3. 疑惑と陰謀のガーデンパーティー1
そして迎えたある晴れた日の午後。
レオンハルトの思い付きで、本当にガーデンパーティーが開催されてしまったのだ。
王太子に招待された面々は、王都の外れにある王室所有の国有林に集まって、殿下とその婚約者が共同で主催するガーデンパーティーを柔かに華やかに楽しんでいた。
そんな中、王太子の側近の一人マキシムも、今日は次期スタイン公爵という名目で招待客の一人として参加していたのだが、彼の表情はこの晴れやかな空とは対照的に引き攣った笑みを浮かべていたのだった。
何故なのか。
マキシム案内された円卓には、既にレオンハルトとその婚約者であるレスティア、そしてレスティアともミューズリー系譜のマキシムとも折り合いの悪い、ノルモンド公爵家のロクサーヌが着席していたのだ。
何故このメンバーで席を固めたのか。
マキシムはこの席次に、レオンハルトからの強い企みを感じざるを得なかった。
「レオンハルト殿下、レスティア様、本日はお招き頂き有り難うございました。」
ほぼ棒読みで形式的にマキシムはレオンハルトに頭を下げた。内心は全く有難いなどとは思っていないのだが、主君なのだから仕方ない。
「やぁマキシムよく来たね。そちらの席へどうぞ。今日は存分に楽しんでいってくれたまえ。」
にこやかにレオンハルトはマキシムを歓迎し、横に座るレスティアも微笑んでマキシムに応対した。そして残るもう一人ロクサーヌは、嫌悪感を隠そうともせず不機嫌そうな顔で、マキシムをじっと睨んでいたのだった。
(うん、地獄かな?)
そんな事を思いながら、諦めの境地で彼は席に着いたのだった。
「ロクサーヌ嬢は久しぶりだね。息災だったかい?」
お茶の席は、レオンハルトの穏やかな一言から始まった。彼はまずはロクサーヌに声をかけると、彼女はとても嬉しそうに近況を話し始めた。
「はい殿下。変わりはありませんわ。最近は多くの家の方々との交流に力を入れていまして、男爵家や子爵家の方とも積極的に意見を交換しておりますの。彼らの意見はとても有益ですので、殿下にも是非聞いていただきたいですわ。」
「そうだね。私は男爵や子爵とは中々話す機会は無いからね、彼らの話を聞いてみたいものだな。」
「それでしたらお任せ下さい!そういった会を設けますわ。殿下の隣に座っているだけのレスティア様にはきっと出来ない事ですからね。」
そう言ってロクサーヌはチラリとレスティアの方を見て勝ち誇った様な笑みを浮かべた。
先制パンチである。
(ひぇ……)
横で聞いていてマキシムは思わず心の中で小さく悲鳴を上げた。ロクサーヌの皮肉はあまりにもストレートなので聞いてるこっちがハラハラするのだ。
これに対して一体どう返すのかとレスティアの様子をチラリと伺うと、流石王太子妃に選ばれるだけあって、彼女も負けてはいなかった。
レスティアは全く意に関していないと言った感じで美しい笑みを浮かべると、負けじとロクサーヌにジャブを打ち返したのだ。
「えぇ、ロクサーヌ様はお元気そうですよね。お噂は兼ね兼ね聞いておりますわ。日々お茶会やら夜会やらを開催して、ありもしない噂話を広めるのに精力的に動いてますものね。」
「まぁ、なんのことかしら?私はただお付き合いがある方が多いから、それだけ多くお茶会や夜会を開催しているだけですわ。それに比べてレスティア様の主催するお茶会や夜会の話は殆ど聞きませんわね。レスティア様は人望が無いのではありませんか?」
「まぁ、私は王妃教育で忙しくてそういった時間を中々取れないのですよ。だからお時間があるロクサーヌ様がとても羨ましいですわ。」
降り注ぐ日差しは暖かい筈なのに、このテーブルだけまるで真冬の様に冷たい吹雪を感じた。開始数分でコレだから溜まったもんじゃない。
マキシムは黙って給仕された紅茶を啜ったが、この居心地の悪さにお茶の味など全く分からなかった。
(この雰囲気を一体どうするおつもりなんだか……)
マキシムはレオンハルトの様子を伺ったが、涼しげな表情でお茶を飲み、飄々と本気でこの雰囲気を楽しんでいるようだった。
そうだった。
こういう人だった。
彼がこの場を収めるなんて事は到底しないと悟って、ますますマキシムは居た堪れなくなった。
この場から逃げたいのに逃げられない。
いっそこのまま石になろうか。
そんな事を考えていると、従者が一人やってきて何やらレオンハルトに耳打ちをしたのだ。すると彼は「分かった」と頷いて、席を立ち上がったのだった。
「すまない、ちょっと呼ばれたので少し失礼するよ。」
(はぁ?!!)
この雰囲気の場に、自分だけを残して行くのかと、この時ばかりは本気でレオンハルトを殴りたい気分だった。