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手を振るあなた

作者: 浦田茗子



 私は、旅先の東北で、小さな美術館に寄ることにした。

 取り立てて観たいものがあったわけではない。すでに温泉と郷土料理に満足していたから、帰りの新幹線までのんびり過ごそうと思ったのだ。


 美術館には、バブル時代のハコモノの雰囲気があった。自動ドアを入ると、右手の受付カウンターに、めがねの中年女性が一人。

 私は、左手のエントランスの色あせたソファに座り、麦わら帽子をぬいだ。梅雨入り前だというのに、天気予報によれば、30度の夏日だ。灰色のエントランスが、クリーム色に照らされていた。


「ごゆっくりご覧ください」

受付カウンターで入館料を払うと、そう声をかけられた。私は、コロナ明けの開放感に安堵して、展示室へ向かった。


 開催中の展覧会は、アジアの鉄道旅行の写真展だった。1980年代から2010年代の、すこし懐かしい空気感のパネルが並んでいる。


 線路ぎりぎりまで店を広げる、行商。

 途中下車できないほどぎゅうぎゅうに、電車の屋根にまで乗っている人々。

 電車の網棚に座って、にこにこしている幼い子。


 最後の方で、電車の車窓から写した、日本の青田があった。

 少女が二人、あぜ道を自転車で走りながら、こちらに手を振っている。自転車や背丈から見て、小学校中学年くらいだろうか。

 表情まではわからない。でも、手を振っているのも、手を振られているのも、私かもしれない。そう感じた。






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― 新着の感想 ―
[良い点] ノスタルジックで味わい深くていいですね。
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