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9. ロクサーヌの失言

ロクサーヌサイドの話です

 ガーデンパーティーから二週間ほどが過ぎたある日の昼下がり、ロクサーヌはマイヨール家のサロンで、ある人が来るのを待っていた。

 

 ロクサーヌは今日、その人物に忠告をする為にアイリーシャに頼んで、彼女をここに呼んで貰っていたのだ。


 そわそわした気持ちで、その人物の到着を待っていると、扉の外からアイリーシャとその人の話し声が聞こえてきたので、ロクサーヌは待ちきれなくなって思わず席を立ち上がると、扉を開けて自ら出向いたのだった。


「遅いですわ!マグリット・レルウィン!」


 ロクサーヌが待っていたのは、ヴィクトールとエリオットの密談に出てきた、侯爵令嬢のマグリットであった。


「ロクサーヌ様?!」

 この場に居るとは思っても見なかった人物の登場に、マグリットは思わず大きな声を出して驚いていた。


 それもそうだろう。


 アイリーシャとロクサーヌが個人的に仲良くしている事など今まで無かったので、彼女がここに居るなどと誰も思わないのだ。


 これはどういう事なのかと、マグリットは困惑しながらチラリとアイリーシャの方を見ると、彼女はいつもと変わらず穏やかな様子でマグリットとロクサーヌを引き合わせたのだった。


「えぇ、そうなの。ロクサーヌ様がマグリットとお話ししたいって言うので、お呼びしたのよ。」

「あら、そうなんですの?私とお話を……?」

 アイリーシャの説明に、マグリットは小首を傾げながらロクサーヌの方を見遣った。彼女から自分に一体何の話があるのか、皆目検討がつかないみたいだった。


 するとロクサーヌは、背筋をピンと伸ばして難しい顔をしてマグリットを見つめ返すと、大真面目に無茶苦茶な事を言い出したのだった。


「マグリット様にご忠告がありますの。良いですこと、貴女、私のお兄様から最近手紙やら贈り物やらが届いているようですが決して勘違いなさらないことね。お兄様は貴女のことなんて、これっぽっちも好きではないのだから。」

「……私は喧嘩を売られているのかしら?」


 あまりの事に、マグリットは一瞬言葉を失った。確かに彼女の兄で有るヴィクトールからはあのガーデンパーティー以降、贈り物やらお誘いやら、様々な接触があったのだが、だからと言って、ロクサーヌにこのように傲慢な物言いをされる謂れは無いのだ。


「マグリット落ち着いて。ロクサーヌ様も、伝え方が悪いですわよ!」

 二人の間に険悪な空気を感じて、アイリーシャは慌てて間を取りなした。


 何故ロクサーヌがマグリットとの会話を望んだのかと言うと、兄で有るヴィクトールが企んでいる計画にマグリットが利用されないようにとの親切心からだったのに、どうも彼女は伝え方が下手なのだ。


「お兄様が貴女にアプローチをしているのは家の為……ううん、お兄様ご自身の為ですわ。そこを誤解なさらないように。とにかく、間に受けて貴女に何の得も有りませんわ。」

「私に得が無いかと言ったら、そんな事はないでしょう?ヴィクトール様は、ノルモンド公爵家の嫡男で、次期公爵なのだから。」


 貴族の婚姻なんて家同士の結び付きを強める手段となるのが殆どだ。

 だからマグリットも、ヴィクトールが自分に近付くのはそう言った意図があっての事だと思っているし、逆に考えれば、格上の公爵家と繋がりが持てるのはマグリットのレルウィン侯爵家にとっても悪い話では無いのだ。


 それをマグリットが望んでいるかはまた別の話だが、どうにもロクサーヌの言い方がイラッとしたので彼女もつい、ロクサーヌと張り合ってしまったのだ。


 するとロクサーヌは、マグリットからの反感が予想外だったのか、急に不安げにしどろもどろになって、それでも彼女を自分の兄から遠ざけようと、説得になっていない説得を続けたのだった。


「そ……それはそうですけど、でも、駄目なのです。マグリット様がお兄様を受け入れてしまったら、貴女もきっと、良く無い事に巻き込まれてしまいますわ!」

「……良く無い事……?一体何に巻き込まれると言うの??」


 ロクサーヌの態度に訝しがりながら、マグリットは彼女が漏らした言葉を拾ったが、これだけでは何の事だか全く分からない。


 彼女は一体何が目的なのだろうか。


 不信感ばかりが募って意図が何一つ分からない事にマグリットは戸惑っていたが、しかしロクサーヌは、それでも本意を明かさなかった。

 滅多やたらな事は他の人に言うべきでは無い。そう手紙に書かれていたから。


「いっ……言えませんわ……!!マキシム様も滅多な事を他人に言わない方が良いって言ってましたし……」

「マキシム様ですって?!」


 ロクサーヌは頑なに、マキシムからの忠告を守ってヴィクトールが企んでいる(とロクサーヌが思い込んでいる)国家転覆計画について明かさなかったのだが、けれどもその所為で、自分でも気づかない内に他の余計な情報を、マキシムの名前をついうっかり漏らしてしまったのだった。

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