森の奥
三題噺もどき―にひゃくごじゅう。
「……しまった……」
ここどこだ。
思いきり道に迷った。
森?林?木がたくさんあることしかわからない。
「……えーと…?」
朝起きて。元々、出かける予定だったから。
いろいろとまぁ、準備を始めて。
……なんか、ものすごく前の時間からさかのぼっているが、許してほしい。
「……」
まぁ、それで。
今日は一日休みだから、久しぶりにカメラでももっていこうと思って。
写真は趣味程度だが、それなりに続いている趣味の一つだ。
「……」
カメラバッグをもって歩くのは、面倒なので。
褒められたことではないが、カメラを首にかけ、バッテリーを鞄の中に入れ。
レンズは、もともと望遠をつけている。もう一本広角を持っていこうか迷ったが、いつも使はないので今日はおいてきた。
「……」
それで、さぁと出かけて。
目的地は、小さなお寺。人気のない、穴場スポット的なところだ。
…本命は、その近くにあると言う小さなカフェなのだが。
「……」
それでまぁ。
地図を見た限りでは、お寺の近くあたりだったから。
車は、そこに停めたまま。歩いていけばいいかと思い。
歩きながら、写真を撮りながら、適当に道なりに進んでいたのだが。
「……」
少し森(林?)の奥に来ているのか、地図を開こうにも電波が悪く。
ろくに働きもしないこの、地図。ずっと、くるくる回っている。
まぁ、ここまでちゃんと地図も見ずに、なんとなく頭に入っていた道で歩いていたのがよくないんだろう。その上、意外と目に留まるものが多くて……それを追いながら写真を撮っていたら。
「……」
こんな所にいた。
「……どこ…?」
ホントに、ここはどこだい。
お寺からは少し離れた位置だろう。
道は、あるにはある。
舗装はされてはいなくとも、綺麗にならされている。ということは、少なからず人の行き来はあるのだろう。
「…ん…」
まぁ、普通。
迷子になったということに気づいた時点で、下手に動くことはおすすめはしないが。
底で動くから、迷子になるんだろうな。
「……」
道の先に。ふと。
目に留まるものがあった。
ついふらっと、そちらに足がつられてしまった。
―が、今回はいい方向に動いたようだ。
「……かんばん…」
えらく古びたような、板が立っていた。
多分、古びたっぽくしているのだろう。
アンティーク加工とかいうやつだろうか。
「――カフェ?」
ん。
まてこれ。
行こうとしていたカフェじゃないか?
なんだかものすごくあやしさがあるが……。名前は確かにこれだし。
これ以外の目印になるようなものがない。
この看板の言うとおりに、この先にそのカフェがあるのなら、そこに行って。
その後に道をたずねればいいだろう。
「……よし」
とりあえず、いってみるか。
なくてもまぁ、何かはあるだろう。
先も行ったが、人の行き来はあるようだし。
足跡らしきものもある。―これが、動物とかだったら速攻帰るが。
いや、そもそも帰り道も分からないのだが。
:
「……あった…」
あの看板から。
ほんの数分ぐらいだろうか。案外近くにあった。
木々に囲まれた森の先。
ぽつりと立つ、小さな建物が、急に現れた。
見た目は今はやりの、古民家っぽい。
……外に置いてある置物は、少し賑やかというか。やりすぎ感が否めないが。
それでも、不思議と違和感という程におかしくはないから何とも。
「……」
入り口……は。
あそこか。
開いているのか不思議だったが、ちゃんと『open』の看板が置いてあった。
ランチとかもしているようだ。時間的に、微妙だが。
「…おじゃましまーす」
思わず、小声でそんな言葉が漏れた。
そういえば、こういうカフェって、あんまり行ったことなかった。
おしゃれなところ難しい……。
「……」
恐る恐る、店内へと入っていく。
これまた、いい雰囲気だ。
ぼんやりと光るランプ。
森の奥だからか、外からの光はあまり頼りにならない。
灯りは、ほとんどこのランプのみ。
「いらっしゃいませ~」
「!?」
いやまぁ、店員はいて当たり前なのだが。
あまりに急すぎて驚いた。
人の気配すら全然しなかったのもだから。
―いや、というか。
「お好きな席へどうぞ~」
……人の気配は相変わらずしないのだが。
声だけが聞こえてくるのだが……。
どういうこった。
「――お客様?」
「わっ!?」
つい声が上がった。
だって、いきなり隣に人が現れたら誰でも驚くだろう。
「あ、ごめんなさ」
「いえいえ、こちらこそ。驚かせましたね」
ニコニコと、気持ちのいい笑顔で応えた店員さん。
同年代ぐらいだろうか。可愛らしい女性だった。
全体的にふわふわした感じが、している。
「こちらへどうぞ、」
「あ、ありがとうございます」
店の、少し奥の方に案内された。
外の景色が見えるようになっている。
おぉ。すごい。
「本日ランチは終了しておりまして、デザートのみになりますが、よかったですか?」
「あ、はい。すいません時間……」
「あぁ、いいんです。ここ、分かりづらいでしょ?」
―では、少々お待ち下さい。
そういって、奥の方に引っ込んでいった。
彼女1人でやっているのだろうか。
慣れないカフェの雰囲気に、少しそわそわしてしまう。
しかしホントに、いいところだなぁ。静かで落ち着く。
「お待たせいたしました~」
はや。
え、そんなに早いものなのか?
「本日のデザートは、メロンケーキです」
そう言って、コトリ。と置かれた皿のうえには、1つのケーキがおかれていた。
「わぁ……」
思わず、感嘆の声が漏れる。
可愛らしく飾り付けられた、メロンのケーキ。
薄緑色の果肉が、綺麗に並べられており、丁寧さがうかがえる。
「どうぞ、めしあがれ」
「いただきます」
いっしょに添えられた、銀色のフォークで、さくりと一口大に切る。
そのまま、口に運び入れる。
「……っ~」
口に入れた瞬間、ふわりと広がるメロンの香り。
その味を邪魔しないように、甘さ控えめのクリームがまたいい。
スポンジも程よい柔さで、口当たりがよく、すべてのおいて完璧だった。
「…おいしい」
「ふふ、よかった」
いつの間に目の前に座っていたのか。
彼女はにこやかに笑う。
「久しぶりのお客様だったから、少し本気出しちゃいました」
「そうなんですね、すっごくおいしいです」
だから、こんなに人が居ないのだろうか。
ラッキーと言っていいのか、分からないが。
彼女が、腕によりをかけて作ってくれたのならば、食べる側としてはありがたいことこの上ない。
:
「ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ。長話してしまいましたね」
あれから。
ケーキを食べながら、彼女と二人で話をした。
仕事の事とか、恋愛の事とか、他愛ないことだが。
なんだかものすごく、身体が軽い。
「この道を真っすぐ行けば、お寺にでるはずですよ」
「わかりました。ありがとうございます」
店の外にまで、見送りをしてくれた彼女に礼を告げ。
軽く会釈をしながら、帰路につく。
んーなんだか、名残惜しい。
今度来るときは、迷わないようにしなくては。
ランチも食べてみたいところだし。
お題:メロン・森・写真