザーポインターを使って、子どもの目を焼くのだそうです。何度警察に捕まっても、必ず同じ公園に戻って来るそうなのです。


 僕には……もう関係のない噂です。おじさんに目を焼かれたあの日以来、僕はあの公園には近づきません。あれから随分と時が経ち、大人になった今も、あの公園には近づかなかったんです。


 ですが、ある日、僕はタクシーに乗りました。タクシーはたまたま、あの公園の前を通り、僕は見つけました。見つけてしまいました。


 白髪は増えていました。もしかしたら、昔より背は縮んでいたかもしれません。それでも、一目で分かりました。あれは、あの日僕の目を焼いたおじさんでした。


 朝の公園のブランコで、レーザーおじさんはうなだれていました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ